海上自衛隊「いずも」型の"空母化"検討報告から見えてくるもの

海上自衛隊「いずも型」はF-35Bステルス機空母になりうるのか

カテゴリ:国内

  • ヘリ搭載護衛艦の「航空機運用能力向上」調査研究
  • 検討の前提は、F-35B、たった1機の運用
  • 空母に必要な早期警戒機/ヘリについて記述なし

検討対象は「ひゅうが型」「いずも型」の4隻

南北首脳会談が行われた4月27日、防衛省は、民間の造船会社に委託した「DDHの航空機運用能力向上に係る調査研究」を発表した。DDHとは、ヘリコプター搭載護衛艦のこと。DDHを改修すれば、いわゆる、海上自衛隊の「空母保有」につながるかどうかで注目されていた、研究・報告である。

検討対象になった海上自衛隊の護衛艦は、「ひゅうが」型ヘリコプター搭載護衛艦「ひゅうが」「いせ」、それに空母化が可能かどうかで注目されていた「いずも」型の「いずも」「かが」の4隻。
また、対象となった航空機は無人ヘリコプター「MQ-8Cファイアスカウト」と固定翼無人機「RQ-21Aブラックジャック」、それにステルス戦闘機「F-35BライトニングⅡ」である。
黒塗りの部分が目立つが、これは、調査した企業の調査能力等に関わる部分や護衛艦の具体的な性能に関わる部分とのこと。

無人ヘリ、無人機を搭載機として検討対象に

興味深いのは、いずも型(甲板長:248m、搭載ヘリコプター機数、最大14機)より飛行甲板が短い、「ひゅうが」、「いせ」(甲板長:197m、搭載ヘリコプター機数最大11機)も検討対象にしたこと。
もともと、どちらも10機以上のヘリコプターを運用してきた護衛艦なので、MQ-8Cのような偵察用の無人ヘリコプターの運用を検討するのは当然として、興味深いのは、「RQ-21Aブラックジャック」の検討。
固定翼飛行機とはいえ、車輪がないので、特性のカタパルトを使って、発進。戻ってきたら、特製の回収装置に引っかけて回収する。RQ-21Aの外国での運用例をみると、軍艦の上で運用する場合、上記4隻の様な平らな全通甲板を持たない駆逐艦やフリゲートでの運用が主なようで、なぜ、全通甲板をもつ護衛艦での検討対象にしたのか、興味深いことである。RQ-21Aの発進・回収装置は、それなりの大きさがあるので、実際に搭載・運用すれば、ヘリコプターの運用に影響するかもしれない。

注目のF-35Bステルス戦闘機の検討

だが、最も注目されるのは、F-35Bステルス戦闘機だ。さすがに、甲板の短い「ひゅうが」、「いせ」では検討せず、甲板の大きな「いずも」型で検討している。しかも、「米軍の後方支援実施を目的」に「機数も1機を想定する」と書いてある。たった1機では、とても本格的な小型空母を想定しているとは言えないだろう。
つまり、将来の自衛隊のF-35Bを搭載する可能性より、アメリカ軍の緊急事態の支援を前提に検討しているのだ。この前提は、委託を受けた会社が設定したというより、日本政府・防衛省が設定したものだろう。
残念ながら、「いずも」で、F-35Bを運用するためには、どんな改造が必要か、の詳細は報告書の公表された部分からは明らかになっていない。

豪軍は揚陸艦の甲板を“米軍に貸す”戦略?

米海兵隊は、短距離発艦・垂直着艦を運用上の原則とするF-35Bを強襲揚陸艦から運用するために日本の岩国基地にF-35Bを配備した。
ところが、この東アジアで、F-35Bを運用することになっているのは、佐世保に配備されているWASP一隻のみ。いざというときに敵の攻撃等で、WASPが大破したり、甲板が傾いたらどうなるか。飛んでいるF-35BがWASPに戻れなくなるのは、間違いない。
だから、海上自衛隊にF-35Bが着艦して、燃料補給して、岩国や他の地上基地にまで戻れるようにすれば、米軍にとって助かるだろうし、それは、いざという場合の日本の安全保障にもつながる、ということだろうか。

豪海軍は、全長230mのキャンベラ級強襲揚陸艦2隻を運用している。豪軍としての艦載機はヘリコプターだけで、豪軍自身には、洋上から運用するF-35B、F-35Cステルス戦闘機は存在しないし、導入する計画もない。それであるにも関わらず、キャンベラ級には、F-35Bの運用に最適な、斜めの勾配=スキージャンプ甲板が備え付けられている。だが、この甲板は、ヘリコプターの発着艦に使えるスペースを小さくしているので、複数のヘリコプターの運用には、決して適しているとは言えない。あえて、そんな構造の甲板を持つことによって、豪軍は、米国の様な同盟国に甲板を利用させるつもりだろうという見方がある。

今回の報告書の発表で、諸外国からは、日本政府が、豪海軍同様、緊急事態に際して、「いずも」型護衛艦を米海兵隊のF-35Bステルス機の受け皿にすることにやぶさかではないと、と受け取られても不思議ではないだろう。
「いずも」型を戦術上、本格的に小型の空母として運用するためには、空飛ぶレーダー・サイトとして、戦闘機/攻撃機部隊の眼となり、指揮をとる「早期警戒機」をどうするのかなどの課題もあるはずだが、今回の報告書には、早期警戒機の「いずも」型からの運用についての記述はない。
防衛省が、そもそも、早期警戒機(または、早期警戒ヘリ)の運用を想定せず、委託先企業にも指示していなかったのならば、現時点では、防衛省は、いずも型を本格的な小型空母に転用することより、米軍の運用の支援に重きを置き、米国や周辺国に知らしめ、抑止強化につなげようとする検討報告発表だったといえるかもしれない。

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