「海外では自分たちで面白くする、日本は批判にエネルギーを使う」猪子寿之(チームラボ代表)×西野亮廣対談<後編>

カテゴリ:話題

  • 極端な才能は極端な環境によって生み出されている
  • 絵本「えんとつ町のプペル」を無料公開した理由は2つ 
  • 全体の質が落ちるくらいならチケット代がもっと高くなってもいい

シルク・ドゥ・ソレイユの日本公演最新作「ダイハツ キュリオス」を見た、西野亮廣さんとチームラボ代表の猪子寿之さんによるアーティスト対談。

場所は、森ビルとチームラボが東京・お台場で共同運営する世界に類を見ない全く新しいミュージアム「森ビルデジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボ ボーダレス」。

その中で、二人が語り合ったのは無数のランプがぶら下がる「ランプの森」。

(左)西野亮廣さん (右)猪子寿之さん

5月12日にBSフジで放送された「アートの余韻~ディスラプターが語るキュリオス~」では、4人のディスラプター(創造的破壊者)が対談している。

西野さんと猪子さんの対談後編は、人々を魅了するアートが生まれる条件、アートとお金の関係について。

極端な才能は極端な環境によって作られる

西野:
僕、エンターテインメントの仕事をする上で、天才になった方が話が早いと思ったんです。

そこで、天才になるための方法を考えた結果、僕たちの創造性や運動神経といった才能はすべて環境が支配していると気づいた。

たとえば、鳥は飛ばないと仕方ないから、羽を生やして飛んでいるし、陸上の動物もここで生きていかなければならないから、手足をニョキニョキっと生やした。

つまり、極端な才能は極端な環境によって生み出されている、と。才能は後天的なもので、特殊な環境さえ作ってしまえば、僕たちは生き延びるようにプログラミングされている。

猪子さんは最初から、既存の競技に参加しないとか、言語化できないものを分野にするという領域を自分で作ったわけじゃないですか。

そういう環境で生き延びなきゃいけなくなったから、今のような作品が出来上がった。

猪子:
そうかもしれないです。自分の意志で特殊な環境を作った。シルク・ドゥ・ソレイユもきっとそうです。

「従来のサーカスが目指すものはしない」と決めて、今のスタイルを確立した。だから、僕はシルク・ドゥ・ソレイユの作品に人間への愛や可能性、感動を感じるんだと思うんです。

その強い意志を感じ取れるのが、透明サーカスという演目。あれは道化を見て笑ったり、動物を使うというようなこれまでのサーカスのようなことはしないという前提で作られているんだと思う。

その覚悟が今のシルク・ドゥ・ソレイユを作ることにつながったという、これは僕の考えですけど。

西野:
おもしろい! そんな深いメッセージが込められていると思ったら、あの“透明サーカス”は一層おもしろく感じられます。

猪子:
そう。僕、気になって、パンフレット見たら、あの作品は“伝統的なサーカスへのオマージュ”って書いてあったんですよ。

シルクってすごく大人だなって思った(笑)。

西野:
アンチテーゼじゃなくて、オマージュかぁ。

猪子:
そう、その品の良さ! 西野さん、見習ったらいいじゃないですか(笑)。

西野:
ははは。すぐアンチとかって言っちゃうからなぁ(笑)。

鑑賞者が肯定することで作品はもっと面白くなる

西野:
僕、パフォーマンス・アート「ブルーマン」の舞台を日本とニューヨークで観たんです。そしたら断然、ニューヨークの方が楽しかった。

正直、レベルの違いはなかったと思うんですけど、ニューヨークの観客の方がこの舞台をおもしろくしようとする雰囲気があった。

だって、みんな椅子の背もたれに背をつけず、前のめりでずっと「ヒューッ」とか「イエーッ」とか言っているんです。

あれって、嘘でもやっていると本当に楽しくなるんですよ。だから、観ている方は受け身じゃなくて、自分たち次第でいくらでもおもしろくなるという楽しみ方を知っている感じがした。

猪子:
うん。まず、来ているからには参加して肯定するという教育があるのかもしれないですね。

僕たちも欧米の展覧会では、とにかく褒められるんです。だって、興味ない人はそもそも来ないし。

だから、観に来た人は作品のいいところを見つけて肯定する。そういうコミュニケーションの作り方がある気がします。

批判する時間に使うなら、建設的な時間にしよう、と。一方で、日本は批判にエネルギーを使うじゃないですか。

西野:
使いますね。もったいない。

猪子:
逸脱した人を見つけて叩くと快楽になるというねじれた感覚があるのかもしれない。

だから、シルク・ドゥ・ソレイユはその領域には近づかないスタイルなんじゃないんですかね。

無料公開してもマネタイズできる仕掛け

猪子:
ところで、西野さんは絵本「えんとつ町のプペル」をwebサイトで無料公開しましたよね。

その理由はなんですか? 正直言って、なんとなく理由はわかりますけど(笑)。すごく話題になったじゃないですか。批判も含めて。

西野:
反響はかなりありましたね。無料にした理由は大きく2つあって、まず一つは、絵本には子どもが絵を楽しみながら読む物として以外に、親が読み聞かせをするという役割もあるということに気づいたから。

つまり、物質としての価値と、情報としての価値はまったく別。だから、情報を無料公開しても物質としての価値は下がらないと思った。

そして二つ目は少し長くなりますが、今のお母さんたちは忙しいということを知ったから。彼女たちは限られた時間で、おもしろい絵本を買うために、ちゃんと最後まで読んで、本当におもしろかったものしか手に取らない。

つまり、ネタバレして納得したものしか買わないんです。でも、納得できる本を探すまで、本屋や図書館で何時間も立ち読みできないですよね。だから、自分が子供の時に読んで面白かった本を買うという行動を取るんです。

そうやって絵本コーナーに行ってみると、たしかに40年以上前に発売されたベストセラーがいまだに平積みになっている。

僕がこれを突破しようと思ったら、家で立ち読みできるようにして、それから絵本を買ってもらう仕組みにしないと、と思ったんです。

猪子:
もう、答えが120点すぎて、ここで会話終わり(笑)。

西野:
なんですか、それ(笑)。

猪子:
だって、言うことないもん(笑)。

でも、当時の僕の印象をあえて言いますね。そもそも、テレビで活躍されている方々って、いわゆる超一流のアスリートみたいなものだと思っているんです。

たとえば、ひな壇にいるときも、話の流れを大脳で反応してたら間に合わないから、延髄あたりで反応するというか(笑)。反射神経の良さが際立っているなと。西野さんはそういう世界でずっと戦ってこられてきた、いわゆる一流のアスリートじゃないですか。

だから、この無料公開という決断は、テレビの中のひな壇から、世の中全体へと勝負の場に移した結果のアスリート的な反応というか直感かと思ったんです。

「そうだよね、作品の無料公開という時代だもんね」と。

西野:
正直、今、話した理由は後付けの部分もありますよ。酔った勢いで決めたということもある。でも、直感だけじゃないところもあります。

猪子:
考え続けていることと直感とが複雑にからみあった結果の答えですよね。考え続けていることこそ直感って冴えるんですよ。

深く考えていない分野の直感は確率的に精度が低い。自分の専門分野で考え続けていることにおいての直感は論理的思考よりも優位に働く。

西野:
なるほど。あと、無料公開するとどういう反応になるんだろうって、それを見たかったっていうのもありますね。

猪子:
見たいけど、直感的にうまくいくことを知っていたんですよね、きっと。

西野:
そうですね、うまくいかないことはしないですね。無料公開はやってよかったと本当に思います。

やって見えたことが結構あったし、おもしろかった。テレビをやめたときもそうですね。

25歳のときに、ひな壇とグルメ番組、クイズ番組、情報番組をやらないと決めて、そしたらどうなるんだろうって実験したんです。

猪子:
そしたら?

西野:
仕事ほぼ10割なくなったんです。

猪子:
全部じゃないですか(笑)。で、仕事なくなってどうしたんですか?

西野:
テレビを辞めるって決めてから、2週間毎日飲み歩いたんです。それまで本当に忙しくて、そんな時間もなかったので。

それで、タモリさんと飲んでいるときに「西野、絵本描いてみたら」って言われたんです。それまで人に言われたことってしたことなかったので、素直にやってみようかな、と。

猪子:
タモリさんはなんで絵本を描いてみたらって言ったんだろう?

西野:
僕、決して絵が得意ってわけじゃなかったんだけど、タモリさんが「お前、国語と算数得意だから、絵が描けるようになる。だから描け」って言ったんだと思います。で、次の日から絵本作家になるかって。

猪子:
すごいですね。やっぱりその反応はアスリートですね。

高額でも集客できるエンターテインメント

西野:
僕は絵本を無料公開したことが大きく取り上げられてしまったので、世の中の認識がちょっとずれていると思うんですけど、マネタイズを後ろに持ってきているだけでお金はきちんと回収しているんです。

「キュリオス」のチケットは決して安くはないですが、高い集客力がありますよね。

猪子さんは「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソンチームラボボーダレス」の入場料などお金の設定にはどれくらい関わるんですか?

猪子:
まったくタッチしない。

西野:
「それ、高くない?」とか、「安すぎるんじゃない?」とかお金のこと考えないですか?

猪子:
昔は考えてましたけど。今はチームラボにはいろんな役割の人がいますし。

ここは森ビル様と一緒にやっていますし、海外はパートナーがビジネスを設計しますから。でも、たまにお金のこと考えずに作ってたら、途中で「いい加減にしろ」って怒られるんですけど(笑)。

西野:
え、使いすぎだって?(笑)。それまで人に言われたことなかったんですか?

猪子:
そうなんですよね。とはいえ、最終的にはお金のことは解決しないといけないんですが。

このミュージアムは「本当に予算尽きたから」って言われて、トイレを改修する予算が1円もなくなっちゃって。ボーリング場だったときのままなんです。

西野:
すごい話ですね(笑)。トイレ使うとき考えちゃうなぁ、ここでお金尽きたかぁって。

シルク・ドゥ・ソレイユの「キュリオス」はSS席が1万3500円(土日祝)ですが、僕個人としては全然高いとは思わない。

それに見合うものを観させてもらっているから。逆に、チケットを安くして、全体のクオリティが落ちるぐらいなら、もっと料金を高くしてもらっても構わないとさえ思う。

猪子:
他に変わるものがないですからね、唯一無二のエンターテインメント。

西野:
体験した方が圧倒的におもしろいもんですね。

「キュリオス」も、この「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソンチームラボ ボーダレス」も、たくさんの人に来てもらって、このおもしろさを体験してもらいたいって思いました、本当に。

猪子:
うまくまとめるなぁ。

 
(文・浦本真梨子)

■【前編】「“ない分野”で勝負すると決めた」猪子寿之(チームラボ代表)×西野亮廣対談
https://www.fnn.jp/posts/00309730HDK

■「伝統を伝えるために、新しいものを取り入れる」石坂浩二×五月千和加対談
https://www.fnn.jp/posts/00311380HDK

西野亮廣 Akihiro Nishino

絵本作家
1980年生まれ。1999年に梶原雄太とお笑いコンビ「キングコング」を結成。2001年に「はねるのトびら」にレギュラー出演し、広く認知される。にしのあきひろ名義で、絵本作家として活動。2016年に発表した4作目の絵本『えんとつ町のプペル』が発行部数35万部を超える大ヒットに。
▼西野亮廣エンタメ研究所 https://salon.otogimachi.jp/

猪子寿之 Toshiyuki Inoko

チームラボ代表
1977年生まれ。2001年東京大学計数工学科卒業時にウルトラテクノロジスト集団「チームラボ」を設立。アート、サイエンス、テクノロジー、クリエイティビティの境界を超えて、集団的創造をコンセプトに活動。2018年6月21日にデジタルアートミュージアム「森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソンチームラボ ボーダレス」をお台場パレットタウン内にオープン。