F-35A戦闘機:もうひとつの米=トルコ問題が生む波紋

カテゴリ:ワールド

  • トルコ・リラ下落問題と並行して、米=トルコ間に新たな問題
  • 米議会は、トルコの露S-400防空システム導入を問題視
  • トルコへのF-35引き渡しは・・・

トルコ・リラ下落問題と米国防権限法成立

トルコの通貨下落問題を、世界の市場関係者が固唾をのんで見守る中、8月13日、トランプ米大統領は、ニューヨーク州の米陸軍フォートドラム基地に出向き、AH-64攻撃ヘリコプターを背景にして、2019会計年度国防権限法に署名した。

AH-64の前で演説するトランプ大統領

その金額は、約7160億ドル(≒約80兆円)、この9年間では最大規模とされる。トランプ大統領は演説でF-35戦闘機の発注・核戦力の近代化、ミサイル防衛の強化などをうたった。

米国の国防権限法は日本の国家予算と異なり、上下両院での審議の際に議会の詳しい議員から様々な注文が付けられ、法案と一体化する。
今回の2019会計年度国防権限法で注目された、議会サイドからの注文のひとつはトルコとの関係だった。

米政権の対トルコ制裁

米=トルコ関係悪化の原因のひとつは、2016年にトルコで起きたクーデター未遂事件に関わったとして、米国人の牧師が拘束されたこと。

米政府は釈放を要求し、トルコ政府の閣僚に制裁を科した他、トランプ大統領はトルコに対し、アルミ=鉄鋼関税を上げると表明している。米国との関係悪化が、トルコの通貨リラ下落の要因とも言われている。

米議会、トルコの露S-400防空システム導入を問題視

だが、2019会計年度国防権限法審議にあたって、米議会はトルコとの関係で別の要求を米政府に突き付けた。その原因はトルコがNATO加盟国であるにも関わらず、ロシアの新鋭防空及びミサイル防御システム、S-400の導入を決めたこと。

ロシア・S-400

S-400 の配備によって、F-35戦闘機にもたらされる運用上およびカウンターインテリジェンス(防諜)上のリスクの評価、及びこれらのリスクを軽減するために必要な手順を含めた米=トルコ関係の報告書を国防権限法成立後90日以内に提出するよう、国防長官と国務長官に求め、S-400問題と絡めて、F-35戦闘機のトルコへの引き渡し停止を国防省に求めている。

F-35A戦闘機 vs S-400防空システム

カウンターインテリジェンス上のリスクとは、ずいぶん厳しい表現だが、トルコはF-35戦闘機100機の導入を希望し、最初のF-35A戦闘機を今年6月に米国内で受領した(タイトル画像:F-35ウエッブサイトより)。そして、トルコ空軍のパイロットが米本土のルーク空軍基地で16か月間の訓練を開始したばかりだ。

F-35戦闘機

トルコへのF-35の引き渡し(トルコ空軍の国籍マークを付けたF-35A:上画像参照)やパイロットの訓練にどんな影響が出るかは現時点では不明だが、NATO諸国が中東方面への作戦に使用しているトルコ国内のインシュルリク基地の使用への影響はどうなるか。

また、NATO諸国のみならず日本も導入したF-35戦闘機だが、トルコ軍がその両方を配備すれば稼働中のS-400のレーダーの前をF-35が飛ぶということもありうるのではないか。

日本が導入したF-35戦闘機

S-400の輸出国であるロシアはトルコにS-400を引き渡せば、その後、保守・点検を一切しないとは考えにくい。すると、そのステルス性を含めF-35の性能がS-400防空システムのレーダーに有効かどうか。ロシアにとっては自国の戦略上、極めて重要な情報だろう。

トルコでの経験に基づいて、もし、ロシアが性能を向上させたS-400に対して、F-35に弱点が発生するということであれば、日本の安全保障上も無視できないことになるだろう。トルコ政府の対応が気に掛かるところだ。


関連記事:「能勢伸之の安全保障」をまとめて読む

能勢伸之の安全保障の他の記事