一万株の紫陽花が乗客の目を楽しませる「あじさい電車」

カテゴリ:地域

  • 夜にはライトアップされる沿線のあじさい
  • 箱根登山鉄道の社員たちの想い
  • 撮影後記

「あじさい電車」

箱根の山に響き渡る、電車の音。
雨のしずくを纏ったあじさいが静かにゆれる。
車輪の力だけで走る電車として、日本一の急勾配を登る箱根登山鉄道はこの時期
「あじさい電車」の愛称で親しまれ、沿線に咲くおよそ1万株のあじさいが、乗客を迎える。
取材したこの日、大平台駅周辺にある「あじさい小径」には、
平日にもかかわらず多くの人が訪れ、花の鑑賞や写真撮影を楽しんでいた。

「社員の想いを込めて」

沿線に咲き誇るあじさいだが、もともと自生していたのは一部だけだった。
もっとたくさん咲いていれば・・・そんな乗客からの声をヒントに、
昭和48年頃、当時の箱根登山鉄道の社員たちは、土留めの役割も期待してあじさいを植え始めた。
昭和60年頃からは「あじさい電車」と呼ばれるようになり、梅雨の時期に少なかった乗客は徐々に増えていった。
現在でも沿線の草刈りや剪定等の手入れは社員が自主的に行っている。
プロの職人はいないものの、数十回も美化活動に参加している本職顔負けの人もいるそうだ。

植栽に参加した当時の社員(提供:箱根登山鉄道)


「見頃は標高とともに」

箱根湯本駅から終点の強羅駅までの標高差は445m。
片道40分。その間にも花は様々な表情を見せる。
標高差によってあじさいの見頃に差が生まれ、山を登るにつれて、咲き始めが遅くなる。
平年、6月中旬から7月中旬と長い期間、あじさいを楽しめるのも箱根登山鉄道の魅力だ。


「夜には表情を変えて」

辺りが暗くなると、沿線6か所であじさいがライトアップされる。
暗闇に浮かぶその姿は幻想的で、昼間とは違う顔を見ることができる。
平成6年から始まった夜のライトアップ。
通常の電車よりもゆっくりとあじさいを楽しむことが出来る「夜のあじさい号」も臨時運行される。徐行や停止を行いながらゆっくりと進み、駅に降りて撮影できる時間も設定されるなど、あじさいを徹底的に楽しむ工夫がなされている。
予約が開始されると、すぐにほとんどの座席が埋まるほどの人気だ。
また、定期電車も、あじさいがたくさん咲いている場所を通りがかると速度を落とし、
ゆっくりと車窓から楽しめるように工夫されている。

「意外に知らないあじさい」

咲き始めには淡い緑色だった花が、次第に青や赤に色づいたり、色を変えることから
「七変化」とも呼ばれるあじさい。

色を決める要因の一つに、土が関係している。
品種にもよるが、土が酸性であれば青、中性からアルカリ性なら赤に色づくのが一般的だ。

見慣れたあじさい。花にもヒミツがある。
花びらのように見える部分、実は‘ガク’が変化したもの。
花だと思われている部分は、装飾花と呼ばれている。
本当の花は装飾花に隠れた真花と呼ばれる小さな部分。
普段見ているあじさいでも、違う見方をすると新しい発見があるかもしれない。

「撮影後記」

私はカメラマンを目指すビデオエンジニアだ。
普段は主に、音声や照明をしながら日々、報道の現場で取材をしている。
今回、夕方の報道番組「プライムニュースイブニング」で放送される企画のひとつを担当した。
これまでも、いわゆる企画取材に携わったことはあったが、テーマや場所を決め、撮影許可申請から取材先との連絡、撮影や映像の構成、ナレーション原稿まで行うのは初めての経験だった。
どこで何を取材しようか、どんな映像を撮ればいいのだろうか。原稿や編集はどのようにまとめようか。
いざ自分がディレクションする立場になると、頭が真っ白になっていた。
そんな中、企画を練っていく上でテーマにしたのが、雨とあじさいだ。

「自然を相手にする難しさ」

ジメジメとする時期。カビが生えては、インスタ映えない。
洗濯も乾かず、気分も上がらない...
そんな時期だからこそ、雨を浴びて生き生きとする姿を捉えたいと考えた。
天気予報を何度もチェックし、雨が降る予報の日に取材を決めた。
取材当日、空を見ると期待は大きく外れ、晴れ間が広がっていた。台風一過だった。
前日までの雨はどこに行ってしまったのだろう。
そんなことを思いながらも撮影を始めると、
そこに待っていたのは、輝く雨のしずくを纏ったあじさいだった。
雨のイメージが強いあじさいだが、陽の光を浴びる姿もとても美しかった。

私は「All's Well That Ends Well」という言葉が好きだ。
日本語で「終わり良ければすべて良し」という有名なことわざだ。
今回の取材は自分が当初計画していた通りにはならなかったが、雨の多い時期に陽の光を浴びるあじさいの映像を捉えることができたことは、貴重で、ことわざ通りになったのかもしれない。
それでも、梅雨の晴れ間の太陽で日焼けし、左腕に残った腕時計の跡を見ると、雨のあじさいを撮りたかった思いが甦ってくる。
(取材撮影部・岸下怜史VE)


 <施設情報>
箱根登山鉄道株式会社
神奈川県足柄下郡箱根町湯本707-1(箱根湯本駅)
電話:0465-32-6823(平日 午前9時~午後6時)
URL:http://www.hakone-tozan.co.jp/

 夜間ライトアップは7月8日(日)まで
「夜のあじさい号」は7月4日(水)まで ※予約制

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