テロの脅威に挑む 70年の歴史を刻むフランスの“サイレン” 

カテゴリ:話題

  • 毎月第一水曜の正午、フランス全土に響くサイレンは70年前に設置された空襲警報のサイレン
  • 訓練なのか、有事なのか、区別しにくいという批判も
  • 時代に合わせた国の取り組みの効果は・・・。

70年以上の時を経て伝わる“あの音”

撮影:小林善

フランスを旅行した際、耳にした事はないだろうか。

毎月第一水曜日の正午、フランス全土で1分間サイレンが鳴る。第二次世界大戦中に設置された、空襲警報のサイレンだ。
大戦中は国境沿いのみだったが、冷戦をきっかけにフランス全土に設置された。現在でも毎月、訓練や確認のために鳴らされている。
サイレンが鳴るのは、計1分41秒。有事の際には、これが3回繰り返される。危機が回避された場合は、原則30秒で鳴り止むことになっている。

問題は、「訓練」なのか「有事」なのか分かりにくいことだ。
国民は、「何秒間鳴ったか」いちいち数えていない。また、訓練用のサイレンは、いわゆる「本番」とは微妙な波長の違いがあるそうなのだが、戦争経験者でない限り、「本番」の音は聞き分けられない。運用面でも問題が指摘されている。

警報は、2001年9月11日アメリカで発生した同時多発テロのような空からの攻撃に限られている。昨今のフランスで、より警戒すべきは地上でのテロであるのに、である。
また、政府が自治体などに情報を伝達してから、実際に警報ボタンを押す空軍兵士らに情報が到達するまで、時間がかかりすぎるという批判もある。

危機管理アプリ「SAIP(エスアイペ)」をスタートするも・・・

危機管理アプリ SAIP(エスアイペ)

2015年、フランス国内でテロが多発した際にサイレンが鳴らず批判されたことを踏まえ、フランス政府は携帯用アプリ「SAIP(エスアイペ)」を開発し、2016年6月8日運用をスタートした。

「SAIP」は、2016年に開催されたサッカーユーロカップに合わせて、フランス内務省が30万ユーロ、日本円でおよそ3700万円もの費用をかけて開発したアプリで、事前にスマートフォンにダウンロードしておくと、テロなどの危険が発生した際にアラーム音で知らせてくれるシステムだ。

しかし、運用開始からおよそ2年にあたる今月、内務省は突如、サービスの終了を発表した。
その理由は、「操作の複雑さ」と「知名度の低さ」だったと報じられている。
危険が発生した場所を表示させるには、常にアプリが起動した状態でなくてはならない上、スマートフォンを持つ人しか利用できない。

また、フランスでは地下鉄などアクセスが集中する環境などで、インターネットに接続しにくいことから、アプリを利用できない事態が起きたのだ。

フランス・ニースで発生したテロ事件  (撮影:7月16日)

高額な費用をかけて開発したにも関わらず、サービスが終了した最大の原因は、アプリが事実上機能しなかったためだと、私は考えている。
2016年7月14日革命記念日の夜、フランス南部のニースで86人が犠牲となったテロ事件では、SAIPを通して危険情報が伝達されたのは、発生から2時間も経った後だった。
その後に発生したテロでも、危険情報の発信よりもアプリのバグ(発信トラブル、アプリの立ち上げ不具合など)が目立ち、本来の目的を果たせなかった。

こうしたことから、政府は去年から携帯の位置情報を使ってショートメッセージの一斉送信をするシステムも試みたものの、結局電話会社との契約を結べず断念し、SAIPのサービス終了となった。

たどり着いたのはSNS

フランス政府がアプリに代わる伝達手段として最終的にたどり着いたのは、フランスの人口7000万人のおよそ4割にあたる3000万人が登録しているとされる、FacebookやTwitterなどのSNSや検索サービスを提供するGoogleだ。

Twitterでは、政府の危機管理アカウントで情報を発信し、Googleでは政府発表を優先的にトップページに表示することを決めている。もちろん、国営テレビ・ラジオなどを通した情報伝達は欠かさない。

フランス内務省 twitterより

SNSを有効活用できるようになったことから、第二次世界大戦時代から続くサイレンは廃止される可能性もある。
一方、今年2月、パリ郊外でシステムの故障でサイレンが45分間鳴り続けた際、住民はただちに行動して事件性のないことを確認した。この時の住民の対応の速さには驚いたものだ。
70年以上続く習慣は、実は役に立っていたのかもしれない。

(執筆:FNNパリ支局 小林善 カメラマン)

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