「ロヒンギャを見たら殺す」 帰還合意でも一人もミャンマーに戻らない理由

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  • ミャンマー、バングラディシュ両政府はロヒンギャ帰還開始で合意するも進展なし
  • 「ロヒンギャはテロリスト」と主張するラカイン族との共存の難しさ
  • 「ミャンマーは安全ではない」国際社会の積極的介入を求めるロヒンギャたち

ミャンマーのイスラム教徒ロヒンギャが去年8月、迫害を逃れて隣国バングラデシュに逃れてから間もなく1年。ミャンマー、バングラデシュ両政府はロヒンギャについて、今年1月からの帰還開始で合意したものの、その後ほとんど進展はなく、いまも約70万人が避難生活を余儀なくされている。

なぜ帰還が進まないのか。かつてロヒンギャが住んでいたラカイン州で取材を進めると、帰還が困難な理由が見えてきた。

政府による監視のもと取材へ

最大都市ヤンゴンから国内便で約1時間半。ラカイン州の州都シットウェにあるロヒンギャの旧居住エリアには政府の許可なしでは入ることができない。今回、我々は特別に許可を得てラカイン州に入った。取材中は治安部隊が同行し、我々の取材活動は監視されていた。

メディアを常に監視する治安部隊

ロヒンギャ村のそばに治安施設

車や船を乗り継ぎラカイン州マウンドーへ向かう。季節は雨季。冠水している道路を車で進み、ロヒンギャがかつて住んでいたエリアに入ると、窓越しに放置されている漁船が見えてきた。かつてロヒンギャが使っていたものだ。彼らの水田や畑も、荒れた状態で放置されていた。

ロヒンギャがかつて使っていた漁船

ラカイン州のマウンドー地区は、かつて人口の9割がロヒンギャ住民だった。主要道路を車で進むと、道沿いにロヒンギャがかつて住んでいた村が見えてきた。焼き討ちにあった村には黒焦げの柱や扉などが今もそのまま残されていた。そして、村の焼け跡の近くには、新たにミャンマー治安部隊の監視拠点が建てられ、隊員が周囲に目を光らせていた。厳戒態勢は今も続いている。

焼き討ちにあったロヒンギャの村
ロヒンギャの村近くに新設された治安部隊の施設
周囲に目を光らせる治安部隊の隊員

空っぽの「受け入れ施設」

ミャンマー、バングラデシュ政府は今年1月までに、ロヒンギャの帰還を開始することで合意したが、半年以上たった今も帰還は全く進んでいない。ミャンマー側の受け入れ施設を訪れると、10人以上の職員らが、手持無沙汰に椅子に座っていた。1日150人まで対応できる施設だが、現在までに1人も帰ってきていないという。入管施設の担当者に、ロヒンギャがなぜ戻ってこないのかを尋ねると、担当官は「ロヒンギャに聞いてほしい」と答えた。

開店休業状態のロヒンギャ受け入れ施設

また別の施設では、ミャンマー国内で当局に一時拘束されたとされるロヒンギャの男性らが我々に公開された。ミャンマー当局によると、彼らはすでに釈放され市民権を得た、とのことだったが、彼らには今も移動の自由がないようにみえた。

「ロヒンギャを見たら殺す」

なぜロヒンギャは故郷に戻れないのか。
地元を取材して感じるのは、現住民の仏教徒ラカイン族の強い反発だ。

ラカイン族の村カインジーは去年、ロヒンギャ武装勢力の襲撃で村が燃やされ、別の場所に村を再建した。襲撃時には住民8人が殺害されたという。村長は「私は息子を殺された。だからロヒンギャを見かけたら殺す」と怒りをあらわにし、村民も「かれらはテロリストだ」と帰還への強い反発の声を上げる。またロヒンギャはミャンマー語を話せないため、ラカイン族との意思疎通も難しく、両者が共存するのは容易ではない。

少数民族で仏教徒ラカイン族の村カインジー
ロヒンギャ帰還に強く反対するラカイン族の村長

ロヒンギャ側も怖くて戻れない

ロヒンギャ側も、弾圧を繰り返した治安部隊への不信感は強く、今の状態では故郷には戻れないと考えている。

ミャンマーとバングラデシュの国境にある緩衝地帯。この小さな一角では、バングラデシュに入国を拒絶され、どちらの国にも入れなくなった約5千人のロヒンギャが難民生活を続けていた。唯一英語が話せるリーダーのディル・モハメド氏に帰還の意思を聞くと、「ミャンマーはまだ安全ではない。国際社会や国連が介入しない限り、安全にはならない。早く故郷に戻りたい」と、国際社会の積極的な介入を訴えた。

国境地帯に取り残されたロヒンギャ住民
国際社会の支援を訴える指導者ディル・モハメド氏

解決への道は

国連の作業部会などは7月末に初めて、ロヒンギャの帰還先の候補となっている村落8ヶ所を視察した。ロヒンギャ帰還に際しては、現住民ラカイン族との共存方法の模索や、国際社会によるさらなる積極的な介入が必要になるとみられるが、解決までの道のりは長く険しいものになると予想される。

(FNNバンコク支局 支局長 佐々木亮

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