米朝首脳会談の陰に潜む火種

能勢伸之
カテゴリ:ワールド

  • 「非核化」対象は何か…KN-09多連装ロケット砲はKN-SS-X-9弾道ミサイルに分類替え
  • 中国H-6K爆撃機が南シナ海のウッディアイランドに着陸
  • 米中は国家存亡掛けて抑止は構築できるのか 

米トランプ大統領に金正恩委員長の親書を渡したのは、制裁対象者

6月1日、トランプ米大統領は、米国が制裁対象としていた北朝鮮の金英哲・統一戦線部長から、金正恩委員長の親書を受け取った。「我々は6月12日シンガポールにいるだろう。これが、始まりとなる。1度の会談で(非核化が)実現するとは言っていない」として、6月12日にシンガポールで会談を行うことに否定的な姿勢は示さなかった。

米朝首脳会談での、米国にとっての最大のテーマは非核化。非核化の対象が、何になるかも重要な要素だ。
北朝鮮の核弾頭の数は、10個から最大60個くらいまで諸説ある。その種類、数と場所を確定しなければならない。そして、それをどうやって処理するのかも決めなければならない。

どうなる「拉致」と「ミサイル」

また、日本にとって、気掛かりなのは、拉致とミサイル。
ミサイルについては、5月30日にハワイで行われた小野寺防衛相とマティス国防長官の会談で、北朝鮮の「短距離弾道ミサイルを含む、廃棄を目指す」ことで日米は一致したと小野寺防衛相はその後の会見で明らかにしており、これで、日本に届く弾道ミサイルは交渉の対象になる可能性がある。

興味深いのは、この交渉の対象になる弾道ミサイルは何か、ということ。
5月22日に公開された米国防省の「北朝鮮の軍事力リポート」で、今まで多連装ロケット砲として、分類されてきたKN-09を「KN-SS-X-9」システムとして、「close-range ballistic missile (CRBM)」という弾道ミサイルに分類した。

KN-09

それに際して、米国が廃棄を目指しているのは、北朝鮮の従来から弾道ミサイルに分類されていたものだけでなく、従来、多連装ロケット砲に分類されていたものまで、交渉のテーブルにあげさせようとしているのかもしれない。

KN-09は、もともと日本には届かないが、北朝鮮にすれば、ソウルやその周辺を直ちに叩ける能力を、米韓軍に対する抑止力と考えていたのではないか。それが、交渉の対象となって、削られるとなると、米韓軍に対して、北朝鮮軍としては睨みが効くのか、となりかねない。

非核化の見返り

また、非核化に対する見返りがどうなるかも気になるところだ。
北朝鮮が求める見返りは経済制裁の緩和にとどまらない可能性はもちろんあるだろう。かつての米ソのSALT(戦略核制限)交渉、米露の新START(戦略核削減)交渉では、相互に見合うように行うことが原則だった。

北朝鮮の非核化が、日本や韓国にいる米軍の存在に影響することになれば、日本の安全保障にも影響しかねない。
この点に関して、マティス米国防長官は、シンガポールで行われている「アジア安全保障会議」、いわゆるシャングリラ会合で「我々の目標はあくまで、完全で検証可能かつ不可逆的な朝鮮半島の非核化だ」と述べるとともに、「(在韓米軍は)北朝鮮との協議では議題にならない」と述べており、取引材料にはしない姿勢を明確にしている。

航行の自由作戦:米海軍艦は、中国H-6K爆撃機が着陸した島の12カイリ内に

こうして、米朝関係に注目が集まる中、5月27日に米海軍は、航行の自由作戦を決行した。中国がベトナムなどと領有権を争っている南シナ海のパラセル諸島=西沙諸島のウッディ島やトリトン島の12カイリ内を、米海軍のイージス駆逐艦ヒギンズとイージス巡洋艦アンティータムが航行したのである。米海軍が、ウッディ島を選んだのには理由がありそうだ。

中国が5月19日に公開、H-6K爆撃機の着陸シーン

中国は、H-6K爆撃機が南シナ海の島に着陸する映像を5月19日に公開したが、その島がウッディアイランドだったと、米国のシンクタンク「The Diplomat」は、映像などから分析した。なお、この分析では、ウッディアイランドには、J-11戦闘機、HQ-9地対空ミサイル、それにYJ-62対艦ミサイルが配備されているという。

これに対して、中国国防省は米国の軍艦が許可なく侵入したとして、軍艦と航空機を派遣し、海域を離れるよう警告。「中国の法律と国際法に違反し、中国の主権を侵害し、両国の軍の戦略的な信頼関係を損ねた」と発表した。
米国は、中国が南シナ海をどんどん軍事拠点化するのに反発して、航行の自由作戦の前の23日には、リムパック演習への招待も取り消している。

また、マティス国防長官は、先ほど、紹介した小野寺防衛相との会談の前に、ハワイに向かう恐らくはE-4Bの国家空中作戦センターの機内で「航行の自由作戦を積極的に否定し、憤りを示している国がひとつあるが、南シナ海は国際水域であり、航行の自由を多くの国が望んでいる」と言ったほか、2015年に、習近平国家主席が南沙諸島=スプラトリー諸島を軍事拠点化しないと約束したにもかかわらず、対艦・対空ミサイルなどを設置したと指摘して、中国の反発は意に介さず、今後も続ける姿勢を示している。

米中露 その戦略核戦略の現況

なぜ、中国は南シナ海に軍隊の基地を作り、軍事拠点化し、なぜ米国はあんなにも反発するのか。米中露の戦略兵器、つまり、国家の存亡と抑止問題に直結する状況を考えてみると、一つの側面が浮かび上がる。

北極中心の地図を見ると、米国とロシアは、北極海とカナダを挟んでいる。
それに対して、中国は、ロシアとは地続きで、米国とは、ロシア、北極海、カナダを挟んでいる。そして、米国とロシアは、新START条約とINF条約で、相互に軍縮して、戦略核兵器に関しては、条約上、バランスが取れていることになっている。

ところが、中国は、新START条約もINF条約も、当事者ではないから、こうした条約に縛られない。
中国は、米国まで届くICBMは、米露に比べるとまだまだ、という状況。戦略ミサイル原潜もまだまだで、戦略爆撃機に転用できる重爆撃機は持っていない。その代わりに、米露が、INF条約で全廃した射程500㎞から5500㎞の地上発射弾道ミサイルや巡航ミサイルを中国は、INF条約の当事者ではないので持っている。

南シナ海:米中の国家存亡が掛かった抑止の構築

従って、中国は近いところにいる相手には睨みが効く核戦力がある。
例えばロシア。ところが、ロシアの方は、INF条約で、それに匹敵する射程の弾道ミサイルも巡航ミサイルも持てない。

それに対して、米国は、中国から離れているので、戦略核兵器で中国に睨みが効く。また、中国には、米国に睨みが効くような戦略核兵器が少ない。特に戦略爆撃機になるような大型爆撃機、重爆撃機はゼロ。

しかし、中国が、米国に睨みが効くような戦略核兵器を増やして抑止力にしたいとなった場合、爆撃機のように普段、衛星で居場所が分かってしまうものより、居場所が分かりにくい戦略ミサイル原潜を優先するかもしれない。

だが、中国の周りの海をみると、東シナ海や渤海は遠浅で、大きな戦略ミサイル原潜が隠れて行動するのは向いているとはいえない。南シナ海には深さ2000メートル、4000メートルのところが広がっている。

深い海は、基地から出港したミサイル原潜が隠れているのに、適していると考えられる。基地を出たところから米国や豪州の哨戒機や軍艦、潜水艦にずっと追いかけられては、ミサイル原潜の役に立たない。

そこで、深いところを中心に、人工島などを作り、軍事基地化して、他国の哨戒機や軍艦が入れないようにすれば、ミサイル原潜が潜むことが出来、必要に応じて、太平洋に出て、敵の哨戒機や軍艦の追跡をかわすことが出来るという風に考えているのかもしれない。

南シナ海問題が、米中の間では、国家の存亡が掛かった抑止の問題であるならば、これは、簡単に解決する課題とは言えないだろう。


「能勢伸之の週刊安全保障」(6月2日配信)

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