ANA攻めの経営戦略は“歴史的”名著を体現 【秘書がこっそり教える社長の愛読書】

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  • 2019年春ハワイに超大型機A380を就航予定のANAグループ
  • ANAグループの経営戦略は“古典的”な名著にあった
  • 愛読書には企業経営や人間の“本質的な”部分が普遍的に描かれている

社長の愛読書を秘書に“こっそり”教えてもらって、有名企業の経営戦略を読み解いてみようという企画。

第二回目はANAホールディングス。


先日、全日本空輸を傘下にもつANAホールディングスは、エアバス社の超大型旅客機A380を2019年春にハワイに就航することを発表した。

エアバスA380 と言えば、中東系やシンガポール航空などで豪華な個室のファーストクラスがあることで有名だがANAも日本の航空会社としては初めて個室タイプのファーストクラスを導入する。

ファーストクラス 座席 イメージ

ハワイ路線が“ドル箱”といえども航空会社にとって、520席を空席を出さずに運航することは至難の業。
他にも、最近のANAホールディングスは、傘下のLCC、バニラとピーチを統合に向け舵を切ったり、プライベートジェットのチャーター事業に参入したりと矢継ぎ早に戦略を打ち出している。
その決断の裏には何があったのだろうか?

ANAホールディングス 片野坂 真哉 社長

ANAホールディングスを率いるのは、片野坂真哉 社長 62歳
お名前をググってみると、「名言集」が出て来るほどの人物。

そんな片野坂社長はいったいどんな人物で、愛読書は何なのか?社長秘書の藤本淳さんと森田香南子さんに話に聞いた。

社長秘書 森田香南子さん(左)と藤本淳さん(右)

秘書が“こっそり”教える社長の素顔

ーー秘書のお二人から見て片野坂社長ってどんな方?

藤本
細かいことにこだわらない、おおらかな性格。一方で、ものすごい記憶力の持ち主。
一度あった人の名前は忘れない。
私が秘書になりたての頃、ある会合から帰る際に、ビルの前で黒塗りの車がたくさん止まっていたので間違って他社の違う車に片野坂を誘導して乗せてしまったことがある。
そんな時でも笑って許してくれるようなタイプです。

森田
かなりの勉強家。今も限られた時間の中でいろいろと勉強しているようです。
社長になった今も、英語の勉強は欠かさない。
様々なことに造詣が深くてクラシック音楽とか芸術、世界史や日本史、故事成語なども普段の会話の中でさらりと入ってくる。


ーーそんな片野坂社長の愛読書は?

森田:様々な愛読書があるようですが、特におすすめなのが「孫子の兵法」なんです。

新装版 孫子の兵法 著 守屋洋 産業能率大学出版部

「孫氏の兵法」
誰もが知る史的名著
2500年の時を超え三国志の曹操や、武田信玄、そして、かのナポレオンも愛読したといわれている不朽の戦略本。
解説本の著者である守屋洋氏いわく「孫子の兵法は単に戦略・戦術の指南本としてだけではなく、人間の深い洞察に裏打ちされており人間関係の書としても活用できるがゆえに時代を超えて愛されているのだ」と語る。

ーー社長が「孫子の兵法」を愛読書とした理由は?

森田
ほかにも山岡荘八さんが書いた「徳川家康」など様々な愛読書があるようですが、やはり、この「孫子の兵法」に勝るものはないと、言っています。
企業経営や人間の“本質的な”部分が普遍的に描かれているからのようです。

藤本
一見、華やかに見える航空業界ですが、景気等の環境変化の影響を受け易く、競争がとても激しい世界です。国内線、国際線、LCC、貨物、その他の旅行などの関連事業。
それぞれに、多くのライバルがひしめいています。


しかも、お客様のニーズも日々刻々と変わっていく。どれほど緻密に作戦を練っても、景気変動、自然災害やテロ、原油価格など、自分たちの力ではどうにもできない要因で一瞬にして状況が変わったりしてしまう中での戦いを強いられる。

ーー兵法は、戦いの準備から地形ごとの戦略の取り方など全部で13篇ありますが、特に片野坂社長のお気に入りの箇所はありますか?

藤本:
謀攻篇にある以下の2つの記述が特に好きなようです。
彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず
迂直の計

ーーなぜこの2か所を?

藤本:
「彼を知り、己を知れば、百戦して危うからず」
表面的には、相手のことも自分のことも知れば連戦連勝できますよ…と書かれているように見えますよね。でも孫子が言いたいことは実はもっと奥深いそうなんです。

「彼を知る」って、どういうことなのか?何をもって「彼」すなわち「相手」を知ったと言えるのか?
そもそも「相手」とは誰なのか?と片野坂は考えたそうです。

競合他社の動きに限らず、変化を続けるマーケット・顧客のニーズを捉えること、この探求にはゴールがないんです。

常に変化し続ける“相手”を完璧に理解することなんてありえない。だから、まだこの先に何かあるんじゃないか?他にも大事なことがあるのではないか?と常に謙虚に探究心を持つことが大事なんだと思うことが大事なのではないかと、この一文から悟ったそうです。


同様に片野坂は「己を知る」というのも、簡単なことではないと考えているようです。

人間、自分のことは自分が一番理解できていると思いがちですが、それはあくまで主観的な話。
客観的に自分を観察することはとても難しいと思っているようです。
ビジネスに置き換えてみても、具体的に自社のマーケットでの立ち位置や成長の可能性について常に“客観的に”把握・理解しておくことが大事。

客観的に自社の現状を把握して初めて、新路線の開設、他の航空会社との戦略的提携、航空機や関連事業への投資など、重要な経営判断を下すことができるのだと考えているようです。 

ーーもう一つの「迂直の計」に関しては?

藤本:
遠回りをすることは無駄をするようだが、結果的に大きな成果を得るための近道である、ということ。
いわば「急がばまわれ…」という内容ですね。

ANAは1986年の国際線進出当初から、ニューヨークや北京・上海といった大都市ではなくワシントンDCや大連に就航してきました。当時、何の実績もない都市への就航は必ずしも正攻法とはいえないものでした。
しかしながら、30年以上が経過した今、両路線は、ANAグループの成長を担う国際線事業の中でもネットワーク上なくてはならない重要な路線へと成長しました。

今までにない“価値”をお客様に提供

激しい競争環境の中で、航空会社として、お客様やモノをA地点からB地点に運ぶ「移動」というサービスの質を更に高めていくことはもちろん重要だが、それは、どのエアラインも目指しているので差別化は難しい。
本当の差別化領域は別にあるとANAホールディングスは考えているようだ。

最近、ANAのグループ会社ANAセールスではVRに関するサービスを提供しているリコージャパンやナーブと連携して「ANA VIRTUAL TRIP」というサービスを始めた。

これはANAのツアーを利用した人向けのサービス。
高齢や病気などを理由に実際には旅行に行けない人が、VRゴーグルを装着して旅行先に行った家族や友人とスマホを通してビデオ会話を楽しむことで、あたかもその場にいるかのような体験ができるサービスだ。
他社と連携してITなどの技術の進歩を取り入れながら、航空会社として今までにない“価値”をお客様に提供していく試みだ。

そういった意味では、
彼を知る⇒外部環境 旅行に行きたくても行けない高齢者の増加 
己を知る⇒内部環境 自社の強み
迂直の計⇒長期的な視野に立ち作戦を練る

まさに、孫子の兵法を体現したサービスを提供している。
今後、多様化が予想されるエアラインのサービスの中で、料金や座席、機内食以外に各社のサービスを比べてみるのも、出張や旅行の新たな発見につながるかもしれない。