とうとう始まってしまった米中貿易戦争 我慢強いのはいったいどちら?

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  • トランプ政権が対中輸入製品340億ドルに対して25%の追加関税を発動
  • 関税を払うのはアメリカの消費者 受け取るのはアメリカ政府  追加関税は増税と同じ
  • 中国側は、売られた喧嘩をとことん買う構え

追加関税はアメリカ国内の増税と同じ

あ~あ、と溜め息をついている。米中貿易戦争がとうとう始まってしまったからだ。

トランプ政権は7月6日から、対中輸入製品340億ドルに対して25%の追加関税を発動した。即日、中国もほぼ同額の米国製品に対する報復措置に踏み切った。アメリカ側はハイテク商品、中国側は自動車や農産物が中心である。トランプ大統領はこの金額を合計500億ドルへ、さらに2000億ドルへと対象を拡大すると示唆している。

こんなことは誰の得にもならない。前回の寄稿でも書いた通り、関税を支払うのは外国企業ではない。アメリカの消費者が支払って、アメリカ政府が受け取るものだ。つまりは増税と同じなのである。

増税を行えば景気は冷え込む。そのことはアメリカ国内の需要を減らし、結果的には輸入が減るだろう。リーマンショックの直後には、国内景気が急速に悪化した。お蔭でアメリカの貿易収支は目に見えて改善したものだ。まさかそれが目当てではないだろう。

国境を越える貿易取引は本質的には“ウィン-ウィン”

トランプ大統領は、「中国に奪われたアメリカの繁栄を取り戻す」つもりのようだ。みずからのコアな支持者である白人ブルーカラー層のために、中国に一泡吹かせてやろう、海外に移転した産業を呼び戻してやるぜ、てな腹積もりなのではないか。

とはいえ、貿易はゼロサムゲームではない。アップル社が中国国内で製造しているiPhoneは、世界中に輸出されて中国に貿易黒字をもたらしている。ところがその売り上げは、iPhoneを設計したアップル本社にごっそり送金されている。つまり儲けているのはアメリカ企業なのである。

iPhoneに部品を納入している日本や台湾や韓国の企業もしっかり儲けている。国境を越える貿易取引は、本質的にウィン-ウィンなのだ。貿易赤字は悪でもなんでもない。国内貯蓄に対して消費が活発過ぎるということに過ぎない。

大事なのは将来の見通し

それでは今回の保護貿易措置は、世界経済に対してどんな影響をもたらすのか。

意外に思われるかもしれないが、直接的な影響はそれほど大きくはないだろう。関税によるコスト増は、米中の経済規模に比べればささやかなものに過ぎない。景気の押し下げ効果は、対GDP比ではゼロ・コンマ数%にとどまるだろう。

ところが景気指標などは、所詮過去の数値に過ぎない。大事なのは将来の見通しだ。経営者としては、こんなに先行きが不透明なのであれば、予定していた工場の建設を中止しよう、あるいは先送りしよう、などと考える。つまりは企業マインドが悪化する。間接的な効果は小さくないと見ておくべきだろう。

貿易戦争の敵を安全保障問題で討つ?

さらに読みにくいのがグローバル・バリュー・チェーンへの影響である。今日の製造業、特にハイテク製品は、いくつもの国にわたって複雑な分業工程で作られている。そこに突然25%の追加関税が加わると、物流を変えなければならなくなる。日本企業にも影響大ありだと言っておこう。

2002年3月、ときのブッシュ大統領は、鉄鋼産業保護のためにセーフガード関税を打ち出した。このときは鋼材価格が3~4割も上昇して、自動車産業などで20万人の雇用が失われた。結局、翌年にそっと取り下げたのだが、「あれは実は中間選挙での中西部の票が目当てだった」などと言われたものである。

今回も似たようなことになるのかもしれない。とはいえ中国側は、売られた喧嘩をとことん買う構えである。貿易戦争の敵を安全保障問題で討つ、なんてこともやりかねない。そもそもアメリカと中国、我慢強いのはいったいどちらなのか。中国が泣いて詫びを入れる、なんて「絵」は筆者にはまったく思い浮かばないのだが。

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(執筆:双日総研チーフエコノミスト 吉崎達彦)