金正恩委員長の乗機“エアフォース・ウン”の飛行コースが持つことになる意味

カテゴリ:ワールド

  • 金委員長、平壌ーシンガポール間の乗員確保か?
  • 戦略核を背に米朝首脳会談に臨むトランプ大統領
  • "エアフォース・ウン"は、中国領空を飛ぶか?

米朝首脳会談 金正恩委員長は空路、シンガポールへ

「6月12日、シンガポール」とトランプ大統領がツイートした米朝首脳会談。非核化、ミサイル、拉致など、日本としても注目せざるを得ない会談となりそうだが、金正恩委員長は空路、シンガポールに向かうことになる。
金委員長は、中国の習近平主席との会談のため、大連に向かう際、専用機のイリューシン62M型「チャムメ1号」を使用し、航空機での海外訪問も躊躇しない姿勢を示した(参照:タイトル画像)。

同機を米ワシントンポスト紙等は、米大統領が搭乗するエアフォース・ワンになぞらえ「エアフォース・ウン」と呼んだ。
北朝鮮の高麗航空の公式HPに依れば、2008年9月から同社は、平壌ーシンガポール間のチャーター便を運航していたことになっている。同区間を飛べる乗員は、北朝鮮内で確保されているのかもしれない。

「エアフォース・ワン」と“エアフォース・ウン”

イリューシン62M型は、旧ソビエト連邦を代表する旅客機のひとつで、1971年に初飛行。T字尾翼の付け根の左右に2発ずつ、合計4発のエンジンがあり、テイルヘビーなのか、地上で停止しているときには、車輪付のつっかえ棒のような支えが地面に伸びているのが、外観上の特徴だ(参照:上画像)。

米国大統領が海外訪問を行う場合、約1万3000㎞と長大な航続距離と搭載量を誇るボーイング747-200B型機を改修したVC-25型機を使用するのが通例で、大統領が搭乗すると“エアフォース・ワン”と呼ぶ。VC-25“エアフォース・ワン”の他に、米軍には全面核戦争を含む緊急事態に際して、米大統領が戦略核部隊等、全米軍を指揮するために開発された“空飛ぶペンタゴン”、E-4B国家空中作戦センター機が存在する(資料:下画像)。

戦略核を背に米朝首脳会談に臨むトランプ大統領

このE-4Bはコンピュータと機密の通信・データリンク関連の装置を満載し、例えば、飛行しながら全長6㎞ものアンテナを繰り出すことが出来るが、これは、海中に潜む米海軍の戦略ミサイル原潜に、大統領の戦略核ミサイル発射命令を伝達するためだ。大統領の海外訪問の際、E-4Bは、外遊先に近い米軍基地に控えることになる。

つまり、米朝首脳会談とは、質・量ともに世界最大規模の戦略核兵器を背にしたトランプ大統領と、金正恩委員長がシンガポールで会談することを意味する。
トランプ大統領が、万が一にも、会談の途中で席を蹴れば、それが、何を意味するか。金正恩委員長は当然、それを終始、意識して会談に臨むのだろう。
勿論、トランプ大統領は、VC-25“エアフォース・ワン”に搭乗して空路を移動中でも、戦略核兵器の発射権限を自らの手に維持しているだろう。

金正恩委員長の指揮下にも、さまざまな射程の弾道ミサイルを抱えた部隊がある。核弾頭が装着可能と見られるのもある。金委員長は、国内ではグラスファイバー回線など、電波を極力、使わない通信手段で指揮を執っていたのかもしれない。
だが、シンガポールでの首脳会談中はもとより、その前後の空路で、金正恩委員長は北朝鮮軍の指揮をどのように掌握・維持するのだろうか。

中国が決める? 金委員長の空路

これは、米国はじめ、米国の同盟国にとっては、重要関心事となるはずだ。航空軍事評論家の石川潤一氏は、金正恩委員長の飛行コースに注目する。
沖縄・嘉手納基地には、米軍の通信傍受が主任務の電子偵察機が控えている(参照:上画像 米リベットジョイント電子偵察機)。
東シナ海から太平洋に出て、南下し、シンガポールに向かうコースならストーカーのごとく、追跡し、金正恩委員長の通信を傍受することも可能だろう。

これは、彼が北朝鮮軍を指揮する際、例えば、プロトコールがどうなっているかを知るチャンスとなるかもしれない。だが、金委員長は、大連で中国の習近平主席と二回目の会談に臨んだ。

その内容のすべてが開示されるはずもないが、トップのふたりの間でなくても、実務レベルで、例えば、金正恩委員長の乗機と移動用リムジン、予備の燃料などを積んだ貨物機を中国国内、そして、中国が自らの勢力範囲と規定する、南シナ海の九段線を南下するコースを通ることを北朝鮮側が中国側に要請したかどうか。
許可が得られていれば、金委員長の乗機が不調になっても、中国国内の飛行場に緊急着陸することもでき、なにより、中国領空では米軍機等は活動できず、九段線内部では、米軍機等の活動を中国軍機の戦闘機や電子戦機が妨害するかもしれない。

米朝首脳会談に向かって、金正恩委員長の「エアフォース・ウン」が、どんなコースをとって、シンガポールへの行き帰りを行うのかは、米・中・朝の関係を占う意味でも重要となるかもしれない。

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