聴覚障害者100人が宿泊を断られた問題…“非バリアフリー”の施設でもできる工夫を聞いてみた

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  • 障害者と分かると、施設側が難色を示し宿泊を断られた
  • 「私たちはバリアフリーでなくても泊まれます」
  • 音の情報に代わるものとして、人的支援があれば問題はない

「緊急時に対応できない」

静岡県熱海市が管理する「姫の沢自然の家」が、聴覚障害者約100人の宿泊を断っていたことが問題視されている。

事の発端は今年1月。
静岡県の聴覚障害者協会が、全日本ろうあ連盟の研修会のため、熱海市の青少年教育宿泊施設である「姫の沢自然の家」に約100人分の宿泊を申し込んだ。
しかし、自然の家を管理する熱海市振興公社に「緊急時や災害時に対応できない」として宿泊を断られてしまい、一行は静岡市のホテルに宿泊先を変更した。
協会によれば、「施設側は障害者と分かると急に難色を示した」という。

協会は、この経緯を県に報告。
県は、「障害者差別解消法」が禁じる行為だとして熱海市に適切な対応を求め、所管する市教育委員会は、「配慮が足りなかった」として協会に謝罪した。

問題の施設は老朽化で9月に閉館予定だった

2016年に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」が施行され、静岡県でも2017年に、この法の趣旨にのっとった「静岡県障害を理由とする差別の解消の推進に関する条例」を定めていた。

市教委はメディアの取材に対し、施設が古くバリアフリーではないので災害時に責任が取れないと考えたと答えている。
その「自然の家」は昭和55年に開館し、老朽化などのため今年9月30日で閉館が決まっていた。

一方、県聴覚障害者協会の小倉健太郎事務局長は「障害者に会ったことがない人が多いと思うが、実際に会って話をしてみると工夫できることが多いと分かると思います。もっと話し合って受け止めて頂きたいと思います」と理解を求めた。

では、バリアフリーではない古い宿泊施設でも工夫できることとはどんなことがあるのだろうか?
改めて、手話通訳を介して、協会の小倉事務局長に話を聞いた。

「私たちはバリアフリーでなくても泊まれます」

――どう言われて断られたのか?

今回の問題があった1月のときは、「聴覚障害者に対応できません。聴覚障害者専用の施設に行ってください」とだけおっしゃられて、施設が古いとかバリアフリーではないとかの説明は全くありませんでした。
そういうことは私たちも今の報道で初めて知りました。
当時は、「受け入れられない」と言われただけなので、抗議するのは仕方がないと考えています。
2月に入って熱海市からお詫びの電話があったので、それは受け入れています。

――施設側に言われた「聴覚障害者専用」の宿泊施設はあるのか?

全国にもないです。
視覚障害者専用もなければ、車いす専用もないですし、障害者の人たちだけで泊まるような施設はありません。


――バリアフリー対応でなかったらどんな工夫ができるのか?

施設が古かったりバリアフリー対応でなかったりしても、ろう者は医療支援は必要ないので、あらかじめ情報をいただければ対応が可能です。
例えば「筆談に対応する」であるとか、「事前に緊急時の避難経路を確認する」とか、「緊急時はマスターキーで部屋に入る場合があること確認する」など。
ろう者は、世界中のいろんなところへ旅行に行ってどこのホテルにも泊まっています。
今は、バリアフリーではない施設の方がずっと多い状況ですが、私たちは気を付ければ十分過ごすことができます。
そもそも私たちはバリアフリーでなければ泊まれない人ではないのです。

――今回の問題はどうすればよかったのか?

要するに、相手に話し合う姿勢がなかったことが残念だと思っています。
団体で泊まるためには、耳が聞こえる人が必要になるという考え方をもっていたようですが、ろう者は全国いろいろなところで集団で泊まっていて、今まで問題が起きたことはありません。
ろう者の人たちも慣れていますから「ドアをどんどんたたけば響いて気づきます」とか「カギを開けてもいいです」とかそういうことを伝えたりしているんです。
別にバリアフリーの機器がそろっていない施設でも、多くの人々が泊まっています。

私たち、ろう者は体を動かすことに不便はありません。ただ、会話するのに音の情報を得ることができないのです。
ですから、音の情報に代わるものとして、人的支援があればより良い宿泊ができると考えています。
耳が聞こえない人が泊まりたいと希望したらただ断るのではなく、「どんな支援ができますか?」というような話ができたら本当に良かったと思います。

受け入れる側の「もし何かあったら…」と慎重になる気持ちも理解できなくはないが、今回の問題は、どんな工夫ができるかということを話し合いすらしなかったこと。
社会をバリアフリーにするための最大の壁は、実は私たち一人一人の心の中にあるのかもしれない。