朝鮮戦争?ある訳が無いvs近づく可能性だってある…専門家達の見通しはバラバラだった

カテゴリ:ワールド

  • ”朝鮮戦争”への専門家の見立てはバラバラ
  • 成否を決める鍵の一つは非核化の「査察」
  • 「北朝鮮を巡る状況が改善するのか悪化するのか今後次第」

"Back on track"でも驚かない

24日の突然の会談取りやめ宣言前のことだが、外交・軍事・情報の専門家達と個別に話をする機会があった。

タイトルにあるように米朝関係の先行きに関する彼らの見立てはバラバラだった。
6月12日に予定されていたシンガポールでの米朝首脳会談も今ではよくわからない状態であるが、27日、トランプ大統領は、ホワイトハウスで記者団にこう語っている。

「我々は6月12日シンガポールを見据えている。それは変わっていない。大変順調に推移している。どうなるか見てみよう。」
"We're looking at June 12 in Singapore. That hasn't changed. And it's moving along pretty well, so we'll see what happens."
世界を驚愕させた24日の取りやめ宣言は、北朝鮮のお株を奪って彼らの得意技 "ちゃぶ台返し"を真似しただけなのかもしれないと思えなくもない。

この原稿が掲載される頃までに、トランプ氏のツイートで「元に戻った。」(Back on track)という発表が流れていても、もう誰も驚かないだろう。

米朝首脳会談復活での成果と見通し

そこで、米朝首脳会談がもしも復活の運びとなったらという仮定の話になるが、その成果と先行きに関しての専門家の見通しを、以下、ご紹介したい。

筆者「アメリカ軍に緊迫感はあるか?戦争に向けた準備は?」
専門家「そんな気配は全く無い。」
筆者「しかし、一時は“鼻血作戦”が真剣に取り沙汰された。」
専門家「あれは威嚇に過ぎない。アメリカ軍にそんな気は無い。」
筆者「では、それが効いたということか?」
専門家「そういうことかもしれない。北朝鮮は本気で関係改善する気になっている。もう後戻りはしないはずだ。」

幸いなことに、マティス国防長官も、トランプ氏による取りやめ宣言後の25日、記者団に「我々は何も変わっていない。北朝鮮問題は外交官達が主導している。我々は彼らが実り多い前向きな成果を上げることを望んでいる。」
“ we're not changing anything right now. The diplomats are in the lead and in charge, and we give them our best wishes to have a fruitful way forward.”
と述べている。

アメリカの武力行使に関しては現時点での可能性はまだまだ低い。

会談の成否を決める鍵は「査察」

しかし、北の本心に関して、別の専門家は「北が最終的に何を目指しているかは判らない。体制の保証を求めていることは間違いない。しかし、非核化に関して、彼らがどこまで受け入れるつもりなのか、わからない。」と、大方同様、慎重な見方であった。

さらに別の専門家は「彼らが狙っているのは、あくまでもアメリカの核の脅威の除去であって、自分達の完全な非核化・CVIDまで受け入れようとはしないだろう。」と実に懐疑的であった。

もしも実現すればだが、米朝首脳会談の成否を決める鍵は何になるか?と尋ねた。

一人は「査察」と断じた。非核化を実現するにあたって肝になるのは査察で、その際、どんな査察をどこまで認めるかが焦点だという。核実験場の坑道の爆破・破棄を、北朝鮮は、24日午後実施した。それを見守ったのは関係国の少数のメディアだけで専門家は招待されなかった。

しかし、例えば、CTBT・包括的核実験禁止条約の事務局の専門家の現地査察を後日でも全面的に受け入れれば、そこでどんなタイプの核物質を使用してどのような実験を行ったか確認することができるという。
これは、アメリカの北朝鮮研究機関・38ノースの専門家が発表した見解で、すでに実験場から撤去されている機材や研究データ、研究者達へのアクセスも可能になれば、北の核爆弾の実像を把握できるようになるらしい。


査察の重要性

北朝鮮は機材や研究データ、研究者達を既に分散して隠している可能性が高いが、“実験場は既に爆破・破棄したのだから査察は不要である。“と主張してCTBTの専門家達のチェックを将来も拒否するかもしれない。
たら・ればのオンパレードになってしまうが、そうなれば、非核化を受け入れる気が全く無い証になるかもしれないし、そうでなくとも、CTBT査察のあらゆる段階を条件闘争の材料にして対価を得ようとする証拠かもしれない。

いずれにせよ北の完全非核化の実現は嫌になるほど遠くなる。

北朝鮮の核開発の監視を担ってきたIAEA・国際原子力機構の専門家が査察する能力を持っているのは、あくまでもウランやプルトニウムなど核物質に関することに過ぎないらしい。核実験・爆弾に関わる査察はCTBTの専門家も必要ということだが、同様に、弾道ミサイルや化学兵器・細菌兵器の査察にはそれぞれの分野の専門家が必要なのだという。

これらの査察のあらゆる分野・あらゆる過程で、北朝鮮が条件闘争を仕掛けてくれば、北のWMD・大量破壊兵器の脅威の除去はほぼ永遠に実現できない。
査察が重要である所以である。

“朝鮮半島”の非核化にも注目

別の専門家は“朝鮮半島の”非核化に注目だという。
つまり、アメリカの核の脅威も半島に及ばないようにすることを北が要求し、例えば、核搭載能力を持つアメリカの爆撃機のグアム配備の禁止まで求めて来ると交渉がまとまらなくなる恐れが強いという。

ちなみに、すでに韓国にアメリカの核戦力は配備されていないので、これは交渉の障害にならない。だが、更には、在韓米軍の撤収まで持ち出してくる可能性も無しとしないという。こんな結果になれば、北朝鮮はもとより、中国軍も小躍りするだろう。

アメリカが受け入れる可能性は無いように思える。
ただしたとえそうなっても、北朝鮮の完全非核化が実現するなら、軍事的には大きな障害にならないという見方もある。
通常兵器だけで対峙するなら、南北の兵力差は明らかで、韓国軍だけでも抑止可能というのだ。
この点でも依然どう転ぶかわからない。

開催場所が板門店やウランバートルになる可能性も?

金正恩委員長は本当にシンガポールまで行くのか?という問いには、一人がこういう旨の見解を示した。
“北朝鮮のロジやセキュリティー、それに専用機の能力を考えれば、片道5,000キロ近い道程を行くというのは非常に大きな冒険になる。陸路で辿り着ける場所を望んでも不思議ではない。”
とすれば、開催場所が板門店やウランバートルに変更になる可能性が絶対に無いとは言えないということになる。

これと関係するかどうか全く不明で、穿ち過ぎの可能性は十分ある。
が、ポンペオ国務長官がワシントンを訪問したモンゴルの外相と面会したと21日にわざわざ国務省が発表している。
国の格の違いを考慮すると、この扱いはモンゴルの外相に対する大サービスである。

シンガポールまで遠出をしたらクーデターが起きる心配は無いのか?という問いには「金正恩委員長はすでに軍を完全に掌握している。その為に、国防委員会から国務委員会に権限を移し、不満分子を徹底的に粛清した。異母兄の正男氏暗殺や叔父の張成沢氏処刑もその為だ。軍の反乱の心配はもう無い。今では陰でも委員長の悪口を言う軍人は居ない。」と一人が断言した。

何を懸念するか?の問いにも三様だった。

「ノーベル平和賞に目が眩み、トランプが中途半端に妥協すること。」
「非核化実現までの道程の複雑化・長期化に嫌気を差して、トランプが途中で投げ出すこと。」
「Dealが上手く行かず、結果的に武力行使の可能性が近づくかもしれないこと。」

とっても怖いブラック・ジョークのような話だが、どのみち信用できない北朝鮮側の誠意よりもトランプ大統領の短慮の方が心配ということのようだ。

強硬派・ボルトン補佐官がいる限り中途半端な妥協の可能性は少ないのかもしれないし、突然の取りやめ宣言自体が、中途半端を拒否するというアメリカ側の強い意志を示していると思えなくもないが、予断はできない。

「改善するのか悪化するのかは、今後次第」

NYタイムズ紙の報道によれば、アメリカのクラッパー前情報長官は直近の著書に以下のエピソードを記している。
参考までにご紹介する。

「2014年に北朝鮮を訪問した時、私の相手は、私の話にまともに耳を貸そうとしなかった。たった一つの例外を除いて。私は彼に‘アメリカに永遠の敵は居ない。’と述べ、かつての仇敵・ドイツや日本が今では同盟国になっていることを伝えた。アメリカはベトナムとも生産的な外交・経済・軍事関係を再構築したが、これと同じことが北朝鮮とも可能であると伝えた。すると数分の静寂の後、彼は私に‘関係正常化の交渉を通じて、そのような転換をあなたが育むことができる。’と述べた。」

そして、クラッパー氏は「金日成・正日・正恩と三代に渡る北朝鮮の最高指導者は戦いを望んでいない。しかし、自分達の戦争マシーンを一触即発の状態に保ってきた。まともな北朝鮮政策はこのダイナミックを考慮に入れなければいけないだろう。」「核の野望を北が捨てない限りアメリカは彼らに何も与えないという政策は必ず行き詰る。」と述べ、手始めに、平和条約の締結や双方の首都に連絡事務所を置くことなどを提唱している。

今、米朝両国は、クラッパー氏が明かしたエピソードに示されている道を歩み始めようとして、行きつ戻りつしているのかもしれない。ただし、ご案内のように、両国は未だその入り口にも立っていない。

「今日の北朝鮮を巡る状況は変化に向かっているように思える。ただし、改善されるのか、悪化するのかは今後次第である。」
“Today, the situation in North Korea seems poised for change 。ェ whether for better or for worse remains to be seen.”
とクラッパー氏も記している。

(執筆:フジテレビ ニ関吉郎 解説委員)

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