【米朝首脳会談】米軍B-52爆撃機に金正恩委員長の“心の内”は?  

カテゴリ:ワールド

  • 「核なき世界」をうたう(?)豊渓里爆破の宣伝効果
  • 北朝鮮・金桂冠第1外務次官「心のうち」「段階別に解決」とは
  • 豪ウエッジテール早期警戒機が嘉手納飛来…北朝鮮制裁は?

核実験場“爆破”は「核なき世界に積極的寄与」?

5月24日、過去6回の核実験が実施された北朝鮮・豊渓里(プンゲリ)地下核実験場で、米英中露韓のジャーナリストが見守る中、4か所の坑道の内、3カ所と関連する地上施設の建物が爆破された。

北朝鮮は朝鮮中央通信25日付の記事で「核実験場の廃棄は、核実験の全面中止に向けた国際的な志向と努力に合流し、核兵器なき世界の建設に積極的に寄与しようとする朝鮮政府の確固不動の平和愛好的立場の明確な表しとなる」と自己評価したが、公開された映像を見る限り、爆破されたのは、坑道の入り口であり、坑道が完全に使用不能になったのかどうか。

また、爆破が実施されなかった残り1カ所が使用不能なのかどうかも、よくわからない。
いずれにせよ、北朝鮮・外務省の次官らは「駐朝中国大使、ロシア大使、アジア、アフリカ、アラブ、中南米地域諸国の各大使、臨時代理大使とEU加盟国の外交代表、駐朝国際機構代表を集団的に、または個別的に会って北部核実験場の廃棄状況を通報した」(朝鮮中央通信・25日)とのことなので、坑道入口の爆破が、北朝鮮当局にとって、自分たちが「核兵器なき世界の建設に積極的に寄与」するとの姿勢を打ち出すための対外宣伝材料として、重要であったことは分かる。

トランプ大統領は米朝首脳会談中止を発表

北朝鮮は、米朝首脳会談に向かって、北朝鮮流の「核兵器なき世界」を強調しようとしたわけだが、トランプ大統領は北朝鮮側が“大きな憤怒と露骨な敵対感”を示したとして、「6月12日のシンガポールでの米朝首脳会談はやめることにした」と表明。金正恩委員長への書簡を公表した。

トランプ大統領から金正恩委員長への書簡

その一節に「貴殿は貴殿の核について語っているが、我々の核戦力は、大規模かつ強力であり、使わなくて済むことを私は神に祈っている」とあった。実際、グアムのアンダーセン基地には、現在、核弾頭装着可能な射程2500㎞のAGM-86B巡航ミサイルを最大20発搭載可能なB-52H爆撃機が展開している。

AGM-86巡航ミサイルとB-52H爆撃機

トランプ大統領の書簡は、北朝鮮側に、このB-52H爆撃機、その他の戦略核兵器の存在を想起させたとしても不思議ではないだろう。
26日に板門店で、あらためて、金正恩委員長と、韓国の文在寅の南北首脳会談が実施された背景には、米軍の「力」が意識されたことがあるのかもしれない。

北朝鮮側の朝鮮中央通信は、トランプ大統領の発表の後の25日、北朝鮮の金桂冠第1外務次官の談話を発表。
トランプ大統領の発表を「意外のことであり、非常に残念に考えざるを得ない」として、「トランプ大統領が取り上げた“大きな憤怒と露骨な敵対感”というのは事実上、朝米首脳の対面を控えて一方的な核廃棄を圧迫してきた米国側の度の過ぎた言行が招いた反発にすぎない」と言い訳した。

さらに、「われわれはトランプ大統領が過去のどの大統領も下せなかった勇断を下して首脳の対面という重大な出来事をもたらすために努力したことについて依然として心のうちで高く評価してきた」とまで、述べていた。「心のうちで…」という表現は興味深い。

いずれにせよ、米側が一度は拒否した米朝首脳会談に北朝鮮側が辛うじて望みをつなぐ形にはなった。
だが、北朝鮮は豊渓里実験場での爆破の後に米側に拒否されたわけだから、豊渓里の爆破だけでは、米朝首脳会談は開けないと米側に突き付けられたに等しい。

トランプ大統領は、25日、「北朝鮮と首脳協議再開について生産的な協議をしている。実現するなら、6月12日にシンガポールで行われるだろうし、必要なら、延長されることもある」とツイートした。
トランプ大統領自らが、短い時間の間に、米朝の接触があったことを認め、北朝鮮側が米側にどんな要件を提示したかは分からないが、米朝首脳会談に前向きとも見える姿勢を示したことになる。

だが、北朝鮮・朝鮮中央通信は、金桂冠第1外務次官の談話を伝えた後、同じ25日のうちに、「朝鮮外務省軍縮・平和研究所の研究者」による「朝鮮半島緊張激化の張本人は米国」と題する論評を発表した。B-52爆撃機の名前をあげ、「米国が朝鮮半島で行う合同軍事演習が地域の情勢激化の禍根」というのである。
北朝鮮の「心のうち」を知るのは、難しい。だが、北朝鮮が、米核戦略戦力を相当、意識していることは間違いなさそうだ。

嘉手納にはオーストラリアの早期警戒機が飛来

豪空軍E-7A早期警戒機

26日、沖縄県の嘉手納基地には、細長くて、平べったいパニーニのような形状のアンテナを機体の上に載せた、豪空軍のE-7Aウエッジテール早期警戒機が、数年ぶりに姿を現した。嘉手納には、カナダ軍のCP-140哨戒機とともに、豪軍のP-8A哨戒機が、北朝鮮の制裁監視に参加しており、ウエッジテールの飛来目的は、不明だが、制裁監視に関わるものなら、北朝鮮包囲網は、さらに強化されていくのかもしれない。

段階別に解決…

北朝鮮側は、金桂冠第1外務次官の談話で「大きな憤怒と露骨な敵対感」を招いたのが「崔善姫次官の談話」と事実上、認めている。前述の「心のうちで…」という表現は、まるで、北朝鮮外務当局高官の言葉は、本音ではない。
北朝鮮の外交当局が繰り出す言葉は信じるものではない、と当の北朝鮮の外交当局者から言われたようにも読めないだろうか。

だが、金桂冠第1外務次官の談話で、それ以上に気掛かりなのは、最後の「会ってひとつずつでも段階別に解決していくなら現在より関係が良くなるはずであって、・・・われわれは、いつでもいかなる方式でも対座して問題を解決していく用意があるということを米国側に再び明らかにする」という一節にある“段階別に解決していくなら…”という言葉。

これが、一挙に短期間に、朝鮮半島の非核化を実施するのではなく、むしろ、時間を引き延ばすために挿入された言葉なら、と考えるのは勘ぐりすぎだろうか。

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