西日本豪雨から1か月 ダム放流と肱川氾濫…住民のための検証を【愛媛発】

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  • 愛媛県では死者26人、安否不明者2人(8月4日時点)という甚大な被害
  • 被災地からは「ダムの放流による人災だ」という声
  • ダム放流…住民に伝えられなかった危機感

「あと5分遅かったら死んでいた…」

「逃げるのに必死だった。あと5分遅かったら死んでいた…」

7月7日早朝、愛媛県西予市野村町で肱川が氾濫した。川の水は瞬く間に溢れ住宅や商店街を濁流が呑み込んだ。車も家も押し流され、中には家の屋根の上にかろうじて避難し、救助を求めた人もいた。

私たちがその現実を知ったのは氾濫から数時間後、SNSを通じて住民が撮影した動画からだった。土砂崩れで取材班が現場に入れず、その動画を使って視聴者に被害の現状を伝える形になった。

撮影:視聴者

今回の西日本豪雨で、愛媛県では死者26人、安否不明者2人(8月4日時点)という過去にない甚大な被害が出た。災害が少ないと言われる愛媛県ではこれまで経験したことがない被害だった。

その被害の1つは肱川の氾濫。肱川は愛媛県西部を流れる県内最大の1級河川で、肘を曲げたように蛇行している姿からその名がついたともいわれている。過去に氾濫を繰り返した歴史があり「暴れ川」とも呼ばれる。この肱川で今回、8人が死亡する過去にない被害を出した。その要因はダムの放流にある。

あの豪雨の中で何が起こっていたのか?

ダムを管理する国土交通省四国地方整備局によると、豪雨に備えて鹿野川ダムで7月3日から、野村ダムで4日から事前放流を始めていた。事前放流はダムの洪水調節容量を予め増やしておく措置だ。

鹿野川ダムは洪水調節と発電を目的としたダム、野村ダムは洪水調節に加えみかん畑への灌漑用水や活用水を目的としたダムで、事前放流は利水者の理解を得た上での異例の対応として行われた。これによりダムは通常の1.5倍に貯水容量を増やしていたが、想像を上回る事態がこのあと起きた。

野村ダム

野村ダムは記録的な豪雨によって徐々に水位を増していく。四国地方整備局は7日午前2時30分、「このままだとダムが溢れる」と判断し、ダムへの流入量と同じ量を放流する「異常洪水時防災操作」を、午前6時50分から行う見通しを西予市野村支所に伝えた(操作開始はこのあと6時20分からに変更される)。

連絡を受けた西予市の管家一夫市長は市幹部と協議し「避難指示」を出すことを決めたが、「避難所の準備や、夜間で安全な避難誘導ができない」との理由から、住民には午前5時以降に発令することにした。西予市は異常洪水時防災操作による放流で住宅の浸水は予想していたが、具体的にどの程度まで浸水するか想定はできていなかったという。

午前5時10分、西予市が避難指示を出し防災無線等で避難を呼びかけたが、取材によると多くの住民が「雨で防災無線の音が聞こえなかった」「防災無線は聞こえたが、いつもの放流と同じだと思っていた」などと証言し、そこまでの非常事態が迫っていることは伝わっていなかった。

そして午前6時20分、野村ダムの「異常洪水時特別操作」が始まり、最大で毎秒1797トンという安全とされる放流量基準の6倍もの水量が一気に野村の街を襲ったのだ。逃げる間もなく住宅の2階まで濁流が押し寄せ、過去にない甚大な被害をもたらした。

西予市

野村ダムの放流で当然、下流にあるもう1つのダム、鹿野川ダムへの流入も一気に増えた。午前7時35分には鹿野川ダムも異常洪水時防災操作による放流が始まり、最大で毎秒3742トンという、安全とされる放流基準の6倍もの水が下流の大洲の街に流された。

4600世帯が浸水し、大洲市も過去に経験をしたことがない甚大な被害になった。

取材を通して被災地からは「ダムの放流による人災だ」という声を聞く。

この指摘に対し四国地方整備局は7月11日の記者会見でこう説明した。
「今回の洪水でダムは洪水調節機能を発揮している。(今回の操作は)関係機関も同意した操作規則に基づくもので、被害が発生した直接の原因は計画を上回るような豪雨があったということ」

2つのダムは数日前から事前放流で洪水に備え、西予市と大洲市には「異常洪水時防災操作」の可能性を早くから伝えていたと、対応に問題はなく「ダムが豪雨を受け止めた」と強調した。さらに担当者は、あの時点で野村ダム、鹿野川ダムで異常洪水時防災操作を行えば、今回のような甚大な浸水被害が起こることは「分かっていた」と、当然のように口にした。

伝えられなかった危機感

撮影:視聴者

なぜその危機感が住民に伝えられなかったのか?

西予市は住民への避難勧告を夜が明ける午前5時10分に発令した。それまでの間に「町が水に浸かるほどの放流になる」という危険な状態を伝えることはできなかったのか。甚大な被害がわかっていた四国地方整備局、そして通報を受けた西予市はマニュアルを超えた対応で住民に命の危険を知らせることはできなかったか。

実際、行政防災無線等でわずか1時間余りの間に周知するのは困難だった。「もう少し早く異常事態だと伝えていてくれれば」と悔やむ声も聞かれる。

高度なシステムやマニュアルがあってもそれを使うのは“人”。今回、野村地区で人の命を救ったのは、1軒1軒地域を回って住民を車に乗せて避難所に連れて行った地元消防団の行動だった。

7月19日「四国地方整備局と有識者の検証の場」

今回の被害を受けて四国地方整備局は有識者による「検証の場」を設け調査を始めたほか、西予市や大洲市でも避難勧告の出し方などについて検討を始めている。こうした場での検証が行政の報告書だけに終わらず、住民の命を守る運用になることが何よりも重要だ。

家族や生活を失った被災者の1人は「記録的豪雨は防げなくても、避難していれば命は守れた」と言う。被災者たちは同じ思いを持ちながら、豪雨から1か月を迎える。

(テレビ愛媛 報道制作部長 片上裕治)

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