フォード「セダン撤退」で日米自動車協議は視界良好に

カテゴリ:テクノロジー

  • 『ライトトラック』に集中で利益率を極大化へ
  • 背景には米政府のゆるゆる燃費規制と高関税維持
  • 「日本は不公正」と難癖をつけて報復の武器を磨く

「ライトトラック一点張り」で利益率極大化へ

アメリカ、フォード・モーターが「北米でセダンの製造・販売から撤退」するという。
アメリカではセダンは不人気で利幅も小さいため、フォードなど『デトロイト3』はピックアップトラックやSUVなど『ライトトラック』への傾斜を強めてきているが、撤退とはずいぶん思い切ったものだ。
遅かれ早かれ、GMとフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)も追随することになりそうだ。

事はそれだけに留まらない。
「セダン撤退」ということは、経営的に「ライトトラック一点張り」となり、ライトトラック分野での優位性を何が何でも守り抜かなければならなくなる。6月末にも始まるとされる茂木経済再生相とライトハイザー通商代表の日米FFR通商対話において厳しい議論になることは間違いない。

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『ライトトラック』の輸入関税は『乗用車』の10倍

アメリカでは自家用自動車は『乗用車(passenger cars)』か『ライトトラック(light trucks)』に分類される。
『乗用車』はセダン、ステーションワゴン、クーペ。
『ライトトラック』にはピックアップトラック、SUV、バン、ミニバンが含まれる。
フォードといえばピックアップトラックのFシリーズ、SUVのエクスプローラーなど、長年のベストセラーで稼ぎ頭なのはライトトラックだ。

『ライトトラック』は政府による燃費規制が『乗用車』より緩い。
厳しい燃費規制を回避するため、フォードは初代エクスプローラーを『ライトトラック』の分類に押し込んだと伝えられている。規制が緩いから大型化も可能で、価格も1台当たりの利益も大きい。ユーザーのニーズも伸び続けている。

加えてシェール・オイルの生産増でガソリン価格も安定が見込まれるので多少燃費が悪くても大丈夫。トランプ大統領のエネルギー政策と環境政策は自動車産業フレンドリーだ。当面の経営判断として『ライトトラック』重視は当然といえる。

そんな美味しい『ライトトラック』を海外勢に食い荒らされてはてはたまらない。
だから高い関税で保護を続けている。
『乗用車』の輸入関税が2.5%なのに対し、『ライトトラック』は10倍の25%だ。

先に大筋合意した米韓FTAの再交渉では、トランプ政権が『ライトトラック』を断固守ろうとしたことが良く分る。
改定前は「25%の輸入関税を2021年までに撤廃予定」だった。
それが再交渉によって、「2012年の米韓FTA施行から30年間、または2041年までは維持される」ことで決着した。
つまり、韓国メーカーは2022年以降、韓国製のSUVを関税ゼロでアメリカ市場で売れるはずだったのに、それがほぼ20年先延ばしされてしまったのだ。

実は、「30年間は関税を維持」という決着は、TPP合意における日米の決着とほぼ同じだ。
経産省の公表資料によれば、「トラック」の25%のベースレートを「29年間関税維持の上で、30年目に撤廃」と説明されている。

この資料では自動車の品目表記が「乗用車」「バス」「トラック」「キャブシャシ」とされているので、アメリカ側にとっての『ライトトラック』関税の重要性は全く伝わってこない。
日本政府は意図してそうしているのだと思うが、ここではその点に深入りはしない。

ポイントは、対日本では『ライトトラック』の25%関税を30年間維持で合意できたのに(トランプはTPPから離脱したので、現状、30年を超えて25%関税が続く)、対韓国では25%関税がわずか3年後の2021年にゼロになってしまうのはアメリかにとってとんでもない大失敗だ。

韓国SUVの洪水で『デトロイト3』のドル箱に穴が開くのは何が何でも防ぐ!という問題意識と交渉意図が働いたに違いないし、「撤廃」が3年後に迫っているので、韓国との再交渉をNAFTAと並んで最優先で対応することにしたのだ。

ある意味フォードは、アメリカ政府が『ライトトラック』をあくまで保護する意思を明確に示したことを追い風に、「セダン撤退」「ライトトラックに集中」という経営判断に至った‥と考えられる。

「日本は不公正」と難癖をつけて報復の武器を磨く

そこまでこだわっている『ライトトラック』、日米交渉での扱いはどうなるのだろうか。

茂木経済再生相とライトハイザー米通商代表による「FFR=自由で公正かつ互恵的な」通商対話は6月末にも始まるという。
それがFTAの前哨戦ではないにしても、アメリカの対日貿易赤字の主要な理由は自動車にあり、日米どちらにとっても自国の自動車産業は守るべき対象なのだから、厳しいやり取りになるのは避けられない。

アメリカ側としては25%の『ライトトラック』関税に手を付ける理由はない。必要に迫られたら米韓FTA再交渉の合意でありTPPで一度は合意した「30年間は維持」に着地できる。
その点を巡って日米が対立するとは思わない。
30年後には自動運転技術やEVなどの普及で自動車の世界は様変わりしているだろうから、それまでの間、『ライトトラック』で大きな利益を取り続ける環境を維持できればアメリカ側に不満はない。

にもかかわらずアメリカ側は、日本の自動車市場は様々な規制や基準によって閉鎖的であり、不公正だと難癖をつけ続けるだろう。それは1980年代の日米自動車摩擦の頃からずっと続いているゲームで、トランプとライトハイザーの日米貿易交渉についての原風景でもある。

しかし、かれこれ40年だ。日本側が不公正を続けているのならとてつもない粘り腰だと思うし、40年たっても『デトロイト3』が日本でまともに車を売れないというのも余程の理由があるからだろう。
筆者個人のかねてからの結論は、「『デトロイト3』はそもそも日本で車を売ろうとは考えていないし努力するつもりもない」というものだ。

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しかし、かれこれ40年だ。日本側が不公正を続けているのならとてつもない粘り腰だと思うし、40年たっても『デトロイト3』が日本でまともに車を売れないというのも余程の理由があるからだろう。
筆者個人のかねてからの結論は、「『デトロイト3』はそもそも日本で車を売ろうとは考えていないし努力するつもりもない」というものだ。

アメリカで『ライトトラック』をガンガン売れば効率的に利益が確保できるのに、日本向けの開発・生産を行い販売サービス体制を整え販促を繰り広げ、それでどれだけの利益が得られるというのか。フォードは効率的に利益を上げるために「北米でセダンの製造・販売から撤退」する会社だ。
日本で車を売るなどという非効率は経営の大方針の真逆でしかない。
実際フォードは2016年に日本から撤退している。

アメリカ側に日本で車を売るつもりがないのに、「日本の自動車市場は閉鎖的だ。規制や基準を見直せ」と要求する理由はなんなのか。実はアメリカで『ライトトラック』を守るだめだと考えるのが合理的だ。
今後の趨勢を予想すれば、日本や欧州メーカーのSUVが続々北米市場を目指すことになる。日欧のメーカーにとっても北米ではSUVなど『ライトトラック』が売れ、利益も取れるからだ。今ではフェラーリですらSUVの時代で、日欧の大手メーカーはいずれもSUVの充実に努めている。北米現地生産も進むだろうがそれには相当の歳月がかかる。NAFTAの先行きも不透明だ。目先は主に輸出で対応することになり、25%の関税で厳しい販売価格競争を強いられることになる。
だが、最終的にはアメリカ国内のユーザーがどう判断するか次第だ。

日米自動車交渉 アメリカの狙いが明確に見えた

アメリカ側にとってみれば、かつて『乗用車』で起こったことが『ライトトラック』で再現されてはならない。
いざという時の武器を磨いておく必要がある。「通商法301条」「包括通商法のスーパー301条」の発動だ。

いずれも相手国の不公正な貿易慣行や行為の存在を認定して報復措置をとるものなので、「不公正だ!」「不公正だ!!」「不公正が全然直らない!」と言い続けておくことが欠かせない。日本は不公正だから『ライトトラック』を保護する報復措置をとるという理屈だ。そうすることによって北米における『デトロイト3』の死活的利益を守ろうとする。
繰り返しになるが、日本市場に入りたくてあれこれ注文するのではない。
それでは「利益率を押し上げる」という経営の大方針の一貫性に背くことになるからだ。

フォードがこだわる『為替操作』も、アメリカ車の円建て価格を気にしてのことではなく、日本車(特にSUV)のアメリカでのドル建て価格が円安によって割安になる(関税分が相殺される)ことを警戒してのことだ。例えば、日本円で300万円の日本製SUVは1ドル100円で換算すると3万ドル、25%の関税が加わって3万7500ドルとなるが、1ドル120円の円安になるとドル建てで2万5000ドルになり25%の関税がかかっても3万1250ドルにしかならない。約17%の円安によって関税の壁が7500ドルから1250ドルに低くなったと言える。それでは『ライトトラック』高関税の意味がなくなってしまう。

日米自動車交渉の歴史は長く、交渉事項は多岐にわたり、一体どこを目指して走っているのか分かりにくいことが少なくない。
そんな中でフォードの「北米でセダンから撤退」という方針が出て、フォードにとって何が大切なのかが明白になった。
おかげさまでこれからの日米交渉でアメリカ側が何を考え何を狙っているのか、随分すっきりと見えるようになったと思うが、どうだろうか。