日米FFR『夏の陣』を前に揺れるトランプ大統領

カテゴリ:話題

  • 日本側は絶対に失敗できない覚悟の布陣
  • トランプの悩みは『米国第一』路線の副作用
  • 2020再選戦略のレビュー次第で対日要求に変化も

日本側は絶対に失敗できない覚悟の布陣

日本とアメリカの新たな貿易協議=FFRの初協議が8月9日にワシントンで始まるが、直前になっても日本側は協議がどういう展開になるか読み切れずにいるようだ。
そんな場合の対処方針を極めて官僚的に一言でいえば、「あらゆる可能性を想定しつつ、日本の国益ファーストで慎重かつ適切に対応する」とでもなるだろうか。
要するに、アメリカ側のライトハイザー通商代表がどんな要求を持ち出してきてもその場でうまく収めるようにやるしかないじゃないかということだ。

だからだろう、日本側の茂木経済財政・再生相の脇を固める関係各省の顔ぶれは、次官クラスのつわものぞろい。全体としての人数は少なめだが、いちいち本省にお伺いをたてなくてもワシントンの現場で迅速かつ柔軟に判断し対応できる態勢だ。それは日本側がFFRの初協議を重視していることの表れだ。
ここで対応を誤ってFFRが具合の悪い方向に進んでいくことになったら9月の自民党総裁選、来年の参院選にどう響いてくるやもしれない。日本側にとっては、日米貿易協議『夏の陣』では絶対に失敗してはならないのだ。

日本側の基本方針は明瞭だ。
農業で譲歩しない。追加の自動車関税は避ける。FTA交渉はできる限り先送りする。
一方で、アメリカの対日貿易赤字の削減にはできる限り協力する。アメリカからのLNG=液化天然ガスや、イージス・アショアといった防衛装備品などの輸入を増やすことで、アメリカの対日赤字を迅速かつ大幅に減らす。
また、インフラ投資などトランプ大統領こだわりの政策に協力姿勢を示し、これまでも日本がアメリカ経済の発展に大きく貢献してきていることを猛烈アピールする。
実はこの基本方針、トランプ大統領が就任してから初めての日米首脳会談(2017年2月)の際と本質的に同じだ。
当時は大統領選挙キャンペーンでトランプ氏がぶち上げていた保護主義的貿易政策を、どれだけ本気で実現しようというのか半信半疑なところがあった。TPP離脱で大統領令に署名してはいたが、トータルな出方は読めていなかった。
でも、それから1年半が経過し、トランプの本気度は疑う余地はないでしょ? そう思われるかもしれないが、話は少々込み入ってきているように思う。
『余の辞書に弱気の文字はない』タイプのトランプ氏だが、大統領として何かと悩むこともあるのだ。

対日強硬派と目されているライトハイザー通商代表がFFRで『FTA交渉の開始』を求めてくるであろうことは間違いない。
ライトハイザー氏は7月26日の議会証言で「日本には、多くの分野でアメリカの輸出品に対する不公正な貿易障壁がある。牛肉はその一つだ」などと述べ、FTA交渉入りへの強い意欲を改めて示した。それでいて交渉開始を求めなかったら、強硬派の名が廃るというものだ。
日本側はこれまでにいろいろなチャンネルで「FTA交渉には応じない」と伝えている筈だが、そんなの関係ない。トランプ政権にとっては、不公正な貿易を正し貿易赤字を減らすために、マルチではなくバイの交渉を断固要求してみせることは、アメリカ・ファースト的に『言わねばらなぬ』ことなのだ。

トランプの悩みは『米国第一』路線の副作用

だったら、トランプ大統領は一体何を悩むというのか?
答えを先に言ってしまうと、シンゾーを政治的に追い込むことになりかねない交渉をこのタイミングで強引に進めるのはトランプにとって得策なのかということだ。

就任から1年半。トランプ大統領は、貿易や安全保障の分野でアメリカ・ファースト公約を果敢に実行してきたが、その歪みも積み重なってきた。副作用が意識されるようになってきているのだ。
貿易問題を巡るG7内での孤立、対ロシア対イランでのNATO・EU諸国との軋轢、北朝鮮の非核化は膠着状態、中国との貿易戦争、などなど世界はこのところ急速に不穏な大気に包まれてきた。アメリカの企業活動と景気にとってもマイナス面が意識されるようになってきている。

アメリカ経済は4~6月期のGDPが4.1%増と絶好調だが、「その割には労働者の生活は楽になっていないですよね?」そういう野党民主党の訴えが“トランプ州”の有権者にも浸透してきている。2016年に“本音でしゃべる政治のアウトサイダー”トランプを歓迎した人たちが、今は生活実感で“大統領”トランプを採点し始めている。

7月16日の米ロ首脳会談を機に、ロシア疑惑はますます内外の注目を集め、トランプ・プーチン関係への疑念は議会さらに共和党内部でも深まっている。各国首脳の中でもトランプ大統領が気を許せる人は櫛の歯が欠けるように減ってきた。
こういう状況に鑑みれば、安倍総理そして日本との関係を安定させておくことの価値は、大統領の就任当初とは別の意味で高まっているのではないか。

2020再選戦略のレビュー次第で対日要求に変化も

では、トランプ大統領はFFRをどうしようというのだろうか?
そのヒントは、8月7日に投開票されるオハイオ州の連邦下院特別選挙の結果に見いだせると思う。選挙の争点は貿易問題だけではないが、これまでのアメリカ・ファースト路線をそのまま続けていって2020年大統領選で再選につながるのかどうかを見極める材料となるからだ。

2016年にトランプ候補は、このオハイオ州第12選挙区で11ポイントの差をつけてヒラリー候補に勝った。もともと共和党候補が勝って当たり前の選挙区でもある。それなのに投票直前の情勢は、1ポイント程度の差で民主党候補者と激しく競り合う状況だ。どっちが勝つにせよ僅差になることは間違いない。
トランプ大統領はその結果を受けて、再選戦略のレビューを迫られる。その直後の日米FFRだ。
そこにアメリカ側の出方が今になっても読めない理由がある。

(執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋)

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