東京五輪「サマータイム」で日本人の睡眠はどうなるのか?専門家に聞いた

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  • 体内時計と生活のリズムがずれると体調に悪影響
  • そもそも日本人は睡眠時間が短い
  • 「猛暑対策は競技時間を変えれば済む」

「サマータイム」導入を検討

今年の日本列島は各地で猛烈な暑さとなっているが、2020年の東京五輪は大丈夫なのか?
東京オリンピックは7月24日~8月9日の開催予定だが、今年の7月23日は埼玉県熊谷市で観測史上最高の41.1℃となり、8月8日の岐阜県美濃市では41.0℃を記録した。
そんな暑さ対策の一環として突如浮上した「サマータイム」導入の是非を巡って様々な議論が巻き起こっている。

東京五輪組織委の森会長は、7日に安倍首相と会談し、夏に限り、標準時を1時間から2時間程度進める「サマータイム」を導入するよう提案。
安倍首相は「国民の関心も高い」などとして、自民党の部会でサマータイム導入について検討するよう指示した。

導入に積極的な意見がある一方、菅官房長官は7日の記者会見でも「国民の日常生活に影響が生じる」と述べ、否定的な考えを示している。

日本で過去に導入も4年で廃止

出典:サマータイム― 健康に与える影響 ―

そもそもサマータイムとは、100年以上も前の1916年にイギリスなどで導入された制度で、夏の時期の時刻を1~2時間早めて生活することで、日が当たる時間を有効活用する狙いがあった。
明るい時間に活動すれば照明に使うエネルギーを節約できるとして、欧米では広く実施されている。

実は日本でも1948年にサマータイムを導入したことがあったが、この時は残業量増加など労働条件が悪化したこともあり、4年後の1952年に廃止されている。

その後2007年になると、今度は省エネだけでなく「犯罪・交通事故の減少」や「文化的活動などが活発化することでの経済波及効果」というメリットがあるとして、サマータイム導入の議論が再燃。
これに対して、一般社団法人 日本睡眠学会は「サマータイム制度に関する特別委員会」を設置し専門家が検討した結果、メリットよりも健康への問題などデメリットのほうが大きいと結論付けた報告書を公表している。

健康への問題とはどんなことなのか?
同委員会の委員長を務めた、北海道大学の本間研一名誉教授に聞いてみた。

「体内時計と生活のリズムがずれると体調に悪影響」

――サマータイムによる健康のデメリットとはどういうことか?

1時間と言えども時間をずらすと、それに体が慣れるまでには何日か、人によっては何週間もかかります。
その調子の悪い期間が続くと、本当に体調不全になったり、事故につながったり、いろんな悪い影響が生じます。

――なぜ時間が変わると体調が悪くなるのか?

私たちの体の中にある心臓のリズムや、循環系のリズム、胃腸のリズムなどは体内時計によって決められてます。
普段はそういう「体のリズム」と、例えば食事や睡眠など「生活のリズム」が一致しているわけです。
体のいろいろな機能が、生活のリズムにあわせているんです。

ところが急に生活のリズムをずらすと、体のリズムと乖離が生じて、さまざまな悪いことが起きる。
夜に寝られなくなったり、食欲がなくなったり、循環系や胃腸障害、心筋梗塞など様々な影響が起きるんです。

出典:サマータイム― 健康に与える影響 ―

同委員会が2012年に公開した小冊子「サマータイム ー健康に与える影響ー」によると、ロシアはサマータイムの切り替え時期に救急車の出動や心筋梗塞による死亡者が増加し、省エネ効果がほとんどないとして2011年に廃止している。
また、スウェーデンはサマータイムで時刻が変わった直後の3日間は心筋梗塞が発症する危険率が5%高まり、逆に終わった直後は1.5%低下したという。

「結局、睡眠時間が短くなる」

それでは、サマータイムで日本人の睡眠はどうなるのか?
みんなそろって早寝早起きができるようになるのだろうか。

実は日本人の睡眠時間の推移を調べると過去50年間で59分短縮し、22時以降も起きている人が増加している。
また欧米各国と睡眠時間を比較すると30分以上も短く、韓国と「寝ない国」の世界トップを競っている。
サマータイムが導入されると今より早く起きなければならなず、ただでさえ眠りが短い夜型の人は寝不足になってしまう可能性もある。

出典:サマータイム― 健康に与える影響 ―

――サマータイムが導入されると日本人の睡眠時間はどうなる?

 1~2時間 時刻を進めると、確かに朝の出勤時は涼しくていいんですが、帰宅すると家がものすごく温まっていて冷めるまで暑くて寝られません。
そうすると寝る時間が相対的に遅くなりますが、朝は早く起きなくちゃならないので、結局、睡眠時間が短くなります。
これは以前の報告書にも書いています。


――睡眠時間が短くなる影響は?


そもそも睡眠時間が短い日本人は、国民の4分の1ぐらいが何らかの睡眠障害を持っていると言われています。
この状況でサマータイムを導入するのは非常に危険であるといえます。

(睡眠障害とは眠りに関わる様々な病気の総称。日中の眠気やだるさ、集中力低下などによって日々の生活に支障をきたすことがある)

――睡眠不足は体にどんな影響があるのか?

睡眠不足なると、注意力が散漫になり、作業能率が低下します。
徹夜をした次の日はなかなか普段通りの仕事ができない経験は誰にでもあるでしょう。
その結果カナダではサマータイムを導入した最初の一週間に交通事故が多くなるというデータがでています。

(※ただし、アメリカ・ミネソタ州は交通事故が減った報告が出ている。スウェーデンやフィンランドは変化なしと報告。)

出典:サマータイム― 健康に与える影響 ―

――再燃しているサマータイム議論をどう思う?

学会で議論する専門家の皆さんは、みんな「日本はサマータイムを導入しない賢い国だ」と言っています。
サマータイムを導入したら大変なことになるというのは研究者仲間では常識になっているんです。


――猛暑対策はどうすればいいのか?

対策は競技を開始する時間を変えれば済むわけです。
だけどテレビ放送の関係だったり、いろいろな理由があってできない。
その「ツケ」を、国民全体に影響が及ぶようなことをやって補うなんて全く本末転倒です。

本間名誉教授によれば、健康や睡眠にはあまりいい影響を及ぼさないというサマータイムの導入。
コスト面でも様々な議論が噴出しているが、いったいどうなるのか今後の行方を見守りたい。

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