日本人は酒に弱くなるように“進化”…「下戸遺伝子」の研究者が語る“弱い方がいい理由”

カテゴリ:地域

  • お酒に弱い体質の人が増えるよう数千年かけて進化してきた
  • お酒が弱くなった“進化”は、感染症の予防と関係がある
  • 日本人は乾燥した耳垢の人が多いのも“進化”?

お酒に関するトラブルが世間を騒がせているが、こんな興味深い研究があるのをご存知だろうか。

日本人の遺伝情報を調べたところ、お酒に弱い体質の人が増えるよう数千年かけて進化してきたことが、理化学研究所などの分析で分かったという。

詳しい原因は不明だが、アルコールに弱い体質が“何らかの理由”で環境への適応に有利に働いたとみられるという。

日本人がお酒に弱い体質の人が増えるよう進化した“何らかの理由”とは何なのか?
お酒が飲めない「下戸遺伝子」の研究を行っている、北里大学の太田博樹准教授に話を聞いた。

お酒に弱い遺伝子を持つのは東アジア人

ーー日本人がお酒に弱い体質の人が増えるよう数千年かけて進化した。これにはどのような理由が考えられますか?

理研のグループは、日本人2200人について分析したので「日本人でお酒に弱い体質の人が増えている」ようにみえますが、私がイエール大学医学部にいた頃に分析した世界37集団(約2000人)のデータですと、日本人に限らず、東アジア人全体でお酒に弱い遺伝的タイプの頻度が多い特徴があります。

これは、①偶然の可能性と、②何かの必然があった可能性の2つの可能性があると考えられますが、私達は、何らかの必然があったのではないかと考えています。

必然とは、チャールズ・ダーウィンがいった「自然選択」で、自然選択のためお酒に弱い体質の人が東アジアでは増えたと考えています。

お酒の弱さは感染症の予防と関係がある

ーー太田さんは以前、「下戸遺伝子の持ち主は中国南部と日本に集中している」 「これは感染症予防と関係がある」と分析されていますね?

お酒に含まれるアルコールはエタノールですが、エタノールは、肝臓でアルコール脱水素酵素によって分解され、アセトアルデヒドになります。

アセトアルデヒドは、やはり肝臓でアルデヒド脱水素酵素によって分解され、酢酸になります。
ご存じの通り、酢酸は無毒ですが、アセトアルデヒドはヒトにとって猛毒です。

アセトアルデヒドの血中濃度が高いと、気分が悪くなり、頭痛がして、二日酔いの原因になります。
つまり、アセトアルデヒドを分解しづらい人がお酒に弱い人ということです。

この「アセトアルデヒドの血中濃度が高い」状態は、ヒトにとって毒ですが、病原体にとっても毒です。
特に、血液に感染する原虫と呼ばれる寄生生物は、血中のアセトアルデヒド濃度が高いと増殖できないことが分かっています。

たとえば、マラリア原虫とか赤痢アメーバなどが、いま話している病原体です。
このため、お酒を飲めないということは、感染症予防に関係がある、と考えています。

お酒に弱い遺伝的タイプは、中国の南に多く、日本列島にも多くいます。

考古学で水田農耕の発祥の地と考えられている中国南部で多いということは、水田農耕地帯に特有の感染症に強かったのではないかと想像しています。

先ほどからお話にでてきています、マラリア原虫とか赤痢アメーバなどは、赤道地域から中国南部くらいにかけて多くいますので、そうしたことが関係しているという仮説を私達は提示してきています。

日本人は乾燥した耳垢の人が多い

ーーお酒の弱さ以外に、日本人が進化の過程で変化させたことはあるのでしょうか?

日本列島に住む人々の歴史を私のグループは、ずっと追い続けてきていて、でもまだ縄文人がどこからきたのかとか、弥生人がどこからきたのかとか決定的なことは言えないのが実情です。

なので「日本人が進化の過程で変化させたこと」という問いに答えることは難しいのですが、「東アジア人が進化の過程で変化させたこと」であれば、他にも挙げられます。

たとえば、耳垢が乾燥タイプか湿ったタイプかを決める遺伝子がありますが、その乾燥タイプは東アジアで頻度が高いことが知られており、日本列島でも他の世界の地域より多いです。

また、EDARという遺伝子の変異は、髪の毛の太さや前歯のシャベル型の形状と関連していて、東アジアではシャベル型切歯、太い毛髪、といった形質が特徴づけられます。

これらの形質が、そうなる理由は、よく分かりませんが、やはり必然(自然選択)ではないかと考えられています。

では東アジア人の生存にとって、耳アカが乾燥タイプであることや、シャベル型切歯、太い毛髪が、どのように有利にはたらいたかといういと、それはまだ研究の途上で、わかりません。

そうした意味では、お酒に弱い体質に関する自然選択は、比較的わかりやすく、もっともらしいのではないかと、私達は考えています。