北の担当者達が示唆した交渉プランを検証する

二関吉郎
カテゴリ:ワールド

  • 米の北朝鮮専門家が「北朝鮮の担当者達が私に語った彼らのプラン」を明らかに
  • 北朝鮮が求めた非核化の鍵は“敵視政策の放棄” 
  • 元交渉担当者は「北朝鮮が何を考えているか、‘わからない’という態度で臨むべき」

「非核化は多段階のステップ…鍵はまず最初に何をするか」

「米国務省のアジア政策の責任者スーザン・ソーントンは、先週、北朝鮮の非核化は多段階のステップを必要とする長期のプロセスになる、鍵はまず最初に何をするかである、と発言した。」

“Susan Thornton, the acting assistant secretary of state in charge of Asia, said last week that it was obvious there would be multiple steps in a long process of denuclearization, and the key issue was what happened first.”

「このソーントンのアプローチは最終的に非核化をもたらす可能性を意味するかもしれない。しかし、ボルトン補佐官が求めるリビア方式では非核化の実現はないだろう。」

“The Thornton approach could mean, over the long term, that it really happens. The Bolton approach would assure that it won’t.”


補足の為一部意訳したが、このコメントはアメリカの北朝鮮専門研究機関・38ノースの創設者、ジョエル・ウィット氏のものである。

ウィット氏は、クリントン政権の一員として94年の枠組み合意の交渉に直接携わった北朝鮮問題の専門家で、その後も、民間の研究者として、北朝鮮政府の対米交渉担当者と長期にわたって接触を続けてきた稀有な人物である。

ボルトン流の強硬姿勢とは異なり、ウィット氏は交渉優先の姿勢を一貫して崩さず、一部では融和的過ぎるという評価も無い訳ではない。しかし、彼が世界中の北朝鮮ウォッチャーが一目も二目も置く専門家であることは間違い無い。

ジョエル・ウィット氏

“北朝鮮の担当者が語ったプラン”

そのウィット氏が執筆した「北朝鮮の担当者達が私に語った彼らのプラン」“What the North Koreans Told Me About Their Plans”という解説記事が5日、38ノースのウェブサイトに掲載されたので、それを紹介したい。

今から5年ほど前、2013年のことだが、ウィット氏らアメリカの元担当者と北朝鮮の当局者が何度か非公式に接触を続けたという。その際、北朝鮮当局者が示した非核化の鍵は、とにもかくにもアメリカが“敵視政策”を放棄することで、その為には、政治・安全保障・経済の面で敵対的政策を止めることが必要と強調したという。

具体的には、政治面ではアメリカが北朝鮮を主権国家として承認し外交関係を確立すること、安全保障面では朝鮮半島の戦争状態に終止符を打ち、休戦協定に代えて、平和条約を締結すること、経済面では様々な制裁を解除することが必要と主張したという。

そして、これらの要求は“行動対行動”の原則に基づき、双方の相互的措置によって段階的に履行され、最終ゴールである敵視政策の破棄と非核化を実現すべきと求めたという。

さらに、北朝鮮の当局者達が描いてみせた彼らの取るべき措置は、三段階に別れ、第一段階で核開発計画を凍結し、第二段階で関連施設を破棄して使用不可能にし、第三段階でそれら関連施設と核兵器を解体するというものであったという。

もちろん、疑念は残る。

当時の北朝鮮当局者は、アメリカ側の第一段階の措置として、敵視政策を破棄する為に今後必要となる全ての措置を、まず、最初に宣言することを求めたという。
あくまでも宣言という“形の問題”に過ぎないと言えばその通りなのだが、しかし、それでは、北朝鮮側が将来の約束を明確にしないままアメリカだけが約束をすることになってしまう。そうアメリカの元当局者達が指摘すると、北側も、同様の宣言を考慮することに柔軟な姿勢を見せたという。

来るべき米朝首脳会談では、このような共同宣言が出されることになるかもしれないと思わせるエピソードである。

また、第一段階の凍結にあたって、それをどう検証し、確かめるかという問題が残る。
アメリカ側がこれを指摘したところ、北朝鮮の当局者も、“検証”が難題になるという認識を示したという。そして、北朝鮮側は「検証に関してはクリエイティブなアプローチが必要になる。それは難題だと言っただけでは解決できない。」と述べたという。

実際、ブッシュ政権下の六カ国協議で、北朝鮮は非核化を約束したが、その後、履行状況を検証するための国際査察の受け入れを拒否したため、あの合意は反故になっている。専門家のほぼ全員が査察の重要性に言及する所以である。

2013年の非公式接触では、北朝鮮側は、平和条約締結の暁には、韓国への核の傘の撤去と在韓米軍の撤退を要求したというが、現時点では、これらの点には拘わらない姿勢に転じているようだとウィット氏も評価している。

憶測になるが、朝鮮半島に対する中国の影響力の極大化を抑止するためには在韓米軍は必要という認識を金正恩政権は受け入れ始めたのかもしれない。

「我々は“わからない”という態度で臨むべき」

ウィット氏も明確にしているが、これはあくまでも5年前2013年の非公式接触の時の話である。

5年前に比べ、北朝鮮の核爆弾と弾道ミサイルの能力は格段の進歩を遂げている。金正恩委員長は、可能であるなら、核兵器を保有したまま経済発展を遂げるのが理想と考えていても不思議ではなく、言わば“パキスタン方式”の決着を狙っていてもおかしくない。

しかし、同時に、核とミサイル実験の停止と核実験場の“廃棄”にはすでに着手している。米朝首脳会談に掛ける意気込みは間違いなく感じられる。

 トランプ大統領は米朝首脳会談開催決定を再発表した際、非核化は“プロセス”になると表現した。すなわち、非核化達成に向け段階的なアプローチを受け入れる考えを示唆した。これは北朝鮮が望むことである。そして、現実的な方法としてやむを得ないアプローチでもある。

しかし、ウィット氏の上司として94年の枠組み交渉に関わったアメリカのガルーチ元担当大使は4日の記者ブリーフィングで、「北朝鮮が何を考えているかという疑問に対して、我々は‘わからない’という態度でまず臨むべきだ。」と戒めている。

そして、「我々は現在、北朝鮮の核・ミサイル開発のモラトリアムが成立していることを喜ぶべきである。しかし、それを新たな現実(a new status quo)として受け入れる事は北朝鮮の核兵器プログラムを正当化することになってしまう。それは我々自身の安全保障にとって誤りである。我々の同盟国の安全保障にとっても間違いであり、ソウルや東京が非核国家として存続し続けるという観点からも、不拡散体制の維持の観点からも誤りである。」

“we should be pleased that there seems to be a de facto moratorium.  But, to accept that as a new status quo is to legitimize a North Korean nuclear weapons program, and I think that would be a mistake in terms of our own security, the security of our allies, in terms of the incentives for Seoul and Tokyo to remain non-nuclear-weapons states, for the whole regime of nonproliferation.”

と、対話を歓迎する一方で、中途半端な妥協に警告を発している。

ロバート・ガルーチ氏

非核化への道程は、仮に首脳会談で首尾良く動き出しても、長く・困難なものになるのは間違いない。忍耐強い対応が不可欠である。失敗すれば、崖っぷちに急速に近づく。

幸いにというべきか不幸にしていうべきか定かで無いが、現時点ではトランプ大統領が性急な成果を求める可能性は低くなっているように見える。
確かに現実的な対応は大事である。しかし、他方で、ノーベル賞に目が眩んで安易な妥協をされるのも困る。トランプ氏が何を考えているのかも「我々は‘知らない’という態度でまず臨むべき」なのであろう。

そして、大統領のお得意の台詞「いずれ判る。」(We will see.)を借用して、この稿を終わりにしたい。

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