金正恩委員長:最新のF-22Aステルス戦闘機よりも、1954年初飛行のB-52爆撃機が目障りな理由

カテゴリ:ワールド

  • 南北閣僚級会談中止、核実験場の放棄を世界にアピールする一方、B-52H爆撃機のマックス・サンダー参加?を強調する北朝鮮
  • B-52H爆撃機は、太平洋から北朝鮮に届く巡航ミサイルを搭載可能
  • 日本防衛の基盤“米軍の傘”への影響は?米朝会談予定日の翌日、韓国統一地方選

南北会談提案から15時間で「中止」を通知した北朝鮮

5月16日、北朝鮮の朝鮮中央通信は、当日実施する予定だった、いわゆる「南北高位級会談を中止する措置を講じざるを得なくなった」と報じた。南北首脳会談に続き、米朝首脳会談への地ならしとなるとみられていた重要な会合の「中止」発表である。

韓国の聯合ニュースによると、北朝鮮は15日午前9時ごろ、閣僚級会談の16日開催を韓国に提案していたが、それから15時間足らずとなる16日未明、会談の無期限延期を韓国側に通知。16日午前3時頃、朝鮮中央通信を通じて、閣僚級(高位級)会談の「無期限延期」を発表したということだ。

米朝首脳会談の翌日、韓国で統一地方選挙

理由として朝鮮中央通信は、11日から行われている米韓の航空戦力の合同演習「マックスサンダー」(参照:下画像)をあげているが、金正恩政権は、なぜ「15時間足らず」の心変わりをして見せたのか。この心変わりは、予定されたものではなかったのか。

韓国当局も分析を急いでいて、16日15時現在、断定はできないが、今回の会談は韓国世論が注目する南北間の協議であっても、米朝協議を前にした諸外国が注目する協議の場であったということは視野に入れておくべきだろう。

事前には、南北閣僚級会談で、南北首脳会談で合意した将官級軍事会談の日程や、南北共同連絡事務所の設置などを協議することになっていたという。
これらの事前合意事項を対象に再び、議題にしようとするだけでも、韓国側には相当な労力を強いることになるかもしれない。

韓国・文在寅政権にとっては、米朝協議が行われる6月12日の翌日、13日が統一地方選の投開票日であり、6月15日は、2000年の南北共同宣言から18年目にあたる。
文在寅政権にとっては、時間的制約が厳しくなる中、何らかの成果をあげたいだろうし、その為に、様々な制裁対象となっている北朝鮮の金正恩政権に何らかの見返りを求められるなら、どう対応するのだろうか。

また、聯合ニュースは15日、北朝鮮が23日から25日に掛けて行う、豊渓里の核実験場廃棄の行事と関連し、韓国の通信社と放送局の記者を招待すると通知してきたという。

この「行事」は、韓国メディアにとって、とても取材招待を拒否できるものではないだろう。「招待」である以上、少なくとも現場での主導権は北朝鮮側が握り、見せたいものを見せるということになりかねない。その結果、北朝鮮が非核化に前向きであるという姿勢を世界に「印象付ける」ことになるかもしれない。

金正恩政権は、米朝交渉にかかわる北朝鮮の行為・主張の正当性を世界に印象付けたい。そして、協議の主導権を握っておきたい、ということだろうか。

中止の理由は「B-52爆撃機が参加したマックス・サンダー演習」

さらに興味深いのは、朝鮮中央通信日本語版(5月16日付)の記事。
南北高位級会談中止について「11日から南朝鮮当局は米国と共に南朝鮮全域で、われわれに対する空中先制攻撃と制空権掌握を目的にして大規模な“2018マックス・サンダー”連合空中戦闘訓練を行っている」として、マックス・サンダーが11日から実施されていることを認めている。

北朝鮮は、マックス・サンダー演習について5日間も反駁・抗議していないことになる。その上で「今回の訓練は…米軍のB-52戦略核爆撃機とF-22ラプターステルス戦闘機を含む100余機の各種の戦闘機が動員されて25日まで行われる」としている。

世界最強をうたわれるF-22Aラプター・ステルス戦闘機(参照:上画像)は今回8機が参加しているが、それより先に、B-52大型爆撃機(参照:タイトル画像)の名前を挙げているのが印象的だ。現役はB-52Hという機種だが、最初の実用機種、B-52Aの初飛行が、1954年と60年以上も前なので、機体の形状は、軍用機にステルス性能など考えられなかった時代から大きな変化はない。ただ、搭載する武器は変わった。

敵の上空から爆弾を落とす初期のタイプと異なり、現在のB-52Hの主要武装は、AGM-86シリーズの巡航ミサイル(参照:上画像)。これを機内に最大8発、左右の主翼の下に6発、計20発を搭載できる。非核のAGM-86Cで最大射程950㎞と、物理的には北朝鮮の領空に入らなくても平壌を射程内にとらえることが出来る。

強化された地下施設や建物を狙うのは、非核の貫通弾頭を装備したAGM-86Dで、1300㎞余り。さらに核弾頭を備えたAGM-86Bなら射程2500㎞と、朝鮮半島どころか、B-52Hが日本の領空に入らず、太平洋側にいても北朝鮮の主要部を射程にすることができそうだ。ただ、韓国の聯合通信は、今回のマックス・サンダーにB-52H爆撃機は参加しない由の記事を発表している。

日本防衛の基盤、“米軍の傘”への影響は

5月16日、北朝鮮の外務省第一次官は、朝鮮中央通信を通じ「一方的な核放棄だけを強要しようとするなら、われわれはそのような…朝米首脳会談に応じるかを再考慮するしかないであろう」との談話を発表したが、金正恩委員長は、豊渓里の核実験場廃棄を世界に見せて、北朝鮮の非核化をアピールする一方、北朝鮮に届く米国の核兵器及び非核戦略戦力を米朝首脳会談の俎上にあげようという考えかもしれない。

日本にとって、グアムに展開している米軍の核・非核戦力は、日本に差し掛けられる拡大抑止の基盤的部分であり、万が一にも、グアムの米戦略戦力が俎上にのれば、日本の安全保障にも関わる問題となりかねない。

米朝首脳会談を6月12日に控え、訪米する文在寅大統領は、5月22日にトランプ大統領との米韓首脳会談を行う予定だが、文大統領は、米朝首脳会談の翌日が韓国の統一地方選挙の投開票日であることを忘れることはないだろう。文大統領が、トランプ大統領に、どのような話をするのか、気になるところである。


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