何回もテイクを重ねて…。映画『ペンギン・ハイウェイ』が出来るまで

  • 20~30代が中心の新進のアニメスタジオの作品
  • アオヤマ君の"まっすぐ"なところに感じた瑞々しさ
  • コーラ缶がペンギンに変わるシーンは何回もテイクを重ねた

国内外のアニメ業界で熱い視線が注がれる、スタジオコロリドをご存知だろうか。

設立は2011年。所属するアニメーターの多くが20〜30代という新進のアニメスタジオだが、注目されているのは若さだけではない。

“紙とペン”が主流である日本アニメの制作現場で、液晶タブレットやデジタルソフトを本格導入し、短編映画やテレビCM、アーティストとのコラボレーションムービーなど幅広く手がけ、その卓越した表現力で高い評価を得ている。

そんな彼らが新たに挑戦したのが、初の長編アニメ映画『ペンギン・ハイウェイ』だ。

森見登美彦の同名小説を原作に、小学4年生のアオヤマ君が体験した一夏の不思議なできごとを躍動感のあるアニメーションで鮮やかに描き出している。

この作品の制作の裏側を、監督を務めた石田祐康とキャラクターデザインを手がけた新井陽次郎の2人に聞いた。

(左から)石田祐康監督、新井陽次郎さん

原作を尊重し、見どころシーンは盛る勢いで

ーー今作は森見登美彦さんの小説が原作ですが、石田監督は初めて読んだ時、どのような印象を持ちましたか?

石田:
瑞々しさが際立ってるなと思いました。それはなぜかというと、他の森見作品に出てくる主人公は、自分のことを「不恰好」だと自覚しつつ開き直っている人物が多いんですが、主人公のアオヤマ君はそれがない。

本人はいたって大真面目なんです。いや、端から見るとおかしなことを言っているんですが、彼は正しいと信じているので、そういうまっすぐなところに瑞々しさを感じたのかなと。

だから、アニメにするときもそこは失わずに描きたいと思いました。

他のキャラクターについてもそうですね。結構、過激なセリフを言い放つ場面もありますが、本人たちは真剣なので、そういうストレートな感情表現は守りたいし、逃がしたくないと思いました。

ーー原作は400ページ近くありますが、約2時間の映画にまとめるためにどのような工夫をされたのでしょうか?

石田:
キャラクターの感情の動線やストーリーのピークを見極めて、絶対にはずせないエピソードを抽出していきました。

カットした場面もありますが、逆に見どころのシーンは小説よりも盛るぐらいの勢いで作りこみました。ただ、ギリギリまで迷って落としたシーンもあって、今考えるとそれも入れられたらよかったなとちょっと後悔してはいるんですが。

アオヤマ君のキャラクターを掴むのに苦労

ーー真面目で少々大人びている主人公のアオヤマ君以外にも、つかみどころのない魅力的なお姉さん、クラスで“スズキ帝国”を築いているスズキ君など個性的な人物がたくさん登場します。新井さんはどのようにキャラクターをデザインしたのでしょうか?

新井:
原作の表紙に、くまおり純さんが描いた絵があったのでそれをベースに、監督からのオーダーも合わせて立体的に仕上げていきました。

実は、アオヤマ君のキャラクターを掴むのは結構苦労したんです。

彼は小学生だけど、すごく背伸びをしている少年で、小説を読んだときは、けっこう早口でオタクっぽい男の子を想像していました。

でも、原作者の森見さんはアオヤマ君に対して「天才少年」というキャラクター像を持たれていたので、そこがブレないように、でもちょっとしたクセも残しつつという感じで作っていきました。

ガキ大将のスズキ君は個性が際立っていたので描きやすかったですね。お姉さんは難しかったですが。

アニメは技術が積み重なって作られている

ーーアオヤマ君がお姉さんに抱く淡い恋心など繊細な心理描写もありつつ、キャラクターの躍動感のある動きも印象的でした。コーラ缶がペンギンに変身したり、ジャバウォックという架空の動物も登場したりと、実際には存在しないこれらの動きはどうやって生まれたのでしょう?

新井:
アニメーション作家の久野遥子さんにいくつか動きの提案をいただいて、社内でとりまとめています。

石田:
コーラ缶からペンギンに変わる動きは、ウスケさんもアイデアを出してたよね。白と黒のグラデーションのかけ方とかねじれの形状とか、ハイライトの乗せ方とか細かなことを。

新井:
演出業務として全体のバランスを見ながら修正は入れています。久野さんのアイデアをどう使うのか、自分や監督も考えを出しながら作っていったという感じです。

石田:
これは絵描きの性分もあると思うんですが、自分たちが筆の乗るままに任せて描いた方が結果魅力的になるんじゃないかと。原案から実際の担当原画マン、演出、作監までいろんな人がアイデアを出しながら、試行錯誤を経てあの動きになっています。

実写映画の場合は、俳優の演技力に頼るところもあると思いますが、アニメはいろんな技術を持った人がそれぞれの力を出し合って積み重ねていくものなので。コーラ缶からペンギンに変わる動きが完成するまで何回もテイクも重ねましたし、葛藤もありました。

ーー葛藤というと?

石田:
細かい話になりますが、アニメーションは1秒間に最大24枚まで絵を入れられます。でも、あのシーンはほとんど8枚くらいしか入れていない。

ものすごく動いているように見えていたなら、それはそれでうまくいっているということになりますが、個人的には12枚、24枚と入れた動きもあってもよかったかなって。そうするともっと力強さが出ていた。ああすればよかった、こうすればよかったっていうのは結局どうやっても出てきますね。

映画『ペンギン・ハイウェイ』大ヒット上映中
北香那 蒼井優 西島秀俊 竹中直人ほか 

原作:森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』(角川文庫刊)
監督:石田祐康
脚本:上田誠(ヨーロッパ企画)
キャラクターデザイン・演出:新井陽次郎
主題歌:「Good Night」宇多田ヒカル(EPICレコードジャパン)
制作:スタジオコロリド
製作:「ペンギン・ハイウェイ」製作委員会
配給:東宝映像事業部