米朝首脳会談が破綻したら…米イージス駆逐艦ミリアスの役割

カテゴリ:ワールド

  • 横須賀に11隻目のイージス駆逐艦ミリアス配備
  • ミリアスは1996年就役だが、弾道ミサイル防衛能力と巡航ミサイル防衛能力は最新
  • ミリアスは他のイージス艦とのネットワークの中でこそ、実力発揮か

横須賀に11隻目のイージス艦「ミリアス」

イージス駆逐艦ミリアス

5月22日、米海軍・横須賀基地に、11隻目のイージス艦にあたるイージス駆逐艦ミリアスが配備された。これで、米海軍・横須賀基地に所属する弾道ミサイル防衛能力を持つイージス艦は7隻となったという。

ジェニファー・M.ポンティアス艦長

では、ミリアスの日本配備は、日本にとって、どんな意味を持つのか。
ジェニファー・M.ポンティアス艦長は、横須賀到着直後の会見で
ミリアスの参加は、任務のあらゆる分野、特に弾道ミサイル防衛能力で、日本の防衛とインド太平洋地域の安全と安定に貢献する」として、日本防衛と弾道ミサイル防衛を強調した。

ポンティアス艦長の経歴をみると、砲術士官や、軍艦の戦闘システムの担当官としての経歴が目立ち、特に中央海軍司令部・弾道ミサイル防衛計画官であったことが分かる。弾道ミサイル防衛については、かなりの知見を持っている、ということだろう。

「ミリアス」の能力は

イージス艦の能力は、パソコンやスマホのOSに例えられる「ベースライン」というシステムに応じて、アプリのように様々な能力を載せることが可能になる。弾道ミサイル防衛能力「イージスBMD」や巡航ミサイル防衛能力「NIFC-CA(ニフカ)」が、それにあたる。

共同交戦能力CEC用アンテナ「PAAA」

ミリアスが、桟橋に近づいてきた時、マストの上には、四方を向いた四角い厚い板状のアンテナがあった。PAAAという聞きなれない名称のアンテナだが、巡航ミサイル防衛に欠かせない共同交戦能力CEC用のアンテナである。CECは、軍艦や航空機のレーダーのデータを共有し、いわば巨大な目を作る仕組みだ。

昨年12月18日、日本海の中ほどまで、中国のH-6K爆撃機が進出してきたが、その左右の主翼の下には、射程1500㎞級と言われるCJ-20巡航ミサイルの飛ばない訓練弾らしきものが吊下がっていた。実弾のCJ-20であれば、ほぼ日本全土をカバーする位置にH-6Kが進出したことになる。その後もH-6K爆撃機は、CJ-20の訓練弾らしきものを吊下げて、沖縄本島と宮古島間を通過している。

2017年12月18日に飛来した中国のH-6K爆撃機
H-6Kが搭載していたCJ-20の射程を示した地図

一般論だが、巡航ミサイルは、海上や陸上を低く飛び、相手のレーダー等のセンサーに引っかからないようにして接近する。気づいた時には、もう手遅れということになりかねない。このため、米海軍が編み出したのが、イージス艦のレーダーより遙かに高くから遠くまで、低空を飛ぶ飛翔体も見張ることが出来るE-2D早期警戒機を使い、そのレーダーが捕捉したデータをCECを使って、イージス艦と共有するというもの。

イージス艦は、自分のレーダーに映っていないにも関わらず、まるで自分のレーダーで捕捉したように、敵巡航ミサイルに迎撃ミサイルを発射、迎撃する。敵が地上攻撃用巡航ミサイル、特に核弾頭を装着した巡航ミサイルを空中で撃破できるかどうかは、極めて重要だ。

北朝鮮は、地上攻撃用巡航ミサイルは保有しているとは伝えられていないが、高速艇に対艦巡航ミサイルを装備していて、弾道ミサイルに対する警戒を行う日米のイージス艦にとって、脅威となりかねない。
(参照:「日米イージス艦への脅威? 北朝鮮新型艇の正体」)

弾道ミサイル防衛用のイージス艦が傷つけば、それは、弾道ミサイルに対する防御能力が低下することを意味しかねないのだ。だがミリアスは、マストにCEC用のアンテナが付いていた。横須賀の米海軍イージス艦では、4隻目の巡航ミサイル防衛能力を持つ、NIFC-CA艦ということになる。

敵の対艦巡航ミサイルを引きつける「デコイ」も搭載

Mk.59 Mod0/アウトフィットDLF浮遊デコイ発射機

対艦巡航ミサイルからの防御という点では、ミリアスは艦橋の横に、横倒しになった大きな筒が二本一組で計四組、新設されていた。Mk.59 Mod0/アウトフィットDLF浮遊デコイ発射機のようだ。

この装置から発射されたデコイは、海面上で風船のように膨らみ、レーダーに極端に反射しやすく、敵のレーダーには、大きな軍艦の陰のように映る。プカプカと浮きながら、敵の対艦巡航ミサイルを引き付け、欺く役割をする。

弾道ミサイル警戒のさなかに万が一、高速艇から対艦巡航ミサイルで狙われる可能性を考慮に入れたのだろうか。ちなみに、海上自衛隊もあたご型イージス艦の弾道ミサイル防衛強化の計画をすすめているが、現時点で、浮遊デコイの検討はしていないという。

弾道ミサイル防衛能力が意味すること

ミリアスの能力は様々あるが、中でも気に掛かるのが、弾道ミサイル防衛能力だ。
艦内の戦闘指揮所を案内してくれた弾道ミサイル担当官によれば、先述のパソコン、携帯電話でいえばOSに例えられる「ベースライン」が、ベースライン9.C1であり、アプリにあたる、BMD(弾道ミサイル防衛)能力が、「イージスBMD5.0CU」だと明言した。
これは、何を意味するのか。

ミリアスは、1996年11月に就役したイージス駆逐艦であり、イージス艦としては、決して最新鋭ではない。しかし、米海軍が、配備しているイージス艦の弾道ミサイル防衛能力としては、最新の能力を搭載していることになる。

弾道ミサイルを迎撃するミサイルは、例えば、北朝鮮の弾道ミサイルのうち、数の上で最大の脅威であるノドンやスカッドERに、対処可能なSM-3ブロック1Aと、そのセンサーの精度をあげたSM-3ブロック1Bだ。

だが、ムスダンや火星12型のように、高く上げて、手前に落とすロフテッド軌道で日本を射程にすると、これらのミサイルでは、到達高度の問題で、迎撃が難しくなる。

ロフテッド軌道
SM-3ブロックⅡA

ムスダンや火星12型に対処するためには、新型、開発試験中のSM-3ブロックIIAミサイルが望ましいが、その為には、「イージスBMD5.1」が必要で、イージスBMD5.1を搭載するためには、「ベースライン9.C2」が必要だ。横須賀の米海軍イージス艦では、すでにバリーとベンフォールドが「ベースライン9.C1」「イージスBMD5.0CU」を搭載している。

逆に言えば、弾道ミサイル防衛については、同じ能力のイージス艦が3隻になったことを意味する。このことは、弾道ミサイル防衛という観点からは、恐らく重要だ。

スカッドER

北朝鮮は2016年9月に射程1000㎞のスカッドER弾道ミサイル3連射、2017年3月にスカッドERを4連射し、連射能力を見せつけた。

弾道ミサイルの連射に対応するには、迎撃ミサイルと、それを発射し管制する迎撃システムの「数」が必要であり、そして、それを一体として管制する仕組みがないと、迎撃ミサイルを無駄撃ちしたり、逆に他のイージス艦が対応するだろうと弾道ミサイルを見逃すことになりかねない。

そのために、弾道ミサイルが連射されたときに、どの弾道ミサイルにどのイージス艦が対応するか、瞬間的に割り振る仕組みを米ミサイル防衛局が開発した。

DWES:重点配分交戦スキームという。ミリアスの戦闘指揮所で「ミリアスから制限はあるが、海上自衛隊とも連絡が取れる」との説明を受けたので、その連絡の中には「DWESが含まれるか」尋ねたが「答えられない」というのが回答だった。

「ミリアス」と「シャイロー」が隣り合わせに

イージス巡洋艦シャイロー

5月22日、入港時に興味深かったのは、ミリアスを出迎えるように隣り合わせの桟橋に停泊していたのは、イージス巡洋艦シャイローであったこと。偶然そうなっただけかもしれないが、シャイローは、第七艦隊イージスBMDコマンダー(弾道ミサイル防衛指揮官)の乗艦に指定されていた巡洋艦である。

イージスBMDコマンダーの重要な仕事の一つは、敵が弾道ミサイルを連射してきた場合、DWESを使って、個々のイージス艦に対処すべき弾道ミサイルを割り振ること。

従って、横須賀に配備されたばかりのミリアスが、例えばシャイローとケーブルで接続して、DWES等、弾道ミサイル防衛のシステムの調整でもするのなら、興味深い位置関係ということかもしれない。

弾道ミサイルの連射により発生する問題点

また、連射される弾道ミサイルから日本を防衛する際に、発生しかねない地形上の問題もある。それはどんなものか。某国から連射された弾道ミサイルに対し、日本海に展開したイージス艦が迎撃ミサイルを撃ち尽くした。だが、太平洋側にいるイージス艦は迎撃ミサイルが残っている。

しかし、日本列島の尾根が太平洋側イージス艦のレーダーの視野を遮り、太平洋側イージス艦のレーダーが敵弾道ミサイルの飛翔を捕捉した時には、迎撃ミサイル発射のタイミングを逸してしまい、日本に弾着する可能性がある。

このため、米弾道ミサイル防衛局が開発したのが「Launch On Remote」という仕組みだ。これは、迎撃ミサイルを撃ち尽くした日本海側のイージス艦が、敵弾道ミサイルの飛跡のデータを基に太平洋側のイージス艦に迎撃ミサイルの発射のタイミングを伝達するというもの。

DWESもLaunch On Remoteも、複数のイージス艦がネットワークを組んで初めて可能となる仕組みだ。しかも、このネットワークに参加するイージス艦の数が多ければ多いほど効果的だ。
ポンティアス艦長は、ミリアスの「参加」と言ったが、ミリアスが加わったことで、「DWES」「Launch On Remote」能力をもったイージス艦が横須賀に1隻増えたことになる。

6月12日といわれてきた米朝首脳会談は、予定通りに行われるのか。実施されても、合意に達することは出来るのか。
今後の事態によっては、ポンティアス艦長の「日本防衛とインド太平洋地域の安全と安定に寄与する」との言葉が重く響くことになるだろう。

能勢伸之の安全保障の他の記事