【働き方改革】「宇宙はゴミで大混雑」世界が放置した前人未到の課題に自ら立ち上がるしかなかった

岡田光信
カテゴリ:テクノロジー

  • 1cm以上の宇宙ゴミ75万個以上が秒速7〜8kmの速さで飛び回っている宇宙空間
  • 技術と資金と法的問題。3つの課題が三すくみの状態
  • 「民間ビジネス」としてフロンティアへ自ら立ち上がる

資金と技術と法的問題 課題を突破するリーダーがいない

“近い将来、宇宙は使えなくなる可能性がある”。
そう知ったのは2013年の初め、40歳になる直前だった。
科学ニュースはよく読んでいたはずだったが知らなかった。
60年に亘る宇宙開発の歴史の中で、人類は古い人工衛星やらロケットの上段やらを大量に宇宙にポイ捨てしてきたらしい。
これを「宇宙ゴミ(またはスペースデブリ)」と呼ぶ。

宇宙ゴミの量は大きいものだけで23,000個以上、1cm以上のものならば75万個以上、それらが秒速7〜8kmの速さで飛び回っている。
宇宙ゴミ同士、あるいは宇宙ゴミと人工衛星が衝突し、大量の破片を生み、その破片が更に衝突を引き起こす。
デブリは凶器と化し、やがて宇宙空間は破片だらけ、衛星は機能しなくなる、そういう状況だ。
下記の画像は、1950年と2018年の地球周辺の宇宙ゴミ分布を比較したものだ。
2018年の宇宙空間がいかに宇宙ゴミで混雑しているかが一目で理解できる。
 

1950年と2018年の地球周辺比較画像:10cm以上の宇宙ゴミの分布図

天気予報、衛星放送、GPS、地球観測といった身近な活用や、月面有人着陸、火星無人探査、太陽系外探査、小惑星着陸と地球への帰還といった科学的な探求まで、宇宙開発というものは常に不可能を実現する取り組みであった。

しかし、宇宙技術が日常生活に深く食い込み、宇宙という教材が子供に夢を与えるようになった一方で、宇宙のゴミ処理を無視してきたツケが回ってきたようだ。

宇宙業界は、参入国の増加、民間参入の活発化などで非常に湧いている。
宇宙利用を持続的に行うには、宇宙におけるごみ処理サービスを誰かが開発し、担わなければならない。

一方、宇宙業界の議論を見てみると、技術が先か、お金が先か、法的問題を解くのが先か、という三すくみの状態に思われた。
その3つの課題を同時に解こうという気概のあるリーダーや組織がなかった。
 

国を待たずに 自ら立ち上がる

宇宙ゴミ問題を取り巻く状況を知った私は、大好きだった映画「スター・ウォーズ」を素直に観れなくなってしまった。
ルークのライトセーバーよりも、レーア姫の美しさよりも、宇宙戦争によって大量に生み出される宇宙ゴミの行方ばかりが気になるようになった。

私には2つの選択肢しかなかった。
一つは、知らなかったことにして次世代に任せる。
もう一つは、自ら立ち上がる、だ。

私は宇宙業界の人間ではなかった。エンジニア出身でもない。宇宙業界に友達もいない。お金持ちでもない。
でも、この問題に真正面から取り組むということにとてもワクワクしていた。
40歳になってすぐに「アストロスケール」という宇宙ゴミ除去の会社を立ち上げた。

取り組むべきミッションは2つだ。
一つは小さな宇宙ゴミ対策。地上から観測が難しい微小な宇宙ゴミの分布マップを作ること。
もう一つは、大きな宇宙ゴミ対策。宇宙ゴミを捕獲し、大気圏に落とすことで”焼滅”させることだ。

2017年11月、一つ目のミッションを実施するため、ロシアからロケットを打ち上げたが、ロケットの上段の不具合により打ち上げ失敗に終わった。

2017年11月ロシアからロケット打ち上げ

そして今注力しているのが、デブリ除去衛星ELSA-d(エルサディー)の開発だ。

ELSA-d デブリ除去衛星の実証実験で2019年打上げ予定

「民間ビジネス」として解決する

国や国際組織がどうやって宇宙ゴミ問題を解決するのかを考えている間に、民間ビジネスとして技術、ビジネスモデル、法的問題を同時に解くというこの動きは、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)が関心を示し、ケース・スタディーとして教科書になった。

何故、HBSが興味を持ったのか。
それは、民間ビジネスとして解くということに一筋の光を見出したからだ。

内閣府主催の第3回宇宙開発利用大賞表彰式で安倍首相と筆者

世界に前例がない事業を実現するのは簡単ではない。
だからこそ、働き方の指針は非常に重要だ。私自身の経営者としての働き方の肝と、弊社チームメンバーのそれは異なる。

宇宙ビジネスも働き方改革が必要

2013年4月、宇宙産業に初めて飛び込んだ頃、専門学会に参加するたびに驚いたものだ。
今後のスケジュールの横軸が、年単位だったり、5年単位だったのだ。
「2020年代半ばまでに」とか「2030年までに」といった文言があちらこちらで飛び交っていた。
この長くて曖昧な時間軸は国主体だからこそだ。私は自ら立ち上がった方がいいと思った。
私のミッションは明確になった。

感覚が研ぎ澄まされると半年後の自分の仕事も想像がつく

私の経営者としての仕事は会社を前に前にと牽引すると同時に、事業開発、技術開発、組織強化、資金繰りなどが調和してシステムとして動くようにすることだ。
世界を巻き込みながらジャングルをかき分ける楽しさ、道を作る楽しさがある。

私が止まったり、露頭に迷ってはチームに迷惑がかかる。
現在、シンガポール、日本、イギリス、アメリカにチームがいる。
課題は大小問わず毎日出てくる。
宵越しの課題は持ってはいけない。会うべき人は社内外に多数だ。毎月世界を一周以上している。だから、寝ている暇はない。

 究極の多忙さから生まれる究極の生産性とは、1時間に片付ける仕事の数が多いことではない。同時多発的に発生する膨大な情報を取り入れつつ、次の5分を何に使うのが最も効果的なのか鮮明に判断ができることである。社員との話に使うのか、次の打ち合わせの最初のジョークを考えるのか、あるメールを返すのか、一本電話を入れるのかなど、その一手がその後の経営判断に最も大きな影響を及ぼすものに使う。

この感覚は日々鋭くなる。例えば、半年後のこの時間はどの国にいて何をしておくべきか、想像ができるようになる。
事業開発、技術開発、組織開発、資金繰り、各国政府との議論など、それぞれに流れがあり、交差し、相互依存している。
それが不思議と見通せるようになる。
よく秘書を持つことを勧められるが、持つことができない。優先順位の付け方が明確にあるものの、言語化できないからだ。

会社全体をシステムとして回すために、もう一つ重要なことは、私が機嫌がいいことである。
こんな難しい取り組みに賛同してくれている、チーム、その家族、サプライヤー、顧客、パートナー企業、投資家、メディア、各国政府、その他大勢の関係者には感謝しかない。そうすると、自然と笑顔がこぼれてくる。1時間に3回以上は笑っている。

宇宙の不都合な真実を放置できない

アストロスケールのミッションは「Secure long-term spaceflight safety」だ。
宇宙を行き交うロケットや衛星、有人船などが安全に航行できるように宇宙環境をキレイにしておくこと、である。

松本零士さんから贈られた絵

これは、松本零士さんが筆者の為に描いて下さった絵だ。
列車が宇宙を駆け抜けて地球と月を行き来する絵。
いつか地球と月との間に定期便ができて、人々が宇宙を自由に行き来するようになる時、宇宙機が安全に航行できるように、地球の周りにゴミがない状態にしなければならない。これが私たちのミッションなのだ。

遡ること2年以上前、日本オフィスに行った時、壁に掃除当番表を見つけた。
円盤状の厚紙に各人の名前が貼ってあり、真ん中を画鋲で止め、クルクルと回す当番表だ。
役割分担が毎回代わる。そしてチーム全員で掃除する。この円盤は社員が増えると、毎回作り直される。外部に掃除を頼まない。
私たちが掃除する。宇宙もやるがまずはオフィスから。

衛星開発するには、衛星部品はもちろん、様々な器具、工具、試験機器などが必要になる。
これも2年以上前だっただろうか、工場のクリーンルームに行くと、非常にキレイに整っていた。
世界中の人工衛星の開発現場を見てきた。見れば一瞬で、その衛星に故障が起きるかどうか想像がつく。
私は自社の工場を見て、ここであればフライトモデル(注:宇宙空間に実際に打ち上げる衛星)をちゃんと作れると自信をもった。

掃除当番表にせよ、在庫管理にせよ、私が言い出したことではない。
自然発生的に生まれた。我が社のミッションが徹頭徹尾浸透していることを感じた瞬間だった。

宇宙の不都合な真実をこのまま放置できない。
NASAやESA(欧州宇宙機関)、JAXAからも人材が集結した。
私たちは解決に向けて急いでいる。
やることは膨大だ。
けれども、誰も解けなかった課題を解けた時に見える景色はどんなものだろうか。
ワクワク感が私たちを支えている。

(執筆:アストロスケール 創業者兼CEO 岡田光信)
(イラスト:松本零士)

 

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