急増する「前立腺がん」の手術で勃起神経は切除?それとも温存できるのか?

カテゴリ:テクノロジー

  • アメリカでは男性がん1位。日本でも急増
  • 手術には“男性の尊厳”失うリスク!
  • しかし、救世主が保険適用で登場!

前立腺肥大症と併発も

タレントの三宅裕司さん(67)の所属事務所が、三宅さんが前立腺肥大症の治療のため療養することを発表しました。
前立腺は、膀胱のすぐ下にあって尿道を取り囲んでいる男性特有の臓器で、くるみの実のような大きさ・形をしています。そこで作られる前立腺液は精液の95%を占め、精子の栄養源となります。
今回、三宅さんが罹患した前立腺肥大症は、前立腺の細胞が増加する良性の疾患です。

また、前立腺肥大症とともに、中高年の男性において注意すべき前立腺の病気が「前立腺がん」です。
前立腺肥大症を疑って受診したら、「前立腺がん」が発見されることもあります。
前立腺肥大症と「前立腺がん」は併発することもあり、似たような症状をあらわすこともあるのです。
「前立腺がん」は、アメリカでは男性のがんの1位であり、日本でも食事の欧米化や高齢化に伴い、近年急速に増加しています。

早期治療で根治可能だが…大きな覚悟も必要!

「前立腺がん」は、初期の段階には自覚症状がありません。
しかし現在は、信頼性の高い腫瘍マーカー【PSA検査】が普及した結果、無症状であっても、早期に発見されるケースが増えています。
がんが転移しておらず、期待余命が10年以上と判断される場合には、前立腺全摘出術が標準的な治療として行われます。
がんが前立腺内にとどまっていれば、根治が可能です。
実際、手術を受けた患者さんの5年、10年生存率はいずれも100%なのです。
しかし…「前立腺がん」手術に臨む男性は、ある大きな覚悟をする必要がありました。
それは、“男性の尊厳”に関わる覚悟です。

勃起神経も切除されてしまう・・・!

前立腺の周囲は、神経と血管が束になった神経管束という部位が包んでいます。
この神経管束には、勃起神経も通っているのです。
この神経が前立腺と一緒に切除されると、勃起は起きなくなります。必発です。
患者さんによっては、「命は救われたが…男の尊厳が失われた」「もう男ではなくなった」と考えてしまい、ひどく落ち込んでしまう方もいます。
男性なら誰しも、その気持ちやこだわりは理解できますよね。
(夫婦で病院でのカウンセリングを受けると、悩む夫に対して、「いらないでしょ、そんなもの」と妻が言うこともあるのだとか…)

勃起神経を温存するための、『神経温存前立腺全摘出術』という手術方法もあります。
勃起神経を残すため、神経と前立腺被膜をはがして前立腺だけを摘出するのですが、通常の摘出手術よりも難度が増すことは確かです。
また、神経温存手術を行っても、一定の割合の患者さんは元通りには回復しません。
神経が網目状であるため、大きなところを残しても網目が微妙に傷つくこともあるからです。
何より、通常摘出する前立腺被膜を残す必要があるため、がん細胞を残してしまう危険性があります。ですから、その適応は限られます。

救世主はロボット!

手術支援ロボット【ダ・ヴィンチ】©[2018] Intuitive Surgical, Inc.

しかし、救世主が登場しました!
手術支援ロボット【ダ・ヴィンチ】の導入です。
【ダ・ヴィンチ】は、体に小さな穴を開けて行う腹腔鏡手術などを、ロボットアームを操作して行います。
10~20倍に拡大されたハイビジョン3D画像を見ながら、肉眼では認識できない細い血管や神経も確認できるため、非常に精度の高い手術が行えます。
あたかも小人になって体の中に入り込んだかのように、自在に手術を行うことができるのです。
ロボットアームには関節が7つもあり、人間の手の動きの再現、時には上回る動きを可能としました。

【ダ・ヴィンチ】の複雑な関節©[2018] Intuitive Surgical, Inc.

【ダ・ヴィンチ】を使っての手術には、<傷口が小さい><術後疼痛が少ない><術後回復が早い><出血が少ない>と言ったメリットがあります。
さらに、<機能温存手術に有利>というメリットもあるのです!
拡大された鮮明な画像がモニターに映し出されるため、出血や神経損傷のリスクも最低限に抑えられます。
また、ダヴィンチの鉗子には手ブレ抑制機能もついているため、外科医の手では困難な、精緻な操作も行なうことができます。
そのおかげで、術後尿失禁の早期回復や勃起神経温存手術成績の向上が確認 されています。

日本では、平成24年に「前立腺がん」に対する【ダ・ヴィンチ】を使った前立腺全摘出術が保険適用になりました。
現在では「前立腺がん」の手術の3分の2がロボット手術で行われています。
消化器内科が専門の私から見ても、患者さんにとって大変に良いことだと思います。
ただ、緑内障など、一部の疾患の患者さんは【ダ・ヴィンチ】手術の適応外となります。

かなまち慈優クリニック 院長
高山 哲朗(医学博士)

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