袴田事件 地裁決定に高裁「かなり論理の飛躍」半世紀を要したDNA鑑定の進化

カテゴリ:国内

  • 52年前、みそ会社の専務一家4人が殺害された「袴田事件」で、高裁は再審請求を棄却
  • 争点は2つ DNA鑑定と血がついた衣類の変色
  • 「ねつ造を結びつけることはかなり論理の飛躍がある」と地裁決定を完全否定

52年前の事件が今ふたたび

「袴田事件」とは、1966年に今の静岡市清水区で、みそ会社の専務一家4人が殺害され、当時従業員だった袴田巌元被告が逮捕された事件。その後、1980年に最高裁で死刑が確定したが、袴田元被告は裁判で無罪を主張していた。

 2014年、第二次再審請求で静岡地裁は再審=裁判のやり直しを決定し、袴田元被告を48年ぶりに釈放。しかしその後、検察側はこの決定を不服として即時抗告し、東京高裁で4年にわたる審理が続けられてきた。

そして、その結果が11日高裁から示された。

地裁決定をことごとく覆した高裁

「5点の衣類」

「地裁決定を取り消し、再審請求を棄却する」。
高裁は再審開始を認めない決定を示した。
東京高裁の決定はことごとく地裁決定を覆すものだった。主に2つの争点に着目してそれぞれの決定を比較する。

 1:DNA鑑定
【犯人が着ていたとされる衣類に付いた血痕について】
静岡地裁:
特別なたんぱく質を使った独自の手法で「血痕は被害者のものでも袴田元被告のものでもない」と結論づけた弁護側のDNA鑑定を採用。
東京高裁:
そもそも、衣類は保存条件が悪いなどの理由でDNAの分解がかなり進んでいて、DNA鑑定によって検出できない状態になっている可能性がある。その上で、弁護側の鑑定方法は、新規の手法であり確立した科学的手法とは言えず、信頼性が十分でない。

 2:血がついた衣類の変色
【事件から1年2か月後に工場のみそタンクから見つかった衣類について】
静岡地裁:
弁護側の実験をふまえ、「長期間みそ漬けされていたと考えるには、衣類の色が薄く血の赤みが強すぎ、捜査機関によるねつ造の可能性がある」と指摘。
東京高裁:
写真は、写真自体の劣化や撮影時に照明などで色合いが異なるため、当時の色合いが正確に表現されていない。また、実験で用いられたみそは、タンク内のみその色合いを正確に表現したものとはいえない。

地裁を完全否定…「ねつ造と言うにはかなりの飛躍」

証拠として開示された録音テープ

今回、高裁審理で初めて取り調べ録音テープが証拠として開示された。
取り調べでは、犯行の着衣をパジャマと話していた袴田元被告だが、その後、みそタンクから犯行に使用したとされる衣類が見つかり、検察側は、犯行着衣をパジャマから衣類に変更している。

これらの経過を踏まえ、静岡地裁は「衣類の発見の経緯に不自然さがある」として、捜査機関のねつ造の可能性を指摘していた。
しかし、この点について東京高裁は「犯行着衣はパジャマであると自白させているのに、それと矛盾する証拠をねつ造することは考え難い」として、「取り調べから、衣類のねつ造を結びつけることはかなり論理の飛躍がある」とまで言及し、地裁の「ねつ造の疑い」を完全否定した。

なぜこれほどまでに時間が…今後は?

事件からおよそ半世紀、逮捕時30歳だった袴田元被告は82歳になった。
今日に至るまでに、なぜ52年もの年月を要したのだろうか。

今回の再審請求は第二次再審請求だが、袴田元被告は、最高裁で死刑判決が確定した翌年の1981年に第一次再審請求を行っている。しかし、当時の結論は「DNA鑑定は不可能」というものだった。

それから40年近くが経ち、DNA鑑定の技術は飛躍的に向上した。
現在、DNA鑑定で型が一致する可能性はおよそ4兆分の1と言われるなど、とても高精度なものになっている。
それに伴い、多くの学者や研究者が様々な手法を用いてDNA鑑定を行うようになっている。
そうして生まれた様々な手法について、裁判所は適切であるかを見極め判断することが求められているのだ。

 他の再審事例は高裁審理は2年前後が多いのだが、今回は主な争点がDNA鑑定の信頼性だったこともあり、4年という比較的長い時間が費やされたと言えるかもしれない。
事件発生から52年、非常に長いようだが、これは日本のDNA鑑定が技術向上に要した時間でもあるのだ。

今後の見通しとしては、おそらく弁護側が最高裁に特別抗告をし、再審開始を認めるかどうかの判断は最高裁に委ねられることになる。最高裁も数年で結論を出すだろうが、もし再審開始を認めない決定が出されれば、袴田元被告が再収監される可能性がある。
もちろん、高裁の決定が最高裁で覆る可能性もあるが、再審開始の扉を開くにはなかなか厳しい局面にあると言えるかもしれない。


(取材:フジテレビ 社会部 司法担当 松木麻)

 

取材部の他の記事