シンガポール会談の裏で中国の「脅しと威圧」に警戒せよ

カテゴリ:ワールド

  • 北朝鮮にとっての頼みの綱は 陸路から石油を輸入することができる中国とロシア
  • 中国は、世界の視線が北朝鮮に集中している間に、南シナ海支配を盤石なものにしつつある
  • 中国への警戒を強化し、日米豪で海洋安全保障における共通の指針を作成することで合意

安全保障分野で中国の国際進出が無視できない

アジア安全保障会議

国際的な安全保障分野において、北朝鮮問題は、中国の国際進出と関係付けられ、議論されている。

6月2日、3日、シンガポールで行われたアジア安全保障会議では、北朝鮮による核・ミサイル開発の国際社会に与える脅威の除去とインド太平洋地域の安定と発展が主要なテーマであった。

北朝鮮問題は、国連安保理決議に基づく制裁が功を奏し、北朝鮮は国際社会への譲歩をせざるを得ない状況になっている。石油類の輸出禁止措置を回避する不法な取引「瀬取り」は、日米豪など主要国の積極的な警備により、東シナ海のみならず南シナ海においてもその監視の目が強化された。北朝鮮を石油製品不足に追い込み、軍事機能を麻痺させることに成功した。

北朝鮮の頼みの綱は中国とロシア

12日には米朝首脳会談が開かれるが、北朝鮮の金正恩委員長の言動から察すると、現在の北朝鮮における権力体制の維持のため、問題解決の先送りを目論み、具体的進展は望めないだろう。その場合、さらなる制裁の強化が求められる。

北朝鮮にとっての頼みの綱は、陸路から石油を輸入することができる中国とロシアである。特に金委員長は、中国の習金平氏を直接訪問する「朝貢外交」を展開するなど、その傘下に入ることを望んでいるようだ。米朝首脳会談にあたっても、対米戦術の指南を受けていることも容易に想像できる。

中国としては、「一帯一路」政策の一環として、北朝鮮の経済と社会の中国化を図るとともに、将来的には、アジアインフラ投資銀行(AIIB)の投資対象として取り組んで行くことだろう。

アメリカは中国への警戒を怠っていない

米朝首脳会談へ向かうトランプ大統領

対する米国は、米朝首脳会談を前に、南シナ海における航行の安全作戦の実施など、北朝鮮の後ろ盾となる中国に対する警戒を怠っていない。台湾海峡に空母を派遣することすら匂わしているのだ。

中国は、世界の安全保障に対する視線が北朝鮮やシリア問題に集中している間に、南シナ海支配を盤石なものにしつつある。南シナ海のミスチーフ礁、スビー礁、ファイアークロス礁に建設した三つの人工島には、港湾施設が整備され、2000人規模の兵士が駐屯できる施設が作られている。さらに、電子戦システム、地対空ミサイル、対艦巡航ミサイルなどの発射拠点が形成されているようだ。

また、南シナ海諸国への威圧行動もエスカレートしている。

4月12日、中国南部の海南島沖で空母「遼寧」も参加させて大規模な海軍の演習を行い、近隣国に強化した軍事能力を見せつけた。さらに、5月18日には、南シナ海の複数の人工島において、核搭載可能なH6K爆撃機の離着陸訓練を行い、中国による南シナ海全域の支配を既成事実化しようとしている。

中国とベトナムが領有権を主張しているパラセル(西沙)諸島海域では、今年4月に、武装した船員を乗せた2隻の中国漁船が、ベトナム漁船に体当たりし沈没させる事件が起きた。5月には、操業中のベトナム漁船が中国の警備艇と衝突し沈没している。

フィリピンでは、5月11日、中国の軍艦の搭載ヘリコプターが、航行中のフィリピン海軍の艦船に異常接近した。フィリピンの大統領顧問で安全保障を担当するヘルモヘネス・エスペロン氏は、フィリピン軍が攻撃や挑発行為を受ける事態になれば戦争も辞さないと発言した。さらに、カエタノ外相は、「もし誰かが南シナ海の天然資源に手を出したら、ドゥテルテ大統領は戦うだろう」と述べている。

中国は、南シナ海を管轄海域とする動きに再び、力を入れ始めたのである。

南シナ海への進出に対しては徹底的抑止戦略を

アジア安全保障会議で発言する米国のマティス国防長官

アジア安全保障会議の場となったシンガポールに置いて、米国のマティス国防長官、オーストラリアのペイン国防相、日本の小野寺五典防衛相が会談し、南シナ海の軍事拠点化を遂行している中国を念頭に、海洋安全保障における共通の指針を作成することで合意した。
ASEAN諸国と中国の間で議題となっている「南シナ海行動規範」は、ASEAN加盟国の中には中国から多大な財政支援を受けている国もあり、中国を抑止する内容での合意は、難しいのが実情だ。
そこで、海洋利用国である日米豪が協力することで、南シナ海における海洋秩序を取り戻そうというのだ。

マティス国防長官は、シンガポールで行った講演の中で、中国のインド太平洋地域における「脅しと威圧」、特に度重なる南シナ海における中国の軍事的行動を非難した。
北朝鮮の脅威が、中国の戦術のひとつに加えられることは避けなければならない。そのために、主要国が連携し、北朝鮮の核開発、ミサイル装備を徹底的に放棄させなければならないのである。

今後の海洋安全保障は、南シナ海における中国の侵出に対し、日米豪およびインドなどの主要国が沿岸国を支援する形で加わり、徹底的に抑止する戦略をとることになるだろう。
一時的に再び緊張は高まるだろうが、問題を先送りしては取り返しのつかない事態になる。すでに、三つの人工島による軍事拠点は完成しているのである。

米朝首脳会談における北朝鮮の後ろには、中国の影を感じる。東アジアの情勢は、日本の安全保障にとっても重要な問題であり、日本国民は中国の動きに注視しなければならないのだ。

(執筆:海洋経済学者 山田吉彦)

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