“小さく生んで大きく育てるリアリズム” 男女均等法成立で国難に立ち向かう野田聖子の狙い

カテゴリ:国内

  • 「政治分野における男女共同参画推進法」が成立
  • ”罰則規定”なくともこれまでスルーされてきて問題がのちに相当な動きとなる
  • 女性活躍担当大臣を自ら希望した野田聖子の女性政策への思い

”たった一人”でスタートした女の闘い

「25年前に当選した時、衆議院の自民党の女性議員は私と田中眞紀子さんの2人でした。田中眞紀子さんはご承知のように女性を超越しているので…(会場笑)」

最近は「総務相」と同じくらいの比率で、兼務する「女性活躍担当相」の肩書きが人口に膾炙するようになった野田聖子大臣の、講演での“鉄板ネタ”の一つだ。
「…本当の意味で不利益を抱える女性とするならば、私1人だけだったと思う」と続く。

少子化・高齢化という『国難』に女性の知恵を

“超”男社会の自民党の荒波を泳ぎ続けてきた野田大臣は、なので、かなりのリアリストだ。
5月16日の「政治分野における男女共同参画推進法」成立に当たっても、そのリアリストぶりは発揮された。

自身が超党派の議員連盟を立ち上げ、議連幹事長として足かけ3年取り組んできた議員提案の法律。2015年に成立し、女性登用などを促した「女性活躍推進法」が対象にしていなかった政治分野に焦点を当てたものだ。

「懸案の社会保障が抱える問題に、特に自民党は女性が少ないということもあって、なかなかいい知恵が出せずにいる。安倍首相が前回総選挙で『国難』の一つとしていた少子化・高齢化という問題の担い手は、現在ほとんど女性。そういう人たちの現場での声や知見等がしっかりと国の政治に反映されれば、今まで以上に円滑な、それぞれが幸せになれる優しい政治が生まれて来るのではないかと私は信じている」。
野田大臣は法律の狙いをこう語る。

発達障害者支援法から考える『ペナルティーなし』の意義

各党に「男女の候補者ができる限り同数となることを目指す」ことを促した法律には、しかし罰則規定がない。記者団の疑問もそこに集中した。

大臣は言う。「みなさんも理念法というと『ペナルティがないからダメじゃないか』とおっしゃる。私の手がけた法律の一つに発達障害者支援法というのがある。これもペナルティなしの努力義務からスタートしたが、いったん国が責任もって法律を作って啓発活動をすれば、かつて本当に苦しい思いしていた発達障害の人たちがきちんと国の中で位置づけられ、制度ができてきた。
同じ延長線上にこの法律はあって、国が法律を作ったという責務の中で取り組んでいけば相当な動きが出てくると思う。これまでスルーされていたことが常に刷り込んでいかれるということは大きな一歩だと思っています」。

“小さく生んで大きく育てるリアリズム”が功を奏した

究極の形は「議員の男女比が五分五分」という野田大臣。
法案の議論の過程では、ヨーロッパなどで採用されている、女性に議席の一定割合を割り当てる「クオータ制」を採るべきとの意見もあった。だが、あえてそこに踏み込むことはしなかった。「現実は衆議院を見ていただくとおわかりの通り、男性9割・女性1割。議連の議論では『そこまでまだ有権者の意識はついていかないでしょう。反発も相当出るでしょう』と。そういうことに時間をかけるより、まずはしっかりと理念を全国に一日も早く伝えることが大事だという選択肢を取らせていただいた」。

結果は、与野党対立ムードが長引く緊迫した国会で、衆参両院とも全会一致による可決。
“小さく生んで大きく育てる”リアリズムが、まずは功を奏した形だ。

女性活躍担当大臣就任までの水面下の駆け引き

昨夏の内閣改造人事。有力ポストが次々と“内定”していく中、なかなか行方が見えなかったのが総務相ポストだった。安倍首相と距離があると目されていた野田氏の閣僚起用はサプライズと受け取られたが、その間の水面下での駆け引きの意味は、なかなか私たちの解するところとはならなかった。

「自ら『女性活躍担当大臣の仕事をいただきたい』と総理に直談判して今日に至っている」と最近は自ら公言してはばからない野田大臣。それまで女性活躍を看板の一つに掲げながら、「残念ながら足踏みしている」と見ていた安倍内閣の女性政策を動かしたいとの思いがあったことは疑いない。年明けの通常国会召集以降、折に触れて気にしていたのは、この「政治分野における男女共同参画推進法」の審議の行方だ。成立を受けて国会のひな壇で深く一礼した後、「提出した側がありがたいことに受け取る側になったということで本当に感謝している」と感想を述べたが、こうした構図になろうことは入閣の時点で“織り込み済み”だったようにも見える。法案の衆院通過の際には「マスメディア的には小さな扱い」と漏らしたが、一方で、閣僚としての言動が審議に余計なハレーションを与えないよう、抑制的な振る舞いに終始したのもリアリズムの表れと言えるだろう。

エマニュエル・トッド氏「日本人は何故行動を起こさないのか?」

先週まで来日していたフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏。「ソ連崩壊」や「アラブの春」「トランプ当選」などの事象を、人口学・地政学的見地から“予言”したとして知られ、同時代を代表する知性の一人だ。
筆者が「止まらない日本の少子化」についての見解を問うた際、トッド氏は独特のエスプリを交えながらこう熱弁した。「日本の人々は、いつから同じ質問を続けているんですか?そしてなぜ、質問を繰り返すだけで何も行動を起こそうとしないんですか?こうした状況を見るにつけ、私は思うんです。日本では、少子化問題については、国家が介入する形を取らなければ何も動かないだろう、と」。

まさか多忙なトッド氏が、今の国会の審議状況について逐一知っていた、ということはないだろう(この面会は、法案可決前のタイミングだった)。しかし、今回の法律の成立劇との妙な符合は“予言者”の面目躍如といったところだ。

リアリスト・野田大臣が、このトッド氏の“予言”を聞いていたら何と言っただろう。

法律成立の日、その理念実現のために「自民党内で先頭に立つ考えはあるか」と総裁選に絡めた質問を記者にぶつけられ、こう答えている。
「私がですか?誰が先頭に立ってもいいんですよ。男の人でも大丈夫。私はいつでも先頭に立ってるつもりですから。人が認めていなくても。がんばります」。

(執筆:フジテレビ報道局 高島英弥)

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