アメリカ最高裁の名物おばあちゃん判事は大のトランプ嫌い

カテゴリ:ワールド

  • 最高裁85歳のルース・ギンズバーグ判事は引退も許されないリベラル派
  • 判事の引退すら大統領と党派政治が左右する
  • アメリカ式三権分立は機能不全が 高じる一方

バリバリのリベラル判事は引退すら許されない

ルース・ギンズバーグ判事 アメリカ最高裁判所HPより

「トランプ氏は詐欺師。一貫性は全くなく、思いついたことをそのまま口に出す。どうしようもないうぬぼれ屋だ。」
アメリカ連邦最高裁のルース・ギンズバーグ判事は、大統領選挙期間中の2016年7月、CNNテレビなどでトランプ氏をそう酷評した。
共和党の大統領候補に事実上決まっていたトランプ氏は、「ギンズバーグ氏は頭がいかれている。辞職しろ!」と逆襲ツイート。
この舌戦はギンズバーグ氏が「軽率な発言を後悔している」と謝罪声明を出して収束したが、中立性を重視すべき司法のトップによる露骨な政治発言として問題視された。

ルース・ギンズバーグ氏は1933年3月生まれの85歳。女性。アメリカの連邦最高裁判所の9人の判事のうちの1人で、1993年に当時のクリントン大統領が指名したバリバリのリベラル派だ。

最高裁の保守化を防ぐために

アンソニー・ケネディ判事  アメリカ最高裁判所HPより

連邦最高裁を巡っては先日、81歳のアンソニー・ケネディ判事が引退を表明。トランプ大統領が7月9日に後任の判事候補者を指名する。
党派色が薄い判断傾向で知られたケネディ氏に代わり、大統領が保守派の判事を送り込むのは確実で、そうなると最高裁判事の構成は保守派5人リベラル派4人となり、司法が保守化する転機になると見られている。
こうした状況だからこそ、ルース・ギンズバーグ判事の去就が注目されるのだ。

実は、連邦最高裁長官でもあるジョン・ロバーツ判事は、案件によって柔軟な判断を行ってきたことで知られる。最近では、トランプ大統領が敵視する「オバマケア」を存続させる判断を支持し、大統領から「最悪だ!」と非難されている。大統領の思い通りにはならない人物なのだ。
最高齢判事のギンズバーグ氏が引退となれば、トランプ大統領がまたしても保守派の判事を送り込み、最高裁は保守派6人リベラル派3人になる。ロバーツ長官なんて関係ない。連邦最高裁の保守化は盤石となる。

そんな事態を防ぐため、ギンズバーグ氏は辞任どころか運命的な退場すらも許されない。

“党派政治の産物”と言える最高裁判事

そもそもギンズバーグ氏は、4歳年下のケネディ判事よりも先に引退すると見込まれていた。
しかし、2014年の中間選挙で判事人事の承認権限を持つ議会上院の過半数を共和党が奪取。後任にリベラル系判事を据えられるかどうか見通せなくなったため続投せざるを得なくなった。

そうした中、2016年2月に保守派のスカリア判事が死去。残り任期が1年を切ったオバマ大統領が後任候補者を指名したが、上院共和党は審議を断固拒否。その年の11月の大統領選挙で選ばれる新大統領が指名すべきだと居直った。

冒頭のギンズバーグ判事のトランプ批判発言は、そんな状況で飛び出したのだった。

民主党のヒラリー・クリントン候補が共和党のトランプ候補を破ってくれていればギンズバーグ氏は安心して辞任できたはずだ。たとえ共和党が上院の多数を握り続けたとしてもさすがに審議拒否は続けられない。こてこてのリベラル派候補者でなければ妥協に至ったはずだ。

ところが、大統領に当選したのはトランプ氏だった。しかも上院の多数も共和党が引き続き確保した。
結果、トランプ新大統領が指名した保守派のゴーサッチ判事が2017年4月に就任したが、最高裁判事を巡る党派政治による異例の欠員状態は14ヶ月に及んだ。

そしてケネディ判事の辞任表明。
これも党派政治の産物と言える。
トランプ大統領と共和党は、11月の中間選挙の前に判事の交代が実現するようケネディー判事に働きかけていたという。後任の候補者としてケネディー判事の複数の弟子を示したことや、ケネディー判事の子息がドイツ銀行の不動産融資担当としてトランプ氏と親交があったことなども後押しになったと見られている。

これによってギンズバーグ判事は、2020年の大統領選挙で民主党候補者が勝つことを期待し、それまでは何が何でも最高裁判事の職務を続けるしかなくなった。それが民主党とリベラル派の総意だからだ。
新大統領が就任する2021年にギンズバーグ氏は88歳になる。
まさに党派政治に翻弄される晩年としか言いようがない。

アメリカ社会の政治的分断

連邦最高裁判事を巡る党派政治がここまで過熱する背景には、アメリカ社会の政治的分断の激化がある。
中絶の是非や、移民、銃規制、社会保障、教育など、国論を二分する問題は、立法や行政では対処しきれない政治環境が強まりつつある。だからこそ連邦最高裁の判断が重んじられる。

一方で、大統領や議会と同様、最高裁も判事構成を自派で支配すれば勝ち!という党派政治色が色濃くなってきている。以前は大統領が指名した最高裁判事候補者の承認には手続き上、上院の5分の3の同意が必要だった。しかし、トランプ大統領が指名したゴーサッチ氏の審議に際し、共和党は「核オプション」と呼ばれる禁じ手を行使。単純過半数で承認できるようにした。党派の違いを橋渡しする合意形成は難しいから単純過半数で突っ切った者勝ち!という政治だ。

これによって司法による立法や行政へのチェック機能は大きく低下する。チェック自体が党派性の観点に制約されることになるからだ。保守派優勢の最高裁なら共和党的立法や行政に甘く、民主党には厳しくなりやすいと考えられる。
それだけではない。こういう政治状況は、やられたらやり返す。自派が多数を取り返したらその時はやりたいようにやる!という政治マインドを助長する。アメリカの政治は当面、ゴツゴツした居心地の悪いものにならざるを得ない。

それって、オバマ前大統領の全否定や、気に入らない制度やルールはぶち壊すといった行動に表れている通り、トランプ的政治そのものだし、トランプ大統領を生みだした背景にも繋がるものだ。
冒頭のギンズバーグ発言は、そんな危うさに警鐘を鳴らすものだったのかもしれない。

(執筆:フジテレビ 風間晋 解説委員)

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