世界中が遅れている! 学界とメディア界のセクハラ意識改革【三浦瑠麗】

下剋上ではなく価値観の教育を!

カテゴリ:ワールド

  • “セクハラ問題”で日本が遅れ欧米は進んでいるという考え方は本当か
  • 世界中に広がった#MeTooの波は、既存秩序を破壊した
  • 誤った価値観を持つ人を教育し、行動の"ニューノーマル"を作るべき

「日本は遅れ、欧米進んでいる」は本当か

日本は女性蔑視がはびこる差別的な国だ、という言い方を今まで多く耳にしてきた。確かに、日本は先進国の割には男女の賃金格差が大きいし、幹部女性も少ない。三歩下がって夫の後をついて歩くような理想の妻像を依然として持ち続けている世代がいる。

女性が働いている場合でさえ、他の先進国に比べて育児や家事労働の多くを担っていることもアンケートから明らかだ。家に入った女性を庇護するかわりに、外で活躍する女性の足を引っ張る文化というのは数多く指摘されてきた。

ハーベイ・ワインスタイン氏

けれども、日本が遅れている、欧米は進んでいるというステレオタイプの考え方は、ことセクハラに関しては昨年からだいぶ揺らいできている。
トランプ大統領候補(当時)のわいせつで女性蔑視的な(2005年時点でのプライベートな空間での)発言の録音テープが流出した際に、メディアや有識者は口をそろえて、そんな会話は現代においてありえない異常なものだとした。

しかし、メディア界やリベラルなエンターテインメント業界から、大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏に対する告発を皮切りに、次々ともっとひどい事例が出てきた。レイプ、仕事上の関係をちらつかせた脅しといった事例も多かったし、同意なしに触るなど日常茶飯事。

タイム誌が2017年の顔として選んだ「沈黙を破った人たち(サイレンス・ブレーカーズ)」

多くの女性が、いままでの自分の「常識」、つまり多少触られても仕方がない、といったような卑屈な気分を捨てて、性暴力やセクハラに反対を表明するに至った。

既存秩序を破壊した『#MeToo』の波

世界中に広がった#MeTooの波は、既存秩序を破壊した。

スウェーデン・アカデミーは関係者によるセクハラスキャンダルで今年のノーベル文学賞の授与を見送ったし、アカデミー賞主催団体である映画芸術科学アカデミーの会長も調査を受けている。

日本ではMeTooの波が低調と言われてはいるが、財務省の福田財務次官がバーでのセクハラ発言録音テープをめぐって辞任した。セクハラ報道があったのは、モリカケ問題、財務省の公文書改ざんスキャンダルが頂点に達して内閣支持率が低迷していた時であり、通常よりも激しい世間の怒りが財務次官に向いたと言える。

行動の”ニューノーマル”を作る

こうしたMeToo運動の本質は、下克上にある。

誰も、セクハラの存在を知らなかったわけではない。多くの組織が福田氏のような人を抱えているだろうし、現に外務省ではその直後にロシア課長がセクハラで処分を受けている。
人びとはセクハラの存在に驚きあきれ怒ったのではなくて、「告発してよいのだ」となったからそのニューノーマルに適応したのだ。

それはエリート財務官僚や政府要人、ハリウッドの大物に対する引きずりおろしという形で、セクハラに興味がなかった人まで巻き込むことができたからだ。

辛らつな言い方をすれば、それが社会問題化して流行り、メインストリームの人が言っても良くなったから、知識人がこぞって意見を表明し、マスコミで大きく報道されているわけだ。
とすれば、今後は単に人々を罰することに力を注ぐのではなくて、むしろ誤った価値観を持つ人を教育し、行動のニューノーマルを作っていかなければならないことになる。

アフガニスタンでの悲惨な現状

未だテロも相次ぐアフガニスタン

およそ、女性に対する圧迫や暴力には、二つの段階がある。一つ目は直接的暴力、二つ目は構造的暴力である。ビルギット・ブロック=ウトネは紛争における女性に対する暴力をこの二つの段階と、それが組織的なものか、非組織的なものかによって定義した。

アフガニスタンのタリバーン支配下で起きている女性への暴力は、とても記述するのを躊躇われるものだ。強制的な産科検診による処女の証明、少女が学校に通ったことによる処刑、人身売買。とても同じ人間としての扱いとは思われない。

では、アフガニスタンのように最悪な、女性を蔑視し、搾取する地域が改善していったとして、どのように「進歩」の過程をたどるのだろうか。

各国大学内のセクハラと性犯罪

University World Newsより

そこで、大学人である筆者として、近年の各国の大学におけるセクハラや性犯罪の状況を取り上げてご紹介したい。大学に関するニュースを扱うグローバルなウェブサイトUniversity World Newsに、最近の各国大学におけるセクハラ問題がまとめられている。

ケニアのナイロビ大学で報告された事例では、女子学生が受けたのはレイプなどの性的暴行であり、加害者は教授、警備員、学生など多岐に亘った。

インドの各名門大学では女性学生に権威ある教授がレイプやセクハラをする例が非常に多く報告されて、活動家の弁護士のFacebookに晒された。

中国では、2016年に行った調査で6592人の回答者の内70%がセクハラを受けたとする。しかし、報告率は4%にとどまった。こちらも、教授などが上の立場を利用して女子学生を性的に搾取している実態が浮かび上がる。中国では告発した女子学生を当局が抑圧して国際ニュースになっている。

同じく教授からのセクハラが多かったのは韓国の大学である。韓国では文化産業と関わる学部の実態が一番ひどかったが、チェジュ国立大学などの名門国立大学も含まれていた。ただし、韓国が中国と違うのは、大統領の号令で今春にタスクフォースを作り、政府が調査に乗り出したことである。

豪州では昨年、3万人に対する調査で、過半数の大学生が最低でも一回は過去一年間の間にセクハラを受けたというアンケート結果が出た。名門大学でも2割に達する。
豪州の大学の場合の加害者は学生、教員、スタッフとなっており、特に立場の高い教授の報告事例ばかりが目立つこれまでの国々とは様子が異なる。セクハラの定義も、豪州のような先進国になるとより広がっており、過去一年間にセクハラではなく性的暴行を受けたのは回答者の1.6%だった。しかし、ここでも性的暴行の報告率は13%にとどまっている。

ましになってきているというには躊躇われるが、こうしてみると少しずつ改善していくのではないかという希望がうっすら見えてくるだろうか。

日本の大学では

左:早稲田大学 右:慶應大学

さて、日本の大学ではどうだろう。ニュースになった事例では、慶応大学でサークルを利用した組織的レイプ事件が大々的に報じられた。

過去数年に大学教員によるセクハラで大学内部で処分され、あるいは民事訴訟がおきたことが、東京大学、京都大学、金沢大学、山形大学、東京芸大に関し報道されている。そして、先月は早稲田大学の有名教授がセクハラをして報道された。

この場合はアカデミック・ハラスメントと組み合わされていたと解釈できる報道がなされた事実があり、立場を利用した悪質性がある。この事件のあと、リベラルなはずの人文系学者が、立場を悪用して弱者の弱みにつけ込みセクハラをする、あるいは関係を迫る構図が、割と一般的に(文化として)存在していたことを指摘する声が、SNSなどを通じて関係者から漏れてきた。

他の問題でリベラルな主張を唱える学界、メディア界も、MeToo問題に関して、手が汚れていることが次第に衆目の目に明らかになりつつある。それは日本が遅れているからではなく、世界が遅れているからだ。
日本の女性が受ける暴力はケニアやインドほどではないが、おそらく豪州と同じようなところにとどまっている。見えなかったことにするのでもなく、日本が遅れていると過剰にふさぎ込むのでもなく、女性の問題がようやくみんなの問題だと思ってもらえる時代に来たと考え、頑張って変わるべきなのではないだろうか。

(執筆:国際政治学者 三浦瑠麗)
(イラスト:さいとうひさし)

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