“強盗”呼ばわりでも正恩氏を信頼?【米朝会談1か月】

カテゴリ:ワールド

  • 「アメリカの非核化要求は“強盗” 」 …蜜月から一転、強硬姿勢に
  • 正恩氏は「信頼」 中国には「邪魔するな」…トランプ大統領の本音
  • ポンペオ長官置き去りであの場所へ…正恩氏が重大決断?

アメリカを“強盗”呼ばわり

世紀の顔合わせに世界が注目し、両首脳の一挙手一投足を見守った史上初の米朝首脳会談から1か月が過ぎた。
会談直後、トランプ大統領はツイッターに「北朝鮮による核の脅威はもはやない」と書き込み、会談の成果を誇った。

しかし、首脳会談実現による昂揚感はもはやない。
非核化に全く進展が見られないどころか、米朝の溝が浮き彫りになっているからだ。

7月6日、首脳会談後初の高官交渉のため平壌に乗り込んだポンペオ国務長官は、9時間にわたる会談を終え、ワーキンググループの設置合意など「非核化で進展があった」と発表した。
しかし、その5時間後には北朝鮮から強盗呼ばわりされることになった。

「米国側の態度と立場は、実に遺憾極まりないものであった」
「米国側はCVIDだの、申告、検証だのと強盗さながらの非核化要求だけを持ち出した」


北朝鮮外務省が談話を発表し、アメリカの対応を非難したのだ。
結局、ポンペオ長官は金正恩氏にも面会できないまま、平壌を後にするしかなかった。北朝鮮は何故、ここまで態度を硬化させたのか?

ポンぺオ国務長官(左)金英哲統一戦線部長(右)

北朝鮮側は今回の会談で、朝鮮戦争の休戦協定締結65周年となる7月27日までに「終戦宣言」を発表することを求めたが、アメリカ側が応じなかったことに露骨に不満を示したのだ。
つまり、「非核化しろと言うなら、体制保障措置を同時に取れ」というのが、北朝鮮の言い分だ。

アメリカ側は米韓合同軍事演習の中止を挙げ、北朝鮮を説得しようとしたが、北朝鮮側は兵力の配備はそのままで「いつでも再開できる」と主張。
北朝鮮側が実施した核実験場の爆破とは「比べることもできない」と一蹴した。

さらに、「米朝は非核化の意志が揺らぎかねない危険な局面」に直面していると警告し、アメリカ側を揺さぶった。
ポンペオ長官の訪朝が“手ぶら”に終わったことで、非核化交渉は難航・長期化が避けられない見通しだ。

それでも正恩氏を“信頼”するトランプ大統領

それでも、トランプ大統領は意に介していない。

米朝高官会談終了後の9日には、「金正恩朝鮮労働党委員長が、われわれが署名した契約を守ると確信しているし、それ以上に重要なのは我々が握手を交わしたことだ」とツイートし、正恩氏への信頼は変わらないと強調した。
少なくとも11月の中間選挙までは交渉を維持し、選挙戦に利用したいという本音が透ける。

一方で、トランプ氏の怒りの矛先は中国に向かった。
「中国は我々の貿易政策を理由に(米朝間の)取引にネガティブな圧力をかけているかもしれない。そうではないといいが!」

アメリカとの貿易戦争の渦中にある中国が北朝鮮に「入れ知恵」し、米朝交渉に悪影響を及ぼしているとの疑念を改めて提起した。
トランプ大統領は5月にも、北朝鮮が2度目の中朝首脳会談の後に態度を硬化させたとして、習近平国家主席の働きかけに不快感を示していた。

中国が、北朝鮮の後ろ盾となって介入してくることに対するトランプ政権の警戒感は強まるばかりだ。
日米韓は非核化実現までは制裁は解除しないとの方針を再確認したが、中国がなし崩し的に制裁を緩めれば、形骸化の恐れは免れない。
米朝交渉は水面下で米中朝交渉へと姿を変え、北朝鮮に有利な展開が続いている。

正恩氏が重大決断?

非核化は曖昧な合意にとどめ、米韓合同軍事演習の中止を引き出す…米朝会談は正恩氏の独り勝ちとも評価された。
あれから1か月。正恩氏は今、何を考えているのか?

7月3日から9日までの約一週間、正恩氏の動静が途絶えた。
7月8日は祖父・金日成主席の死去24年にあたる命日。
正恩氏は最高指導者に就任した2012年以降毎年、遺体が安置されている錦繍山太陽宮殿への参拝を欠かさなかったが、今回は姿をみせなかった。

この間、正恩氏が訪れていたのは、平壌から北に約600キロ離れた三池淵(サムジヨン)郡。
三池淵は、金日成主席の抗日パルチザン活動の舞台で、正恩氏の父・金正日総書記が誕生したとされる。
北朝鮮では“革命の聖地”として崇められる特別な場所だ。

正恩氏はこれまでも、重大な政治的決断をする直前に、三池淵を訪れている。
2013年の訪問後には、叔父の張成沢氏を電撃的に粛清し、処刑。
去年12月の訪問では白頭山に登頂し、年明けの新年の辞で平昌五輪への参加を表明。対話路線に大きく舵を切った。

ジャガイモ加工工場の視察

今回はジャガイモ生産の拠点となる農場や加工工場、三池淵地区の都市開発に伴う建設現場などを集中的に視察したと報じられた。
正恩氏としては、7月の朝鮮戦争休戦締結65年、9月の建国70年に向けて、体制保障や制裁の緩和などをアメリカから勝ち取り、歴史的業績として誇示したいところだ。

革命の聖地で何を決断したのか。正恩氏の次の一手に注目が集まる。


(執筆:フジテレビ 報道センター室長兼解説委員 鴨下ひろみ)

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