日本版イージス・アショアは米国版と異なる可能性 秋田と山口で高まる関心

能勢伸之
カテゴリ:国内

  • イージス・アショア導入に向け、配置候補地で防衛政務官が説明開始
  • 米軍のイージス・アショアは弾道ミサイル防衛専用 
  • 日本周辺には弾道ミサイル以外に巡航ミサイルも脅威。イージスアショアは、今後巡航ミサイル防衛も視野に

イージス・アショアの配置候補は、秋田と山口

イージス・アショア

昨年末に日本政府が導入を決めたイージス・アショア。
秋田県と山口県の自衛隊の演習場にそれぞれ1基ずつ設置する方針だ。防衛省は6月1日、防衛政務官を配置候補の自治体に派遣し、説明を開始した。だが、イージス・アショアとは何なのか。地元では戸惑いの声も聞かれる。

イージスって、何? スマホに例えると・・・

イージス・アショアとは、米海軍や海上自衛隊のイージス艦が搭載しているイージス・ウエポン・システムを、地上に設置するというものだ。イージス・ウエポン・システムというのは、パソコンやスマホに例えると、基本ソフト(OS)にあたるのが「ベースライン」と呼ばれるシステム。

この「ベースライン」の上に載るのが、スマホやパソコンの「アプリ」にあたる「対航空機戦能力(AAW)」、「弾道ミサイル防衛能力(BMD)」、「巡航ミサイル防衛能力(CMD)」、「ハープーン対艦ミサイル発射・管制能力」、「トマホーク巡航ミサイル発射・管制能力」等々だ。

ただし、ベースラインの種類によって、アプリ=搭載可能な能力は変わる。現在、横須賀に配備されている米海軍のイージス駆逐艦「ミリアス」「ベンフォールド」「バリー」には、最新の「ベースライン9.C1」が搭載され、アプリにあたる能力としては、AAW(対航空機戦)、BMD(弾道ミサイル防衛)、CMD(巡航ミサイル防衛=NIFC-CA:海軍発達型火器管制ー対空)等が搭載されている。

しかも、弾道ミサイル防衛能力=BMDは、「イージスBMD5.0CU」という最新のものだ。イージスBMD5.0CUは、ノドンやスカッドER弾道ミサイルの迎撃に向いているSM-3ブロック1A、同1B迎撃ミサイルの発射、射撃管制が出来る。

さらに、DWESと言って、敵が弾道ミサイルを連射してきた場合、どのイージス艦(及び、イージス・アショア)がどの弾道ミサイルの迎撃を実施するか、イージス・ウェポン・システム同士のネットワーク上で瞬時に割り振ることもできる。

5月22日に米国防省が発表した「北朝鮮の軍事力」に関するリポートによれば、日本を射程とするノドンミサイルの移動式発射機だけで50両未満、ムスダン準中距離弾道ミサイルの発射機が、また、50両未満。さらに、この他にスカッドERという弾道ミサイルも日本に届くとみられるので、北朝鮮は、単純計算で100発近い弾道ミサイルを日本に発射可能ということになるだろう。

遠隔発射能力(Launch on Remote)は、例えば、日本海側と太平洋側に、弾道ミサイル防衛能力を持つイージス艦(及びイージス・アショア)が複数いて、日本海側のイージス艦(またはイージス・アショア)が、迎撃ミサイルを撃ち尽くしたが、太平洋側のイージス艦はまだ、迎撃ミサイルを残している。

敵がさらに弾道ミサイルを発射してきたが、太平洋側のイージス艦は、日本列島の尾根に遮られて、敵弾道ミサイルがある程度、上昇しないと、自艦のレーダーで捕捉できず、捕捉した段階では、迎撃ミサイルの発射のタイミングを逸することになりかねない。

しかし、日本海側のイージス艦(及びイージス・アショア)が敵弾道ミサイルを捕捉して、太平洋側のイージス艦に迎撃ミサイル発射のタイミングを教えることが出来れば、迎撃して、人々の命を守る可能性は残る。この迎撃ミサイルの発射のタイミングを教え合う仕組みが遠隔発射能力だ。

イージス・アショアって何?

ただし、こうした弾道ミサイル防衛能力を持つイージス艦には、日本防衛の場合、問題点がある。
1つは、隊員が乗った艦であるが故に、水や食料が必要であり、艦自体も整備が必要で、24時間態勢は組めても、母港に定期的に戻らねばならず、24時間365日態勢は無理だということ。

では、イージス・ウエポン・システムを地上に置けばどうか。1日3交代以上の態勢を組めば、整備期間を除き、ほぼ1年365日24時間態勢が組めるだろう。それが、イージス・アショアだ。

イージス・アショア

米軍は、イランの弾道ミサイル対策として、ルーマニアとポーランドにイージス・アショアを設置したが、これはイージス艦の様々な能力をすべて、地上に移植したものではなく、弾道ミサイル防衛機能だけを移したものだ。

このため、スマホのOSにあたる基本システムは、ベースライン9Eという、前述のベースライン9.C1を簡略したものが使われていて、アプリにあたる能力は、弾道ミサイル防衛能力、イージスBMD5.0CUのみで、巡航ミサイル防衛能力や対航空機戦能力はついていない。

巡航ミサイルの脅威とは

昨年12月18日、日本海のほぼ中程まで、中国のH-6K爆撃機2機が進出したが、その両主翼の下には、射程1500km級のCJ-20型巡航ミサイルの飛ばない訓練弾が吊り下げられていた。もしも、本物のCJ-20だったなら、H-6K爆撃機が進出した位置からなら、日本全土が射程内ということになっただろう。

2017年12月18日に飛来したH-6K爆撃機

その後も、CJ-20の訓練弾らしきものを吊り下げたH-6K爆撃機は、しばしば、沖縄本島と宮古島の間を通過している。

一般論だが、弾道ミサイルは、ロケットで打ち上げて、噴射終了後は、慣性で上昇。やがて、重力に従って、標的に落下。速度は速いが、放物線を描くため、どこを飛んで、どこに落ちるかをある程度、算出することは不可能ではない。予測できるなら、その位置に迎撃ミサイルを誘導すれば、速度の速い弾道ミサイルも迎撃不可能ではない。

ところが、現代の巡航ミサイルは発射後、弾道ミサイルほど速くはないが、コースを変え、高度も変え、標的に近づいていく。海面高度10メートルから30メートルの間を飛んでくるのも珍しくないので、水平線や地平線の向こうから現れ、気づいたときには、手遅れとなりかねない。

このため、米海軍が編み出したのが前述のNIFC-CAという仕組みだ。これは、航空自衛隊も導入する空飛ぶレーダーサイト、E-2D早期警戒機の半径540km以上を監視できるレーダーを使って、上空から低空を飛ぶ敵巡航ミサイルを捕捉、追尾。

そのデータを、まだ巡航ミサイルを捕捉していないイージス艦に送って迎撃ミサイルを発射させ、その後も方向や高度が変わる巡航ミサイルをE-2Dのレーダーが捕捉して、そのリアルタイムのデータを次々に迎撃ミサイルに入力して撃墜するというものだ。

一般論だが、弾道ミサイルも地上攻撃用の巡航ミサイルも核弾頭装着可能なものがある。

IAMD:小野寺防衛相の視野にあるもの

3月16日、BSフジ・プライムニュースに出演した小野寺五典防衛相は、今後、重要なのはIAMD(発達型防空・ミサイル防衛)だと説明した。

3月16日、BSフジ・プライムニュースに出演した小野寺五典防衛相

「IAMDになると、例えば飛んでいるE-2Dとか、あるいは私たちが持っている地上配備の様々なレーダーとか、イージス艦のレーダーとか、いろんなことが全部繋がって、そうすると、見えないところだけど別の航空機やレーダーで探知したものを、こちらにあるミサイル発射装置から発射して撃ち落とす。より早く対応できるし、より効率的に対応できる」というのだ。

弾道ミサイルというより巡航ミサイルや敵航空機を意識した発言だろう。「こちらにあるミサイル発射装置」について、小野寺防衛相は言明しなかったが、イージス・アショアもその視野にあるのかもしれない。

日本版イージス・アショアは米軍のイージス・アショアとは別物に?

前述したとおり、米軍のイージス・アショアは、ベースライン9Eという簡略化したシステムを使用しているため、弾道ミサイル防衛しか出来ない。だが、他のベースライン9に替えることができれば、イージス・アショアも弾道ミサイル防衛以外、例えば、巡航ミサイル防衛にも使えるかもしれない。

米海軍の2017会計年度予算では「イージス・アショア(ベースライン9.B)」のサイバーセキュリティに関する項目があった。ベースライン9.Bは、イージス巡洋艦をIAMD化して弾道ミサイル防衛と巡航ミサイル防衛の両方に使えるように開発されたシステムだが、一度、キャンセルされた。

それが復活し、米海軍がベースライン9.Bをイージス巡洋艦ではなく、イージス・アショアにインストールするということであれば、これから設計に入る日本のイージス・アショアも巡航ミサイル防衛に使用できるようになるのかもしれない。

防衛省が、6月1日に秋田県と秋田市に行った説明では、秋田と山口にイージス・アショアを配置すれば、日本全土が防護範囲になるという。逆に言えば、配置後のイージス・アショアが敵の攻撃等で損傷すれば、日本の他の地域も敵の弾道ミサイルや将来の巡航ミサイル攻撃から守れなくなる、ということなのだろう。

自衛隊や米軍にとって、配置後のイージス・アショアは、配置先以外の日本全体の防衛にとって重要な存在ということになり、日本の防衛にとって重要な存在ということになるのではないだろうか。

「能勢伸之の週刊安全保障」(6月2日配信)

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