【三浦瑠麗】過去の失敗を生かした南北首脳会談 今後の焦点は対北政策がぶれるトランプ政権の対応

カテゴリ:ワールド

  • 3回目となる今回の南北首脳会談と過去2回の違いは、アメリカの支持と期待を得ていること
  • アメリカは北朝鮮に対する国民レベルでの危機感が共有されていない
  • 中間選挙を前に米朝合意を欲するトランプ大統領 功を焦る気持ちが筋悪な合意を導かないか 

アメリカの支持という画期

韓国の文在寅大統領と北朝鮮の金正恩委員長が板門店の「平和の家」で10年半ぶりとなる南北首脳会談を行いました。具体的な道筋は示されなかったものの、朝鮮半島の非核化の意思を明文化し、南北間の敵意が著しく低減したため、各国は歓迎ムードです。

ソウルのプレスセンターは各国のメディアでごった返し、両首脳が邂逅した時には大きな拍手と歓呼の声が起こったとのこと。各国の有力メディアは、この歴史的瞬間に対して一様にある種の興奮を持って報じており、両首脳が軍事境界線の南北両側で握手するなどの印象的なシーンに感銘を受けています。

過去二回の南北首脳会談と比べた時、今回の一番の特徴は、同盟国であるアメリカの期待と支持を得ているということでしょう。アメリカのトランプ政権は早速、南北首脳会談を評価し、米朝首脳会談の場所を決めたとツイートしており前向きです。

歴史を振り返ると、第一回の南北首脳会談は、金大中大統領が金正日委員長と会った2000年に遡ります。
しかし、ブッシュ政権下で米朝関係が悪化し、アメリカはイラク戦争に資源や関心の多くを割かれ、朝鮮半島問題への関心は低下してしまいました。
つづいて政権を担った廬武鉉大統領は、米韓同盟を強化しつつ、北朝鮮とは融和的な関係を保とうとします。2007年、廬武鉉大統領は平壌を訪問して第二回の南北首脳会談を行いました。終戦宣言と平和協定の締結を目指すとする宣言策定に関わったのが、当時大統領を支えていた文在寅氏。
しかし、その実現を難しくしたのは、ほかならぬ北朝鮮の核兵器とミサイル開発の進展でした。
アメリカは、北朝鮮の核武装を断じて許容しないとしており、平和協定締結に踏み切るわけもなかった。

保守派が政権に返り咲いた李明博政権下では、2010年に哨戒艇沈没事件、延坪島砲撃事件などが相次ぎ、すわ戦争再開かというような緊張が走ります。
朴槿恵政権では2015年に六項目合意で小康状態を迎えたものの、2016年には北朝鮮は2回も核実験を行いました。そして、国内のスキャンダルに追われて朴槿恵大統領が退陣した後、2017年5月の大統領選で進歩派が政権をとり、文在寅大統領が誕生したというわけです。

廬武鉉政権での失敗を担当者として記憶している文大統領が、今回、相当な配慮を重ね、アメリカに根回しをしたことは、アメリカの理解を得るうえでプラスに働きました。しかし、アメリカがここまで文政権の提案を支持し、米朝首脳会談を決意するに至った決定的な要素は、やはりアメリカがトランプ氏という大統領を得たことだろうと思います。

極端にぶれるアメリカの対北政策

トランプ大統領は、選挙戦中から、前任者の外交政策をこき下ろしてきました。冷戦後四半世紀に及ぶ外交政策を無策と位置づけ、民主党・共和党とを問わず批判しました。ただし、選対陣営に確固とした対北朝鮮政策があったわけではありません。関心はむしろ中東・アフガニスタンの方にあった。

ところが、関心が低く、かつ実際に相手方が与える脅威が高いとき、表明される政策は二つの両極端な選択肢を揺れ動くことがあります。本音と建て前、といっても良いかもしれません。

トランプ政権は、建前として北朝鮮に対する先制攻撃の脅しを容赦なくちらつかせました。実際、この政権の自己中心的な性格を考えれば、戦争を全くしないとも言い切れないところがあった。しかし、本音の部分では対話による脅威の逓減を目指していたと考えられます。米朝両国を歩み寄らせようとする韓国の努力がなければ、本音は「対話」ではなく「放置」あるいは「封じ込め」に落ち着いた可能性も高い。

それはなぜか。
国民レベルで危機感が共有されていないからです。

危機意識が低いアメリカ国民

アメリカ国民に対する2017年のギャラップ社の意識調査では、回答者の58%が北朝鮮への攻撃を(少なくとも最後の手段としては)支持すると答えていました。これはアメリカ国民にとって北朝鮮が攻撃に値するひどい存在だということは意味するものの、強く憎んでいるということまでを意味しません。

戦争といっても千差万別です。小規模なものであればあるほど、そのコストをよく考えずに支持する確率が高まります。東アジア地域に高い関心を持ち、脅威を真摯に感じ取っていれば、事実上の核保有国に対する攻撃をここまで多くの人が支持するわけがありません。しかし、相手が「脅威」であることや挑発的行動は認識されているので、攻撃を支持する人は多くなる、という構造なのだろうと思います。

地域に関心が低い、安全保障の素人がそのような判断になるのはある意味で自然なこと。しかし、今回の特徴は、ホワイトハウス自体がそのような認識で動いているという点です。

軍人がストッパーに

ホワイトハウスは、中間選挙を前に目に見える果実としての米朝合意を欲しています。そして、対話に大きな意味があることも確かです。ブッシュ政権やオバマ政権のように、北朝鮮の二国間対話の要求を無視し続けていたとしても、北による核の脅威は減りません。そのため、北朝鮮の核および運搬手段が、外から見てある程度以上の能力に達した時点で、対話による交渉にアメリカが引き寄せられるのは必然であったと考えるべきでしょう。

残る懸念としては、大統領の功を焦る気持ちが筋悪な合意を導かないように気を付けなければいけない、ということです。

そこで重要になってくるのが、軍官僚やマティス国防長官を筆頭とする元軍人の政権幹部の存在です。軍人の影響力がタダでも大きなトランプ政権ですが、国務省の影響力が著しく低下し人材難にあえぐいま、大統領の極端な宥和や攻撃を諫めるストッパーとしての役割が期待されます。

長らく空席であった駐韓大使には、このたびハリー・ハリス太平洋軍司令官が任命されることになりました。米国きっての韓国通のお一人である米戦略国際問題研究所(CSIS)のヴィクター・チャ氏の指名が撤回されてから数カ月、すでにオーストラリア大使に内定していたところを、国務長官に就任するポンペオCIA長官の意向で差し替えられたとのこと。非核化交渉を前に頼りになる人材を配置できたことは確かでしょう。

ハリス太平洋軍司令官

日米同盟に対する教訓

北東アジアの秩序と安定を確保し、韓国の安全を担保するためには、米韓同盟が引き続き重要です。ホワイトハウスの意思が、関心の低い地域においては極端に揺れ動きがちだということは、日米同盟にとっても他山の石とすべきでしょう。

同盟は、どんな友好的なものであったとしても、最終的には利害関係で動くものです。しかし、私たち東アジアの同盟国が、アメリカを文化を含めて受容しているほどには、先方はこちらに対して関心を持ってくれません。今後、同盟を維持するうえでは、ますます同盟を結んでいる双方の世論が重要になってくることでしょう。

利害に基づく日米同盟・米韓同盟に対して、トランプ大統領は「フリーライダー」という言葉を、国内に見える形で与えてしまった。長い目で見た時、そのことがアメリカ世論にもたらす影響は大きいと考えるべきです。韓国のみならず、日本自身も、同盟の捉え方をいまいちど洗い直すことが求められているのかもしれません。

(国際政治学者 三浦瑠麗)
(イラスト:さいとう ひさし)

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