中国・新空母の長い影に潜むもの

カテゴリ:ワールド

  • 中国初の国産空母は、戦闘機は運用できてもプロペラ固定翼の早期警戒機の運用は困難
  • 中国新空母は、”空母キラー”DF-26の射程内で運用か
  • 米海軍はステルス給油ドローン運用可能な空母を日本配備か

中国の新空母はスキージャンプ甲板

5月13日、中国にとって2隻目、そして、国産初の航空母艦(参照:タイトル画像)が、試験航海を開始した。ただ、この空母は、その名称どころか、クラスも現有の空母001級「遼寧」の設計をあらためた「001A級」なのか、「002級」なのかすら、定かではない。

ただ、外観から分かることもある。
「遼寧」(参照:上画像)と同様、飛行甲板の前端には、反り返ったスキージャンプ甲板があり、艦載戦闘機のJ-15は、フルパワーで噴射、自力で滑走、発艦する。米空母や仏空母のように、甲板に艦載機の前脚に引っかけ、蒸気の力を使って一気に打ち出す「カタパルト」はない。
カタパルトがあれば、プロペラ機でも発艦させることができるが、スキージャンプ甲板では、自前の推進力で発艦しなければならないため、滑走距離が恐らく足りず、プロペラ機の発進は難しい。


艦載戦闘機の「空の眼」となる早期警戒機は、大きなレーダーを持ち、速度が遅くてもよいから、出来るだけ、長時間飛ぶことが望ましい。
従って、空母に載せられるほど機体をコンパクトにするにはプロペラ・固定翼の早期警戒機が望ましいが、スキージャンプ甲板では運用が難しいことになる。
艦載ヘリコプターに早期警戒能力を付けるか、地上から運用する早期警戒機を使う事になり、中国は、現在の「遼寧」には、プロペラ固定翼の早期警戒機は搭載していない模様だ。地上から運用する早期警戒機では、空母の活動範囲が限定されることになり、ヘリコプターでは、飛行時間が限定される。

新空母は、”中国版イージス艦”と同種のレーダー搭載

中国の新空母で目立つのは、艦橋のレーダー・アンテナ。遼寧は、中国版イージスと呼ばれた052C型駆逐艦同様、カマボコ型に出っ張った構造のアンテナ4枚を四方向に向けたタイプ346レーダーを装備していた。

これに対して、新空母では、052Cより発展した052D型駆逐艦同様、平らなアンテナ四枚を四方向に向けて、艦橋に取り付けていることから、タイプ346Aレーダーを装備しているとみられる。アメリカの空母は、イージス艦と同様のレーダーは装備していない。

中国の空母が、随伴艦となりうる駆逐艦と同様のレーダーを装備するメリットを断言することはできない。
しかし、仮に、データリンクで、相互にリアルタイムでそれぞれの艦のレーダーのデータを共有できるなら、艦隊としての防空を一元化し、効率化できることを示唆しているのかもしれない。

米空母は、イージス駆逐艦やイージス巡洋艦と同様な高性能のSPY-1レーダーを装備していないが、データリンクで、SPY-1レーダーが捕捉した標的の一部の追尾データを共有できる。

DF-26中距離弾道ミサイルの”傘”の下で活動する中国空母

中国の新空母の実力は、仮に中国の艦載戦闘機の能力が、米海軍のF/A-18E/Fスーパーホーネット艦載戦闘攻撃機(参照:上画像)に匹敵するものであったとしても、戦闘機の眼となり、指揮を執る、固定翼の艦載早期警戒機を運用が難しいので、その実力のギャップを埋めたとは言い難いだろう。


だが、中国は先月、「空母キラー」「グアム・キラー」の異名を持つ「DF-26中距離弾道ミサイル」(参照:下画像)の「旅団」を編成したことを明らかにしている。
DF-26は、核・非核両用の弾道ミサイルであり、4月16日、中国の解放軍報は、DF-26が「核・非核両用のミサイルシステムは、迅速な核による反撃を行い、重要な陸上標的や洋上の大型および中型の艦船に対し、通常兵器として中長距離精密攻撃を実行することができる」できると発表している。

DF-26の射程は、一説には4000㎞とも言われ、この射程の数字が正しければ、DF-26は、グアムを射程にするだけでなく、日本列島を含む、いわゆる第二列島線内に睨みを利かせることになる。(参照:上地図)

空母キラーの異名が伊達でなければ、第二列島線内での米空母打撃群の活動はかなり制約されることになるだろう。南シナ海のみならず、米朝会談が予定されているシンガポールの周辺をも射程にすることも可能と言えるかもしれない。

航続距離5000㎞とも1万kmとも言われる専用機、通称、エアフォース・ウンでシンガポールに赴くかもしれない北朝鮮の金正恩委員長にとって、あるいは大樹の陰となるのかどうか、筆者には不詳だが、そうした条件下で、2020年、または、19年に就役するとされる中国の新空母および、その艦隊の活動が加わるのだ。では、米海軍はこの状況に手をこまねいているのだろうか。

「空母ジョージ・ワシントン」、初の軍用無人機搭載空母になって日本へ?

米軍の準機関紙「Stars & Stripes(5月9日)」は横須賀基地発の記事として「空母ジョージ・ワシントン(参照:上画像)が、軍用ドローンを装備する初の空母となって、日本に帰ってくる可能性がある」と報じた。

この記事によれば、2019会計年度米国防権限法に米上院軍事委員会が「空母ジョージ・ワシントンに開発中のMQ-25Aスティングレイ軍用無人機の運用支援ができるよう改修するよう米海軍に求めている」とのこと。また、米海軍はMQ-25Aを2023年にも4機導入し、運用できるようになるのは2026年としている。

MQ-25Aは、ステルス無人給油機で、空中で待機していても敵のレーダーには捕捉されにくい。そして、米空母から運用されるF/A-18E/Fスーパーホーネット戦闘攻撃機、EA-18Gグラウラー電子攻撃機、それに、2021年にも空母への配備が開始されるF-35Cステルス戦闘機に空中給油を行う。


つまり、空母そのものからは離れた場所への作戦が可能となり、逆に言えば、空母を作戦エリアから、より離すことが可能になるかもしれないのだ。空母をDF-26の射程外に置き、艦載機だけ作戦エリアに入ることができるのかどうか、気に掛かるところだろう。

勿論、中国の新空母は、まだ、配備されておらず、早くても来年とみられるが、抑止の維持のための計画は、実際に相手が配備する前から検討され、予算が立てられる。言い換えれば、相手が出すカードを予測し、こちらの手札を用意するようだ。 


閑話休題:以前、筆者は、本欄で、北朝鮮の金正恩委員長の乗機として使用されているIL-62Mの航続距離を5000㎞と記述したが、改修によって10,000㎞も可能になるとの説も指摘いただいた。       

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