33年前の米ソ首脳会談より良いスタートかも

木村太郎
ワールド

  • アメリカがソ連を「悪の帝国」と呼び緊張が高まる中開催された米ソ首脳会談
  • レーガン・ゴルバチョフ二人の信頼関係は育まれるも、米ソ間の溝は埋まらず
  • ジュネーブ・シンガポール両会談の共通点

東西緊張が高まっていた33年前

レーガン大統領とゴルバチョフ書記長の最初の握手

「それぞれの体制及び国際問題への取り組み方の相違を認めつつも、両首脳は、双方の見解につきかなり理解を深めることが出来た。両首脳は、両国関係及び国際情勢全体を改善する必要性につき合意した」

トランプ米大統領と金正恩北朝鮮労働党委員長の首脳会談後の共同声明文と思うかもしれないが、そうではない。
今から33年前「冷戦終結のきっかけになった」とされるジュネーブでのレーガン米大統領とソ連のゴルバチョフ書記長の首脳会談の共同声明文の一部だ。

この米ソ首脳会談が開かれた当時、レーガン大統領はソ連を「悪の帝国」と呼び、ソ連は84年のロサンゼルス五輪をボイコットして「新冷戦」と呼ばれる東西緊張が高まっていた。

米ソの溝は埋まらなかった「炉辺サミット」

暖炉の前で二人だけで会談した「炉辺サミット」

そうした中で行われた首脳会談は、レーガン大統領の希望でゴルバチョフ書記長との二人だけの会談で始まった。
暖炉の前でくつろいだ二人は通訳を入れただけで約45分共に過ごし、これでいっきに二人の信頼関係が育まれ、後にこの会談が「炉辺サミット」と呼ばれることにもなった。

その後、会談は両国の閣僚も入った全体会議に移ったが、米ソの溝は埋め難く、ほとんど何も決まらずに冒頭のような共同声明で「お茶を濁して」幕を閉じたのだった。

ジュネーブ会談とシンガポール会談の共通点

このジュネーブの首脳会談を今回のシンガポールでの米朝会談と重ねると、驚くほど共通点がある。

まず会談前の両国関係だが、トランプ大統領が金委員長を「チビのロケットマン」と呼び、北朝鮮も米国にあらん限りの悪口雑言を浴びせて最悪だった。
そうした中で二人のサシの会談で始まり、その時間が奇しくもジュネーブの時同様に45分だったのは興味ある一致だ。
その結果、トランプ大統領は「金委員長は有能で国を愛している」とすっかり信用したのも、ジュネーブのレーガン大統領と同じだ。

違うのは、この会談を通じて「朝鮮半島の非核化」などが明文化されたことで、ジュネーブ会談の場合「核戦争に勝者はなく、核戦争は決して戦われてはならないことにつき意見の一致を見た」と理念だけで具体的な道筋すら述べられなかった。

国家間の不信感を払拭する難しさ

米ソ間では翌86年にアイスランドで第2回の首脳会談が開かれるも、米国のSDI宇宙兵器開発構想をめぐって対立が解消せず、その後ワシントン、モスクワでの首脳会談を経て1989年マルタ島での首脳会談で冷戦の終結が宣言されるまで4年かかった。

私もモスクワを除く4回の首脳会談を現地で取材したが、国家間の不信感を取り除くのには時間が必要だということを実感したものだった。

米朝のシンガポールでの顔合わせはジュネーブでの米ソの場合よりは良いスタートを切ったように見えるが、両国の不信感を払拭し「非核化」を実現するにはまだまだ時間が必要だということは覚悟しておくべきだろう。

(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)
(イラスト:さいとう ひさし)

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