【米朝首脳会談】署名テーブルの影で起きたこと

カテゴリ:ワールド

  • 北朝鮮の非核化は、努力目標?トランプ大統領は拉致に言及
  • 北朝鮮代表団の往復飛行ルートは、通信傍受を避けるため?
  • 金委員長がワシントンを訪問すれば、起こること

米朝共同声明に署名

12日の米朝首脳会談で、トランプ大統領と金正恩委員長は、共同声明に署名した。トランプ大統領は、その後の記者会見で、この共同声明を「包括的文書」と呼び、完全で検証可能かつ不可逆的な核放棄(CVID)の文字はなかったが、「北朝鮮が朝鮮半島の完全な非核化に向け努力」と、「トランプ大統領は朝鮮民主主義人民共和国の安全を保証することを約束」という文字が入った。

米国が北朝鮮の安全保障をするというのに、北朝鮮の非核化は努力目標にとどまったという意味にもとれるかもしれない。共同声明には、北朝鮮の弾道ミサイル廃棄についての言及はない

トランプ大統領は、署名後の記者会見において
・会談で日本の拉致問題を提起したこと
・核問題が重要でなくなるまで、制裁を続けること
・適切な時期に金正恩委員長をワシントンDCに招待する考え
を強調した。

金委員長は、米の傍受を避けてシンガポール往復?

高麗航空IL-76MD型大型輸送機(提供:sunagimo6000さん)
高麗航空IL-62M型旅客機(提供:sunagimo6000さん)

10日、北朝鮮の金正恩委員長一行は、高麗航空IL-76MD型大型輸送機、同IL-62M型旅客機、そして、中国国際航空ボーイング747型機でシンガポール入りした。

中国国際航空ボーイング747型機(提供:sunagimo6000さん)

民間機の現在位置と航路を示すウエブサイト「フライトレーダー24」によると、これら3機は、中国領空を南下し、海南島の上空、中国軍の進出が著しい南シナ海を通過し、ベトナム上空を通って、シンガポールに到着した。
まるで、米軍の通信傍受用偵察機や哨戒機が頻繁に飛んでいる東シナ海や太平洋を徹底的に避けたかのようである。

シンガポールに到着した金正恩委員長

翌11日、北朝鮮の通信社やテレビは、金正恩委員長がシンガポールの空港に、中国国際航空機から降り立った際、AIR CHINA(中国国際航空)の文字をしっかり示す画像を報じていた。
今回の米朝首脳会談にあたって、金正恩委員長の後ろに”中国”の文字。北朝鮮側は敢えて、それを強調したようにも受けとめられる。

米大統領車列にARA-0548アンテナ

VC-25(上)とVH-3D(下)

首脳の移動の際、首脳の安全と、どのように確実かつ安全な通信を確保するかは極めて重要な事項だ。
トランプ大統領が外遊する際は、大統領が搭乗すると、コールサインが“エアフォース・ワン”となる大統領専用機VC-25型機を使用。外遊先で必要なら、大統領が搭乗するとコールサインが、"マリーン・ワン"となるVH-3型ヘリVH-60型ヘリを使用。
車両も、防弾ガラスの厚さが12cm以上と言われ、耐弾性を高めた"2009キャデラック・プレジデンシャル・リムジン"、キャデラック・ワン(通称、ビースト)を使用する。

ARA-0548アンテナを取り付けた車両

これらは、いずれも、大統領の安全確保と安全な通信確保のためだ。今回、シンガポールでの、トランプ大統領の車列には、少なくとも、2両、十字型の「ARA-0548アンテナ」を取り付けた車両があった。このアンテナは、小型だが、車両が走りながら衛星通信を行うのに適した通信アンテナとされ、米軍の装甲車にもしばしば、積載されている。

ARA-0548アンテナを搭載したM-ATV装甲車

トランプ大統領、金委員長をワシントンに招待の意味は?

一方、金正恩委員長は、中国国際航空機搭乗中は、平壌との通信が必要になっても、米国にさえ傍受されなければ中国にモニターされても構わない、と考えていたのだろうか。
ただし、シンガポール国内では、北朝鮮側も前述のIL-76MD型輸送機で持ち込んだ、メルセデス・ベンツSクラスを改修した金委員長の専用車を使用していたので、安全な無線通信の確保に腐心していたのかもしれない。

このクルマの通信機材が、どのようなモノかは不明だが、積載されているならば、金委員長が北朝鮮政府、党、そして何より、軍とどのように通信するのか、各国の興味を引いただろう。
北朝鮮内部での通信は、グラスファイバー化が進んでいて、重要な通信は無線への依存が必ずしも高くなく、空中からの通信傍受は困難と見られているからだ。

シンガポール米朝首脳会談の記者会見で、トランプ大統領は、将来における米韓演習の中止在韓米軍の縮小など北朝鮮側が恐らく無視できない"可能性"を示唆した。
それとともに、トランプ大統領は二回目の米朝首脳会談を視野に、金正恩委員長をあらためて、ワシントンD.Cに招待する考えを明らかにしている。

金委員長が応じれば、結果として、米国は何を得るのか。

それは、日本にとってはどんな意味があることなのか。興味深いことである。

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