そして半島に核が残ったら…

カテゴリ:ワールド

  • かつて北朝鮮との交渉にあたった専門家は「失望したとしか言いようが無い」
  • “完全・検証可能・不可逆的な非核化”は遥か彼方。曖昧な形でも核が残ることは日本は看過できない
  • 絶望はまだ早い。しかし、にっちもさっちも行かなくなってからジタバタしても遅い。

トランプ氏「ハンサムで痩せて見えるように」

「トランプとジョンウンの合意文書には何が書いてあるんだ?」
「次に会うまでにお互い20キロは痩せようって約束が書いてあるのさ。」
「守る気はあるのかな?」
「ある訳ないさ。もう会う気が無いんだから。」

もちろんジョークである。だが、次の軽口は本当である。

 「皆さん、良い映像を撮っていますか?我々がハンサムで痩せて見えるように。パーフェクトだね。」

“Getting a good picture everybody? So we look nice and handsome and thin? Perfect.”

トランプ大統領は12日のワーキング・ランチ冒頭、このように代表取材陣に語りかけたのである。

筆者は、その時、大統領の余裕の表れと受け止め、その後の会談結果発表に期待したのだが、大外れだったのはご案内の通りである。

“北”の専門家「失望したとしか言いようが無い」

第二次朝鮮戦争勃発寸前だったと言われる最初の核危機は94年に起きた。

その時、最終的に“枠組み合意”をまとめて危機の回避に成功した立役者の一人、アメリカのガルーチ元担当大使は、今回の米朝首脳会談の結果について次のように論評している。

「失望したとしか言いようが無い。」「彼が言うところの非核化の意味といつそれが実現するかについて金委員長の考えをある程度明確に聞き出す事ができるかどうかが首脳会談の焦点だったが、結果はゼロであった。」

多くの専門家と同じようにガルーチ氏も辛辣だ。

クリントン政権で北朝鮮との交渉にあたったロバート・ガルーチ元国務次官補

しかし、それでも“ミサイルをぶち込む”よりはマシである。
ガルーチ氏も、イギリスの故チャーチル首相の言葉を引用して「たとえ牙をむき出しながらでも話し合いの方が戦争より良い。」と断じている。それに、もしかすると、トランプ大統領が、根拠を示さないままながらも自信満々なように、この後、本当に非核化が進行していくことになるかもしれない。
絶望するのはまだ早い。

“CVID”は遥か彼方…日本への核・ミサイルの脅威は

だが、今回の合意は、検証の為の査察や非核化のスケジュール、廃棄の対象の範囲など具体的な必要事項について全く触れていない。

今後の交渉に委ねられるという訳だが、“完全で検証可能で不可逆的な非核化・CVID”は依然遥か彼方にあるように思える。そして、その道程はほぼずっと濃霧に包まれたままである。

このままでは、北の核がほぼ永遠に残ってしまっても全く不思議ではない。

首脳会談前のことだが、某核保有国の専門家から「平壌で“CVID”受け入れのムードは全く感じられない。韓国だって“CVID”を心底で望んでいるか疑わしい。日本はどうするのだ?」旨の問いかけを受けたことがある。

万単位といわれる北朝鮮の長距離砲・ロケット砲の脅威に常に晒されている韓国にとっては、北の核の除去に拘るより、半島の緊張緩和を実現する方が早く安心できる。また、韓国が保持していない北の核技術は、いつになるか判らないが、将来、役に立つかもしれない。だから、韓国は今回の首脳会談合意でも十分満足できるのかもしれない。

しかし、我が国にとっては北朝鮮の核兵器と中距離の弾道ミサイルの脅威は切実である。
たとえ曖昧な形でも、彼らの核が残ることは看過できない。

アメリカの後ろ盾もいつまで頼りにできるかわからない。トランプ大統領の今回の行動は、この懸念をより現実のものにしたと考えるべきかもしれない。

繰り返しになるが、絶望はまだ早い。しかし、にっちもさっちも行かなくなってからジタバタしても遅い。

日本をどう守る?問われる国家の意思

我が国の安全保障をどのようにして確保し続けるか?
その根幹部分を他人任せ、しかも一人だけに任せたままで未来永劫大丈夫なのか?
いずれアメリカから中国に乗り換えれば良いなぞという考えは有り得ない。では、どうするのか?
国家の意思が改めて問われているのかもしれない。

もちろんジョークを言って笑っているだけでも問題は無い。当面、軍事衝突は無い。
しかし、自国の安全保障問題を再び真剣に考えるべき時がいよいよやってきたと、昨日の米朝首脳会談をみて思うのである。


(フジテレビ・二関吉郎解説委員)

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