外国人が『魚拓』に夢中。始まりは“敵将を打ち取った証”?

  • 埼玉の住宅地に外国人がなぜか集結
  • 釣りは武士のたしなみ…魚拓は討ち取った敵将の証だった!?
  • 性格がモロに出る…奥が深すぎる魚拓の道

埼玉県東松山市の住宅街、観光地でもないこの場所に、外国人の集団が現れた。

たどり着いたのは一軒の民家。彼らは、家に入るなり目を輝かせて一様にこう言った。

「スゴイ」

家中に飾られていたのは魚の画…ではない。

これは「魚拓」。この民家を訪れる彼らの目的は、この魚拓だった。

中でも全長10mを超えるダイオウイカの魚拓は国立科学博物館の協力の元、実際のイカを使って作ったもので、製作日数1か月を越える超大作だ。

魚拓といえば墨でできたものを想像するが、現代の魚拓はカラーへと発展。海外でアートとして高く評価されている。19日放送の「報道プライムサンデー」では、この「カラー魚拓」を取材し、紹介した。

カラー魚拓の第一人者、山本龍香さん。かつては、世界をまたにかける商社マンだったが、脱サラし、魚拓の道を極めた。名優ロバート・デ・ニーロ氏が、山本さんの鮭児の原画を所有しているなど、今や日本の魚拓は世界が認める芸術作品なのだ。

山本さんのアトリエには、自身の作品が多く展示されている。シャチは約100万円、全長2mのカジキは約90万円、マグロは約30万円とそれぞれかなり高価なものだ。

魚拓は「討ち取った敵将」の証

魚拓は、江戸後期の日本で始まったという。泰平の世が続く中で、武士の鍛錬方法の一つとして釣りが重宝されたのだった。戦略を練り、静かに標的を待ち、仕留める釣りと武士道には、相通じるものがあったからだ。

魚の大きさは、すなわち敵武将の強さ、釣った魚を紙に写す魚拓は、“敵将の首”とでもいうのだろうか、藩主に功績を伝える、いわば活動報告書と考えられていたという。

そんな魚拓に関して、外国人たちは作品の美しさだけでなく、作り方にも興味を持っていた。これまで山本さんから指導を受けた外国人は2000人以上。この日もフィンランドからの観光客、そして日本在住のオーストリア人らが門をたたいた。

「今日のお魚はライトサイドアイフラウンダー、日本語ではカレイと言います」と英語で説明を始める山本さん。

この日の題材は、カレイ。もちろん本物の魚を使う。

前日、山本さんはこの日の為に、下処理をしていた。カレイの内臓をとり、表面のぬめりを取ってそこに特殊な糊を使ってシルクを貼り付ける。生徒たちはシルクの上から、タンポと呼ばれる道具を使い、インクを塗り重ねていく。

この技法は「関接法魚拓」と呼ばれ、さらに色彩を進化させたのが「カラー魚拓」だ。山本さんは、自由に描くことを勧めるが、一つだけアドバイスをする。

「色を付ける時に適当にやってはダメです。同じところに30回程です。強くしてはダメ、横に滑らすのもダメ」

トントントンと押し叩くように塗る、地味な作業を続ける。我慢と忍耐、これがカラー魚拓の秘訣だ。
最初にベースとなる黄色を塗る。すると、魚の姿が浮かび上がる。そして赤、色彩に深みが増す。最後にこげ茶。薄い色から濃い色へと、3色を順番に塗り重ね、魚の質感を写し取る。製作時間は約3時間。

性格がモロに出る…深すぎる魚拓

山本さんが「黄色は基本的な色、女性で言えば基礎化粧品です。赤を強くすれば、最終的には茶色を塗ってもまだ赤色が強い魚になる」と話すように、赤色が作品の表情を決め、さらに、トントントンの正確さ、強弱が仕上がりを左右するのだ。

アトリエには沈黙の時が流れた。外国人たちは心を落ち着かせ、魚と向き合う。ウロコ一枚一枚を感じながら、作業を続ける。そろそろ、完成の時が近づいてきたが…。

外国人観光客は「かなり濃くなったのかなと…魚の形を際立たせるために茶色を押しすぎちゃったかもね」「これは焼き魚ね」などと、感想を言い合う。

魚拓は「人の性格も浮き彫りにする」と山本さんは語る。作品からその人の性格が、読み取れるのだ。確かに人それぞれ繊細だったり、雑だったり、色合いが違ったりと個性が出ている。

実際に体験したフィンランドからの観光客は、「忍耐だよね。僕は我慢ができない人間なんだ。魚拓はとっても忍耐がいる作業。僕に欠けている我慢強さをここで得られたらいいなって」と初めての体験を喜ぶ。

魚拓上達の道は険しく、先は長い。この道40年の山本さんのカレイは、さすがに出来が違う。間違いなく、世界が認めるアートだ。出来栄えはそれぞれ違うものの、共通することをみつけた。全員が笑顔だった。

外国人観光客は、「魚拓が平和で、穏やかな気持ちにさせてくれました」「一つの作業に集中することですごく精神的に落ち着けた」「これこそ日本の文化だと思う。山本先生のおかげで、世界中に魚拓を知っている人や習っている人がいる。魚拓は、とにかく素晴らしい文化だと思う」などと満足そうにしていた。

魚拓というと、“古くさいもの”のようにも感じられ、多くの日本人は馴染みのないものと思っているかもしれない。しかし、こうして外国人たちが目を輝かせているのを見ていると、日本人が気づいていない日本の魅力がまだまだあることに気づかされる。

(「報道プライムサンデー」8月19日放送分)

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