“母国”イングランドで見聞したサッカーにまつわる“裏”エピソード

カテゴリ:話題

  • サッカーはムショでも身を助く 
  • スタジアムで垣間見たギャンブル大国の姿 
  • “母国”の芝は青かった。しかし…

ワールド・カップで盛り上がる昨今ということもあり、門外漢ながら筆者が母国・イングランド駐在中に見聞したサッカー関連の裏エピソードをご紹介したい。
サッカー本来の話とは全く異なる、酒席が相応しいストーリーだが、ご容赦いただきたい。

このアイリッシュには手を出すな!とマフィアが凄んだ話

筆者が最初のロンドン駐在中だった1990年頃、腕の良いエンジニアと仕事で知り合った。伝説の名選手、ジョージ・ベストと同じ北アイルランド出身のプロテスタントだった30代後半の彼は、10代の頃、イングランド北部に本拠を構えるサッカーの三部チームに所属した元プロ選手だった。
しかし、若くして夢破れ、その後、サウンド・エンジニアとして落ち着くまでの何年間か、彼は道を外れていた。

ある時、彼はマリファナの運搬役をやってイタリアで捕まり刑務所に収監された。通常、小柄な外国人の若い男がマリファナの運び屋なぞをやってイタリアの刑務所に入れられれば、ムショの中でも過酷な運命が待ち構えるのが常だったらしいのだが、その時に彼を救ったのがサッカーだった。

 彼の話によれば、イタリアの刑務所では受刑者のリクリエーションとしてサッカーが盛んにおこなわれていて、幾つものチームがあった。しかし、ただのリクリエーションにおさまるはずがなかった。
サッカーは刑務所を裏で取り仕切るマフィアのグループの勢力を誇示する道具であったし、裏ギャンブルの対象でもあったという。
そのムショ・サッカーで、三部チーム所属だったとはいえ元プロ選手の彼はたちまち頭角を現し、あっという間にスターになったという。

その結果が小見出しのセリフである。
彼にちょっかいを出そうとした受刑者は当初何人もいたらしいのだが、顔役が自分達の仕切るチームのスター選手である「あのアイリッシュに手を出すな!」とキツイお触れを出したというのである。

効果はてき面、彼は同房者達から非常に大事にされ、差し入れやら何やらと特別待遇を受け、実に快適なムショ生活を送ったと愉快そうに昔話をしてくれた。

子供の頃、ジョージ・ベストに憧れプロの道に進んだものの鳴かず飛ばずだった一人の若者が、道を踏み外して外国でムショ暮らしをする羽目に陥ったら、夢だったスター選手になれたという皮肉な話である。

今や昔の話でもある。問われれば証拠は無いとしか応えられないし、当時の辛さを紛らわす為の脚色が相当入っていても不思議ではない。が、欧州で一番人気のスポーツはこんな場所でも身を助くというエピソードである。しかし、言うまでもないが、まず何よりも道を外してはいけない。

ギャンブルの御用聞きがスタジアムの貴賓席に来た話

イギリスではギャンブルは合法である。
ご案内のようにサッカーもトトだけでなく様々な賭けの対象である。
数年前、大方の予想に反して、イングランドのプレミア・リーグでレスターが優勝した時には、あのチームの優勝にシーズン前に賭けたサポーターは、記憶曖昧だが、掛け金の何千倍もの大金を手にした。中には家を買ったというファンもいたはずである。

そのシーズンに、二度目のロンドン駐在中だった筆者はレスターのホーム・ゲームを観戦する機会を得た。観光協会の手配だったのだが、夕方の試合開始前に奥のボックスでフル・コースの食事を堪能し、試合は記者席のすぐ上に位置する貴賓席で観戦した。
11月頃だったかと記憶する。
観戦席がかなり寒かったのには閉口したが、ホームのレスターが勝った試合を満喫させてもらった。
この稿に名前を出すのは申し訳ないような気もするが、レスターで活躍する岡崎選手は先発して、非常に献身的なプレーと走りで、地元のサポーターからとても暖かい声援を送られていた。
得難い、貴重な経験だった。

この時、レスターはすでに絶好調で、リーグ・テーブルのトップか2位につけていた。
そして、優勝の倍率は800倍にまで落ちていたと記憶している。
それでも、レスターがシーズンを通して絶好調を維持し優勝すると予想するファンはほとんどいなかったということが、この800倍をみてもわかる。

ところで、何故、こんな数字を覚えているかというと、実は、賭けを受け付けるブック・メーカーの御用聞きが貴賓席のブースにわざわざ来たからである。小綺麗なワンピースの制服に身を包んだ若いスリムなモデル風の女性達ばかりだった。

賭け方は全てを思い出すのが不可能なほど実に多様であった。
せっかくの機会だからと、2-1でレスターの勝利と岡崎がワン・ゴールを決めるというのに、筆者は少額“投票”した。

当たらなかったが、ちょっと後悔しているのは、せっかくの観戦記念にとレスター優勝に”投票”しなかったことである。そうしていれば小型なら新車を買えたはずだからである。しかし、並みいる強豪チームをレスターが最後まで蹴散らすとは全く想像できなかったのであった。

熱心なサッカー・ファンなら眉を顰めることだろうが、かなり以前から、サッカーは単なるスポーツではなくなっていることを実感したエピソードである。

ちなみに翌年、エバートンの試合を観戦した。ベルギー代表エースのルカク選手が当時在籍していた。
その驚異的な身体能力を活かして、彼がヘディング・ゴールを決めたのを目の当たりにできたのは幸運であった。

羨ましい限りの町のピッチの違い

“母国”イングランドで暮らしていると子供達がサッカーに興じている光景をしばしば目にする。
ロンドンの場合は、その場所は大概公園の芝生の上である。
弊社ロンドン・オフィスからそんなに遠くないリージェント・パークには、一体、何面ピッチが取れるのだろうと思うくらいの広大な芝生があり、週末に散歩をすると、フル・ピッチではないが、あちこちで子供サッカー教室が活動していた。
脱線するが、驚くのはラグビーのピッチもあったことで、そこでは頻繁に女子ラグビーの練習が行われていた。

イングランドは一年を通して暑くもなく寒くもない。雨は基本的にはシトシトと降る。
その為か、公園の芝はいつも青々としている。
手入れも行き届いている。だから転倒時の怪我に臆することがほとんど無い。本人も親も指導者も余り気に掛けない。
そのせいか、小さな頃からかなり思い切ったプレーをする習慣が身に付くと、日本のある少年サッカー指導者に聞かされたことがある。

イングランドのサッカーがワールド・カップを制したのは66年の一度だけなので、世界最高峰とは言えないが、イングランド・サッカーの力強さはこんなところに源泉があるのかもしれない。
“母国の芝は青かった”という話である。

恐ろしく下品なサポーターのリアクションを目撃した話

最後のエピソードは余りにも下品なので、全ては書けない。
だが、筆者自身がサッカー・スタジアムで目の当たりにした衝撃的な光景の話を少ししたい。
この手の話がお嫌いな紳士淑女はどうかここでページを閉じていただきたい。

時は1990年代の前半。正確な年は思い出せない。
場所はサッカーの聖地、ウェンブリー・スタジアム。
と言っても、今のウェンブリーではない。一代前のスタジアムで、イングランド対フランスのフレンドリー・マッチを友人に誘われて観戦した。
フレンドリー故、両チームともに真剣だが必死ではなかった。怪我をしそうなプレーもなく、結果はドローだったと記憶している。正直、だらけ気味の試合であった。

だからではないのだろうが、公式戦ではそんなに見られないセルフィッシュな自己満足追求型のプレーが散見された。 
試合も後半に入ってからだったと思うが、宿敵・フランスの選手が何度目かのそんなプレーをした時である。おそらく観客の8割以上を占めていたであろうイングランドのサポーター達が、ほぼ無言で、そして、一斉に、ある動作をした。片手をあげて、、、その正確な描写はできない。
フランス選手の自己中なプレーを明らかに侮蔑したものだったが、誰が指示した訳でもないのに自然発生的に何万人もが一斉に、その余りにも下品な動作をしたことに度肝を抜かれたのをはっきり覚えている。

 今は昔の話なのかも知れないし、今でも稀にあるのかも知れないが、それほど熱心なサッカー・ファンではない筆者が呆然として隣の友人の顔を見たら、苦笑いしながら、そんなに珍しいことではないと当時は説明してくれた。
筆者が目撃したのは後にも先にもこの一度切りなのだが、動作の意味するところはすぐに分かった。テレビでは絶対にそんな映像は流せない。

サッカーの母国・イングランドはフーリガンの母国でもある。アフリカ系の選手たちに対する一部サポーターの差別的な言動も一時大問題になった。他の国のケースは不明にして知らないが、イングランドのサッカー・スタジアムではアルコールは販売禁止である。そして、警備員の数はやけに多い。
アルコール提供は貴賓席のみ例外だと理解している。

ちなみに、これに比べてラグビーの観戦事情は大いに異なる。
筆者の乏しい経験では、多くがビール片手に観戦していた。着飾った女性客も珍しくなかった。
サポーターはホーム・アウェイに関係なく、入り混じって観戦し、年配の案内人はいたが、警備員は目立たなかった。
閉口するのはプレー中でもビールのお代わりを買いに席を立つ観客が多いことくらい。
周辺でそういう人が席を立つ度に視界が妨げられた。

サッカーの話に戻ると、開催中のワールド・カップで日本代表が予選を突破すると、この“母国”イングランド代表チームかルカク選手を擁するベルギー代表チームのどちらかと対戦する。
ポーランドに続き、その先も、是非撃破してもらいたいと願って止まない。

(フジテレビ・二関吉郎解説委員)