池田元首相の派閥を引き継ぐ男・岸田文雄が直面するジレンマ【自民党総裁選】

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  • 「お公家集団の飛べない男」の決断は
  • 加藤の乱のトラウマを払拭できるか
  • 安倍首相の苦境で岸田氏にジレンマも

日本の高度経済成長への道を切り開いた、池田勇人元首相が旗揚げした自民党の名門派閥『宏池会(こうちかい)』。
それから61年、今は『岸田派』ともよばれるこの派閥のトップこそ、岸田文雄政調会長だ。

4月中旬、都内で行われた岸田派のパーティー。
岸田会長は、自らの派閥と自分自身をこう表現した。

4月18日 岸田派パーティー


岸田氏「お公家集団などと揶揄されたこともありました。おとなしく穏やかだと言われ、私も飛ばない男だとか、飛べない男などと言われる」

「岸田派」は保守本流と呼ばれる徹底した現実主義で、リベラルな社会作りを目指す集団だ。
これまでに池田勇人をはじめ、大平正芳、鈴木善幸、宮澤喜一と4人の首相を輩出してきた。

しかし首相の座は、当時の田中派や竹下派といった、武闘派の大派閥の支援によって得られてきた面が強く「お公家集団」ともいわれるのはそのためだ。


岸田氏は安倍首相とは1993年初当選の同期という関係だ。
2007年の第一次安倍政権では沖縄・北方担当大臣として初入閣。第二次安倍政権が発足した2012年からは、およそ4年半にわたり外務大臣を務め『慰安婦問題の日韓合意』や『オバマ大統領の広島訪問』などに尽力してきた。

そして、岸田氏自身の希望で去年8月から党三役のひとつ、政調会長に就任し、一貫して安倍政権を支えてきている。

安倍首相との焼肉会談の直後に“戦闘宣言”

その岸田氏が、秋の総裁選で安倍首相に挑戦するのか否かが今、党内で注目の的となっている。

岸田派の名誉会長で、派内に強い影響力を持つ古賀誠元幹事長は講演でこう語っている。
「岸田さんが出ない時の方が安倍首相の再選の可能性はぐんと高まる」
岸田氏が出馬するか否かが、安倍首相三選の最大のカギを握っているということだ。

岸田氏は、派閥パーティーの2日前の安倍首相と2人きりの夕食に臨んだ。
場所は西麻布にある高級焼肉店『叙々苑游玄亭』。
極上の肉をつつきながらの会話の中で、岸田氏は、森友・加計学園問題などで揺れる安倍政権について「状況は楽観できない。大変厳しいものがある」と直言した。


安倍首相と焼肉会談(焼肉写真は叙々苑ホームページより)

そして話は核心ともいえる総裁選に及んだ。岸田氏は自らの出馬について「今はまだ何も決めていない」というこれまでのスタンスを崩すことなく意見交換したというが、「安倍首相を支える」とも言わなかったという。

 そして翌々日の派閥のパーティーで岸田氏の口から飛び出た言葉は、これまでとは違った。

「いざという時はやるんだ!」

こう語気を強めた岸田氏に、会場内からは驚きの声があがり、続いて力強い拍手に包まれた。

 外相時代から発言にそつがなく、記者から「もっと記事になる発言を」と要望されるほどだった岸田氏の踏み込んだ言葉だけに、若手議員からは「良かった。あれで大いに盛り上がった」と興奮気味の声があがった。

 そして、岸田派の政策のお披露目もされたが、保守・トップダウン型の安倍政権との違いを際立たせるかのように「トップダウンからボトムアップへ」「多様性を尊重する社会へ」というリベラルなキーワードが掲げられていた

大宏池会構想も…他派閥との連携戦略

さらに岸田派は、総裁選に向け他派閥との連携も図っている。

石原伸晃元幹事長が率いる石原派や、谷垣禎一前幹事長のグループなどとも夜の会合を重ねている。
実は石原氏も谷垣氏も元は宏池会に所属していた。

さらに党内第二派閥の麻生派も、宏池会から分裂してできた派閥だ。
岸田派内には元宏池会の各派閥が将来的に合流する「大宏池会構想」もある。

岸田氏が出馬した場合には、こうした旧宏池会勢力からの支援を期待する声があり、岸田氏が、麻生財務相が文書改ざん問題で窮地に陥っても、麻生氏個人への批判は控えていることにも意味が感じられる。

総裁選、岸田氏はどう最終決断するのか。

安倍首相が予定通り出馬するとして、岸田氏の選択肢は

1.良好な関係の安倍首相からの将来の「禅譲」に期待し、出馬を見送り安倍首相を支える
2.安倍首相に対抗して出馬し、自らの手で総理の座を勝ち取る。仮に敗れても、健闘によってポスト安倍の地位を固める


この2つだ。

その岸田派内の声は「やるとなったらいつでも戦う」という主戦論の一方で「勝たなければ意味が無い」という非戦論も根強い。

そう・・・勝ち目が薄いのに「総裁選」にでると、その後、何が待ち受けているのか。

脱・お公家集団をめざした加藤紘一元幹事長

加藤の乱…現職首相に挑戦するトラウマ

実は岸田派=宏池会には、現職の首相に挑戦することへのトラウマともいえる体験がある。

それは、かつて宏池会トップだった加藤紘一氏の軌跡だ。
将来の首相候補の筆頭と目された加藤氏は、1999年の総裁選に出馬、当時の首相・小渕恵三氏に挑んだ。

この戦い、加藤氏にとっては、勝てずとも、一定の票を獲得し、次の首相候補であることをアピールするのが狙いだった。

それは今、岸田氏がおかれている状況にも近い。

ところが、この行為が小渕氏の激しい怒りをかった。
総裁選に勝った小渕氏は、その後の人事で加藤氏の側近を徹底的に冷遇、不満をぶつけた加藤氏に対し、小渕氏は「君は僕を追い落とそうとしたじゃないか」と吐き捨てた。加藤氏の首相候補からの転落の始まりだった。

その後、加藤氏は起死回生を狙った「加藤の乱」にも失敗。失脚への道をたどった。

もし「加藤の乱」がなければ、加藤氏はいずれ首相の座を「禅譲」されていた、とみる関係者も多い。

加藤派の若手議員として、この総裁選から加藤の乱への軌跡を目の当たりにした岸田氏にとって、現職首相を敵に回すことの怖さは身に染みているはずだ。

2000年の「加藤の乱」・・・現在の安倍政権を支える菅氏や甘利氏などは、実はこの時は加藤氏側だった

岸田氏は飛ぶのか…安倍首相の苦境でジレンマも

では今、岸田氏自身は出馬についてどう考えているのだろうか。

岸田派内部の複数の声を重ね合わせると「この数か月が余計だった」という見方に集約される。
その心は、安倍政権の支持率低下によって判断がさらに難しくなったということだ。

そもそも禅譲を受けるには、安倍政権が強い状態であることが前提といえるが、その状況はここ数か月で一変してしまった。
一方で、安倍政権が苦しい状況であればあるほど、出馬したときに安倍首相サイドから買う恨みは大きくなる恐れがある。
そう考えると、態度を明確にしないのではなく、悩みが深まる一方なのかもしれない。

また、派内で共通するのが、地方票での苦戦を心配する声だ。
今回の総裁選からより重要となる地方党員票は、個人の人気や知名度が大きく影響するだけに、世論調査で石破氏、小泉進次郎氏、安倍首相に水をあけられている岸田氏の苦戦を懸念する声は多い。
その懸念の払しょくに向け、岸田氏は今年に入り、地方行脚を本格化させているが、残された時間はあまりない。

こうした中、古賀名誉会長は、宏池会の復権、岸田政権樹立を明確に発信し始めた。
古賀氏は「安倍政権のあとは、なんとしても宏池会を主軸とした政権を作りたい。岸田会長が、誇りと覚悟の中に勇気を持って総裁選挙への対応を明らかにされるだろう」と期待を込めた。

岸田氏もパーティーでのあいさつで、老子の言葉である「上善は水のごとし」(最上の善は水のように争いを避けて通ることだという意味)という、まるでこれまでの岸田氏の歩みを表すような言葉を紹介しつつ、そこに別の解釈を加えてみせた。

「水のように最も柔らかいものこそ最も堅いものを動かす。激流となったならば岩をも動かす」

この保守本流の名門派閥の長が、激流を作り、岩を動かす日は来るだろうか。
岸田氏の政治家人生をかけた選択を引き続きウォッチしていきたい。


(政治部 自民党担当 福井慶仁)

 

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