「出世する人は一つのことを追求しない」安田洋祐が説くビジネスマンの生存戦略

FNN.jp編集部
カテゴリ:ビジネス

  • イノベーションの本質は、0から1を生み出すというより新結合
  • 昇進のためのスキルと経営者のスキルは全く違う
  • 三つの分野をかけ合わせて自分の価値を高める

環境の変化に適応しながらさまざまな進化を遂げ、地球上でもっとも多様性に富んだ生物へと成長した昆虫。

これほどまでに多様に進化ができた理由を紐解くと、そこには「日本のビジネマンが学ぶべきことがたくさんある」と経済学者の安田洋祐さん。

昆虫の生存戦略を人間に置き換えて、出世する人の特徴や、これから社会で生き残るためにすべきこと、注目のビジネスモデルを教えてもらった。

(聞き手:新美有加アナウンサー)

イノベーションは0から1を生み出すことではない

新美:
実は当初、昆虫と経済学につながるものはあるのかと思っていたんです。

安田:
たくさんありますよ。昆虫が突然変異によって進化したことから、人間社会で多様性を生む仕組みを考えることができます。その一つが試行錯誤すること、それを尊重する空気を作ることですね。

また、企業は平均的なスペックの人ばかりではなく、特殊な資格を持つ人や、ある分野に長けた人も採用していくべきだと感じます。

新美:
一括の新卒採用ではなく、通年採用や中途採用、インターンなど積極的に受け入れていく必要がありそうですね。

安田:
徐々にですがそういう企業も増えています。これまでは企業が採用したい人物像がある程度均一化していたので、新卒一括採用は合理的だった。でも、それでは多様な人材が集まらないし、組織の中で変化を生み出していかないと生き残れない。

新美:
たとえば、1を10にするのは得意だけど、0から1を生み出すのが得意という人は少ないように感じます。

安田:
イノベーションや研究の観点からみれば、0から1を生み出す発想はほとんどないんです。経済学者のシュンペーターいわく、イノベーションの本質はニュー・コンビネーション、新結合だと言っています。

つまり、すでにある商品やアイデアをつなぐことがイノベーションになるのだと。おそらく、0から1を生み出さないといけないと思うから、イノベーションに対してハードルが高くなっているのではないでしょうか。

新美:
日本の企業でイノベーションを起こしたのはどこでしょうか。

安田:
最近でいうとメルカリですね。彼らは今や日本を代表するベンチャー企業の一つになりましたが、フリーマーケットのアプリとしては後発ですし、ビジネスモデルがものすごく斬新かと言われればそうでもない。

FacebookもSNSとしては後発でしたが、もともとアイビーリーグを中心に招待制でコミュニティを形成していき、“いいね”機能を採用するなど、ちょっとしたアイデアをつなぎ合わせていき、どんどんブレイクした。

新美:
後発のサービスでもさまざまなアイデアを組み込むことでいくらでも逆転できるんですね。

安田:
そのためには、やはり均一的な人材だけではなく、いろんなバックグラウンドや考えを持った人が集まった方がいい。いま、世界で稼いでいるといわれる大企業のオフィスに行くと外国人だらけです。優秀で面白い人材を世界中で集めている。

日本は違いますよね。企業の重役たちは組織を変えられると自分のステータスが脅かされると思うから、なかなか現在の体制を変えようとしない。

新美:
ある意味、そういった重役たちは社内の出世レースに勝ち残った人たちなのかなと思います。彼らが優秀ということももちろんあると思いますが、社内で勝ち残るための素質を持っていたのでしょうか?

安田:
そもそもこれは日本企業の特徴ですが、代表取締役や重役に就く人たちは、一つの組織でキャリアを積みながら昇進していった人たちです。一方で、アメリカやイギリスなどアングロサクソン系の国では、トップの経営者は外部から来るのが常識。

まったく関係のないところからある日突然、上司がやってくる。逆に、そういった上司やマネージャーたちもある程度その組織で業績を伸ばしたら、長くとどまらずに転々とする。会社で昇進するために通用するスキルと、マネージャーや経営者としてのスキルはまったく違うんです。

新美:
プレーヤーの成績とマネージャーの才能はイコールではない? 

安田:
はい。日本の組織ではプレーヤーとしてある程度実績を残さないと、経営者になれないという仕組みがある。それが果たしていいのかと。経営者として優秀かどうかはそこだけでは計れないし、そもそも別問題です。

逆にいうと、同じ組織にずっと居続ける人は、周りが見えなくなっている。会社や業界のことはわかっていても、社会全体の動きを俯瞰できているのか疑問です。

だからこそ、組織が大きな危機を迎えた時、外部からマネージメントに精通した人を迎え入れ、仕組みを変える必要がある。それができない企業はバタバタと潰れていきます。

社内の評価だけでキャリアを積むのは危険

新美:
プレーヤー世代が今後、生き残っていくためにすべきことはどんなことでしょうか?

安田:
生存戦略は大まかに二つあると思います。一つは従来のように、一つの企業にいることを前提として、社内で通用する知見を蓄えていき、昇進を目指す方法。ただ、20年前と比べると、その戦略の有効性は下がっています。

どんな大企業でも今後どうなるのかわからないので。一つの会社で評価される知見しかもたない人は、外で通用しない場合が多いので非常にまずい。だから、社外に出た時に評価されるスキルを今の会社にいても磨いておくことが重要です。

アナウンサーの方も会社に勤めたあと、フリーになる方が多いのでそういう意識で働いている人も多いですよね。

新美:
たしかにそうかもしれません。

安田:
そこで二つ目です。自分が働く業界に1000人いたとして、その中の1番になろうとするとかなり大変ですが、それ以外のことにも精通していることで1000人に1人の価値を作ることができる。

たとえばやたら昆虫に詳しいとか、数カ国後話せるとか、ほかの人にない個性をいくつか組み合わせると、“これができるのはこの人しかいない”といった個人のマーケットバリューを高められる。

たとえば、新美さんの場合でいうと、アナウンサーとしてのスキルは今の状態をキープしながら、それとはまた違う技能を伸ばすことを考える。すると、競争の仕方やスキルの磨き方が変わりますよね。

新美:
なるほど。

安田:
僕の場合は、経済学の世界でもある程度、業績を残したいというのももちろんありますし、一般向けのメディアで情報を発信するということも大事にしたい。さらに言えば、研究した内容で国の政策を少しでも変えられたらという意識もあるので、政府系の委員会にも行くようにしています。

それぞれ、3つの得意分野で上位1割のところにいるようにして、それを3つ掛け合わせると1000人の1人の価値になります。

一つの分野で1000人に1人になろうとすると難しいし、時間もかかりますが、3つの分野で10人に1人の成績やスキルを身につけるのは、どなたでも努力をすれば手が届く範囲だと思います。でも、どの分野を追求するかというのはなんでもいいわけではないですよ。組み合わせの相性もあるので。

新美:
会社の中でナンバーワンになれなくても、オンリーワンになれると。

安田:
はい。そして、チャンスなのは今、こういう意識を持っている人はほとんどいないことです。

この意識を持った時点で一歩リードできますよね。組織の中で昇進レースを頑張らなくても、視点を変えた先に自分の価値を高めるものがある。

自由度の高い経済の仕組みができあがりつつある

新美:
さて、昆虫展では新種を発見したコーナーもありました。安田さんはこれから経済学者として、新たに発見してみたいことはありますか?

この展覧会の開催に向け、マダガスカルで発見したセイボウ(青蜂)の新種(未記載種)

安田:
問題意識として持っているのは、このまま資本主義はどうなっていくのかということです。今、経済活動の仕方が少しずつ変わってきています。前出のメルカリは売り手と買い手がマッチングできるプラットフォームを作っています。

それの何がおもしろいのかというと、売り手側、買い手側、お互いがある程度選べるということです。特に買い手側は、一般に流通している価格よりも安くていいから、自分の作品を理解してくれる人に売りたいと思ったらそれができる。

価格だけではない、モチベーションのようなものが反映できる、自由度の高い経済の仕組みが少しずつできあがっている気がします。

新美:
売り手と買い手の顔が見えるやりとりというのは一昔前に戻っているような。

安田:
そうですね。今、野菜の直売所も増えています。これまでは、農家が作ったものは農協を介して販売していたので、売値がだいたい決まっていました。すると作る側はいかにしてコストをかけずに野菜を作ろうかと考えます。

でも、自分で値段を決められるなら、もっとおいしい野菜を作ろうとか、他の農家が作っていないものを市場に出した方が儲かると考え始めます。コストを下げることではなく、自分たちでマーケティングをして高い価値で自分の商品を売ろうという発想に変わる。

新美:
なるほど。それは買い手側にとっても嬉しいですね。ほかに注目しているビジネスモデルはありますか?

安田:
実際に伸びているプラットフォームに、寄付型のクラウドファウンディングがあります。特に、「Makuake」などはおもしろいプロジェクトがたくさんある。これまで、新規事業に投資するのは大企業がほとんどでしたが、彼らは新しいビジネスにいくら出資して、どれだけのリターンがあるのかという金銭面だけしか見ていません。

損ができないから、必ず成功するものにしか投資しなかった。でも、寄付型クラウドファウンディングを動かしているのは個人の出資者です。新しいものへの可能性に共感して出資するから、おもしろいアイデアを実現しやすい。

新美:
自主映画や地元のお祭りに協賛をすると、お金が戻ってくるわけではないけれども、エンドロールに名前が載ったり、自分の名前が入った提灯を下げてもらえたりしますね。

安田:
そうです。日本では、ビル・ゲイツのように個人で莫大な資産を持っている人はほとんどいませんし、企業も昔ほど文化事業にお金を使えなくなっている。でも、個人で少額ずつでも寄付をしたら、それがまとまった額になり、新しいプロジェクトを動かせる。

さらにそこから進んだ動きとして、クラウドファウンディングで成功したプロジェクトに大手企業が追加で融資するということも起きています。これからそういったサービスによって、資本の論理だけでは生まれてこなかったプロジェクトが増えていく。

クラウドファンディングが日本において、新しい突然変異をもたらすのではないかとすごく期待しています。

 ●「必要なのは“エラー”を起こす社員」昆虫に学ぶ組織論 経済学者・安田洋祐
https://www.fnn.jp/posts/00345960HDK



安田洋祐
経済学者|大阪大学准教授 専門はゲーム理論、マーケットデザイン。フジテレビ「とくダネ!」・関西テレビ「情報ランナー」・読売テレビ「ミヤネ屋」コメンテーター

◆特別展「昆虫」は国立科学博物館にて10月8日(祝・月)まで開催中
セイボウの新種(未記載種)に来場者の名前をつけるネーミング企画は8月12日(日)まで募集
http://www.konchuten.jp/special.html

◆ARアプリで昆虫に変身
会場でスマホでQRコードを読み取って、オリジナル写真&動画を撮影できます。
(※Facebookアプリの最新版が必要です)

◆8月19日(日)深夜1時55分からのサンデーMIDNIGHTで特別展「昆虫」の大特集を放送予定

(文・浦本真梨子)