二度のきびす返しの意味は?米朝会談を見つめた一日【リアル首相動静】

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12日に開かれた、トランプ大統領と金正恩委員長による史上初の米朝首脳会談

日本の安全保障や拉致問題の今後を大きく左右するこの会談を安倍首相はどう見ていたのか。

首相番記者の視点で歴史的一日を振り返ります。

運命の朝

米朝首脳会談当日の朝、安倍首相は、会談開始1時間前の午前9時に首相官邸に入りました。

普段は、記者団から「おはようございます」と声をかけられると、手を上げて「おはよう」とはっきり聞こえる声で返すことが多いのですが、この日はかすかに聞き取れるかどうかという、小さい声で「おはよう」と返しました。

表情も非常にこわばっていて、歴史的会談が行われる一日に臨む緊張感が感じられました。

仕事中も気になる?会談の行方

米朝首脳会談が始まった午前10時、安倍首相は、予定ではマレーシアのマハティール首相を首相官邸のエントランスで出迎える予定でした。

しかし、その時間に安倍首相もマハティール首相も現れず、出迎えは結局15分遅れの10時15分に行われました。

安倍首相が米朝首脳会談の冒頭の様子をテレビで見るために予定を調整したとみられます。

そしてマハティール首相との首脳会談も予定より遅れて始まり、共同記者会見も30分以上遅れました。

その会見で安倍首相は、「核・ミサイル、そしてもっとも重要な拉致問題の解決に向けた前進をもたらすことを期待している」と述べました。

その後、安倍首相は、拉致問題担当の官僚と面会しました。

面会後この官僚は笑顔で官邸を後にし、安倍首相も昼食に向かう際には、秘書官と談笑する姿が見受けられました。

米朝会談が拉致問題を前に進めるきっかけになる手ごたえが表情に表れたのかもしれません。

両首脳の署名・トランプ氏会見の時、安倍首相は…

午後になり、米朝首脳による共同声明の署名や会見が近づくと、官邸には外務省幹部が次々と訪れるなど、動きが慌ただしくなりました。

そして共同声明に両首脳が署名した午後2時40分、安倍首相は官邸で秋葉外務事務次官と共にいました。

テレビで署名の様子を見ながら、秋葉氏から最新情報を含めた報告を受け、今後の対応を確認していたとみられます。

さらにトランプ大統領が記者会見を開いた午後5時30分も、安倍首相は官邸で秋葉次官と面会していました。

同じく、次官と共にテレビで会見を見ていたとみられます。

会見でトランプ氏は金正恩委員長に対し「拉致問題を提起した」と明言しました。

ぶら下がりで“きびすを返した”安倍首相

トランプ氏の会見を受け、安倍首相は記者団のいわゆる「ぶらさがりインタビュー」に応じ、「拉致問題について明確に提起していただいたことについてトランプ大統領に感謝したい」と、謝意を述べました。

その上で拉致問題について、「二国間で解決していかなければならない」と決意を示しました。

安倍首相が一通りのコメントを終え、官邸を後にしようと歩き出したところ、記者団から、「米朝の共同声明に拉致問題の記載がないことについて」の質問が飛びました。

こうした追加の質問については、首相本人も秘書官も基本的には答えるのを嫌います。


それでも、最近は応じることが多くなっていて、この日も安倍首相はきびすを返してカメラの前に戻り、強い口調で次のように述べました。

「合意文書については、米側から説明がすでにあったとおりであります。しかし、拉致問題について、最終的に解決をしていくのはまさに、日本の責任において2国間の問題として、日朝で交渉しなければならない。日本としてしっかりとこの問題に全力をつくしていく」 拉致問題についての記載がなかったことへの直接の評価は避けた上で、問題解決への決意を強調した形です。

トランプ氏と電話会談後も「きびす返し」

そして夜9時半過ぎ、安倍首相はトランプ大統領から電話で、米朝首脳会談の報告を受けました。

この時、トランプ大統領は帰国の途中。

そのため、大統領専用機「エアフォースワン」との間での電話会談となりました。

電話の終了後、安倍首相はこの日2度目となる「ぶら下がり取材」に応じました。

この中では「トランプ大統領のリーダーシップと努力に対し、心から敬意を表したい」と述べた上で、拉致問題について「北朝鮮と直接向き合い解決していかなければならない」と、自らの手で解決する決意を強調しました。

そして、ここでも安倍首相がコメントを終えて立ち去ろうとしたときに記者から、「共同声明に非核化の時期が明記されなかったことについては」という追加質問が飛びました。

これに対し首相は再びきびすを返すと、次のようにコメントしました。

「非核化の時期等については、まずはですね、完全な非核化について明確に北朝鮮がコミットしたということです。金正恩委員長が、トランプ大統領に対して確約したということは、極めて重たいと思います。そして、共同声明の中にあるように、迅速に進めているということが書き込まれています。まさに言葉通り、迅速に進めていかなければなりません。」

追加質問に応じた首相の胸中は…

夕方、夜ともに、取材対応をいったん終えようとした後に、追加質問にあえて応じた安倍首相。

その対応にはどんな意味があるのでしょうか。

追加質問の内容だった「共同声明に拉致問題が記載されなかったこと」や「非核化の時期が盛り込まれなかったこと」は、日本にとって米朝会談の成果として十分とは言えない要素で、首相としては、やや痛いところを突かれた質問かもしれません。

しかし、この質問に答えないと、痛いところを突かれていることを半ば認めた形になってしまうため、それならば問いかけに応じ、米朝会談の前向きな成果を強調することで、懸念を払しょくしたいと考えた、と思われます。

北朝鮮の非核化への具体的な道筋づくり、そして拉致問題解決への日朝間での交渉という課題が明確になった今回の米朝首脳会談。

今後、問題を解決するに資する日朝首脳会談を実現できるかどうか、安倍首相の外交手腕が問われる局面が続きます。


(政治部 首相番記者 梅田雄一郎)