ダム管理は『異常洪水時防災操作』で開き直ったら負け

カテゴリ:地域

  • 「操作規則通りだから適切な放流」は一面的
  • 『命を守り、ダムも守る』防災操作を目指すべき
  • 上流ダムの緊急放流を見越した対応には見えず

「操作規則通りだから適切な放流」は一面的

イメージ

西日本豪雨で愛媛県・肘川の野村ダムと鹿野川ダムで行われた緊急放流をめぐる対応は適切だったのかどうか、国交省による検証委員会がどこまで踏み込んだ検討を行うかが注目される。
というのも、検証が国の行政ペースで進むと、「放流操作は操作規則通りで適切だった」と結論され、地元自治体を通じた下流域住民への情報提供のあり方に改善を促して終わり‥となりかねないからだ。

だが、両ダムで実施された『異常洪水時防災操作』は、流入量とほぼ同量を放流するのだから、『洪水調節』機能の放棄と同じだ。そして、『命を守る操作』より『ダムを守るための操作』を優先せざるを得ない事態に追い込まれてしまったという意味で、ダム管理者の『失敗』だったとも言える。少なくとも被害を受けることになった下流域住民がそうした複雑な思いを抱くのは当然だろう。

安全とされる基準の6倍の量を放流するに至ったのは「予想を超えた雨量だったから」なのか、防災操作の方法に改善できる点はないのか、検討のポイントたりうることを考えてみた。

20年以上前に定められた「操作規則」

そもそも「操作規則」は陳腐化していなかったか?
河川法14条は、河川管理者に政令に従ってダムの操作規則を定めるよう義務付けている。その際には、関係自治体などの意見を聴取することも求めている。

野村ダムと鹿野川ダムの現行の「操作規則」はいずれも、平成8年6月に定められたものだ。20年以上前だ。
これを古いと見るかどうかは様々だろうが、20年の歳月が経っていれば、下流域の土地利用や居住状況にも変化はあるだろう。なによりも今世紀に入って以降、降雨量の極端な増加、降雨の局地化・集中化がみられ、ダムの堆砂への影響も考えられる。そうした中で、ダム貯水容量の配分のレビューは適切に行われていたかどうか。

国交省は、野村ダム、鹿野川ダムのいずれも事前放流で水位を下げて大雨に備えていたという。しかし、鹿野川ダムの場合は、予め決まっている洪水時の洪水調節容量1650万トンに、念のためとして決まっている予備放流容量580万トンを加えた、正にマニュアル通りの事前放流だった。

そこに気象庁が7月5日以降に注意喚起し続けた「西日本で記録的な大雨」への懸念の共有は感じられない。

国土交通省HPより

流入量に対する放流の遅れ

さらに、『異常洪水時防災操作』が実施された7月7日の鹿野川ダムの流入量と放流量の推移を見ると、流入量の急増に対する放流の遅れが気になる。

午前2時までは流入も放流も安全とされる毎秒600トン程度だが、ここから流入量が右肩上がりで急増を始める。一方で放流は午前6時過ぎまでは毎秒600トンのレベルのままだ。この時、流入量は毎秒1200トンを超えるレベルだ。
この間、午前5時10分にダム管理者から大洲市長に対し『異常洪水時防災操作』の可能性が伝えられ、6時20分には「7時半頃から過去最大の放流量になる」と伝えられたという。ダム側は危機的状況を予見しているにもかかわらず、放流については若干引き上げた程度だ。「操作規則」に従って必要な計算や準備を行い、『異常洪水時防災操作』開始水位に達するのを見守っていたのだろうか。

ここで疑問に思うのは、ダム側が危機的状況となる可能性を覚知してから『異常洪水時防災操作』を開始するまでの約2時間半の間、ダム側の対応に改善の余地はないのか?ということだ。
ダムからの放流量が急増を始めるのは午前7時過ぎ。この時、毎秒800トンほどだが、以降一本調子で放流量を拡大。大洲市全域に避難指示が出された午前7時半の5分後の7時35分に『異常洪水時防災操作』が始まった。開始時、毎秒約1000トンの放流量が、午前9時43分に最大放流量の毎秒3742トンを記録した。

あくまでも if の話だが、午前5時10分から放流量を緩やかに相当量増やしていたら、放流量のピークはもっと低く、また時刻も遅くなった可能性はないのだろうか。もちろん、どういうタイミングで下流域の氾濫が始まり広がるかという問題はあるが、『ダムも守り、命も守る』ために検討してみてはどうだろうか。

もう一つ。上流の野村ダムと下流の鹿野川ダムの間で適切なコミュニケーションは行われていたのだろうか?
野村ダムが『異常洪水時防災操作』の可能性を下流域の西予市に伝えたのは7日午前2時半。野村ダムは規模が小さいとはいえ、緊急放流が行われれば当然、下流の鹿野川ダムへの流入量がその分増える。

また if だが、もし、鹿野川ダムが午前2時半以降、野村ダムの『異常洪水時防災操作』を想定して予防対応を始めていたら、状況は違っていたのではないか。
だが、午前6時まで毎秒600トンの放流を維持した鹿野川ダムの対応からは、野村ダムの『異常洪水時防災操作』を見越して手を打っておこうという姿勢は伝わってこない。

「昔のマニュアルでやっています」を改めよ

今世紀に入って以降、日本全国どこもかしこも「未だかつて経験したことのない」異常な気象だらけだ。温暖化や海水温の上昇などの長期傾向に鑑みれば、今後も異常な大雨、洪水、スーパー台風などに事欠かないと覚悟しなければならない。過去数十年の前例をベースにした想定を超えていた‥という説明は素直に耳に入りづらくなってきている。昔のマニュアルでやってます‥で変化に対応できるのだろうか? もっと積極的に防災・減災に取り組んでほしい。それが人々の生活実感ではないだろうか。

加えて日本では、洪水調節の役割を担う複数のダムが比較的接近して造られている河川も少なくない。平時のダムを楽しむ一方、洪水を防ぐ頼もしいダムへの期待も大きいのだ。

今回の野村ダムと鹿野川ダムの緊急放流をめぐる検証作業が、全国の自治体とダム管理者、そして流域住民にとって有益なものになることを切に願いたい。

(執筆:フジテレビ 解説委員 風間晋)


常識が通用しない…いま備える防災の他の記事