トランプ大統領の「関税好き」は天下の愚策

カテゴリ:ワールド

  • トランプ大統領がシャルルボアG7サミットで“ちゃぶ台返し”
  • 不評のシンガポール会談の目先を変えるために対中制裁関税発動
  • さらに「輸入自動車に25%の関税」検討を商務省に指示

「やんちゃ外交」が止まらない

シャルルボアG7サミット

今月はトランプ大統領の「やんちゃ外交」が止まらない。

トランプ劇場の第1幕は、シャルルボアG7サミット(6月8~9日)だった。年に1度、先進民主主義国の結束を確認する場のはずのサミットが、「G6対1」に分裂してしまった。

無理もない。よりによって開催の1週間前、6月1日からアメリカはEUやカナダからの鉄鋼・アルミ輸出に対する追加関税を実施した。議長国カナダのトルードー首相は、これではNAFTA再交渉もつぶれてしまうと怒り心頭。そしてEUから見れば、トランプ大統領は「パリ協定離脱」「イラク核合意離脱」に続く3度目のちゃぶ台返しである。

トランプ大統領は「貿易赤字が問題だ」という。しかし関税を上げれば貿易赤字が減るというものではない。
論より証拠、日本からのアメリカ向け鉄鋼輸出は、一足先に25%の関税が課されている。しかし4月の貿易統計を見ると、対米輸出は前年同期比13%増(数量ベース)であった。
本当に必要な製品であれば、需要家は泣く泣く関税を上乗せして買わなければならないのだ。

新たな騒ぎを起こして目先を変える

トランプ劇場の第2幕は、6月12日にシンガポールで行われた米朝首脳会談だった。日本でもいろんな批判が飛び出しているが、アメリカ国内でも評判はよろしくない。

こういうとき、トランプ大統領は新たな騒ぎを起こして目先を変えてしまう。
6月15日、今度は対中制裁関税を発動すると発表した。中国の知的財産権侵害への制裁措置として、500億ドル分の中国製品に25%の関税を課すという。中国側は即座に報復関税を課して対抗する構え。
今月のトランプ劇場第3幕は、米中対立というわけだ。

中国の貿易慣行には確かに問題がある。本来ならば、他国と協調して是正を迫るべきであろう。ところがトランプ政権は同盟国を敵に回したうえで、関税を武器に二国間で解決を迫っている。

しかしこれはもったいない話である。関税を支払うのは中国の企業ではない。アメリカの消費者が支払って、アメリカ政府が受け取る。つまりは増税である。しかも輸入物価が上昇して家計を直撃することになる。高関税政策は自傷行為のようなものであり、アメリカ経済にとって確実にマイナスになるだろう。

トランプの「トンデモ経済学」がアメリカ経済を台無しに?

さらにトランプ大統領は、「輸入自動車に25%の関税をかける」ことを検討せよと商務省に指示している。これが実現すれば、年間170万台(4.6兆円)も自動車を対米輸出しているわが国にとっては一大事だ。しかしご安心を。商務省の調査には270日もかかる。結論が出る頃には、秋の中間選挙も終わっているはずだ。

それ以上に、2017年の米国の自動車輸入は3590億ドルであるから、25%の関税は実に900億ドル(約10兆円!)の増税ということになる。これはさすがに無茶だ。景気を冷やしてしまうだろう。

トランプ大統領には根本的な誤解があるとしか思えない。
メキシコ国境に壁を作っても、不法移民が減るという保証はない。そして関税を上げたところで、貿易赤字が減るわけではない。今のところアメリカ経済は絶好調が続いているけれども、大統領の「トンデモ経済学」が台無しにしてしまうかもしれない。
ご用心を。

(執筆:双日総研チーフエコノミスト 吉崎達彦)

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