【米中貿易戦争取材】「選挙前に戦争」と揶揄されるトランプ大統領の“支持基盤”が揺れていた

カテゴリ:ワールド

  • トランプの支持基盤 ”アメリカ最貧の州”と言われる ミシシッピを取材した
  • 中国政府が「大豆」に25%の関税をかけると発表 農家を狙い撃ち
  • 「トランプ氏が選挙対策のために外交問題演出」の可能性も

貿易戦争の影響は・・・トランプ氏の支持基盤を取材

空から見たミシシッピ州

「先週、取材でミシシッピに行ったんだ。美しい景色を堪能してきたよ」
「それはラッキーだね…。でも、嫌な思いはしなかった?」

初出張の興奮が冷めぬ私に、アメリカ人の友人は言葉を選びながらこう言った。

「お年寄りに日本出身と伝えたら、『戦争の時代には戻りたくない!でも、野球は最高だな』と言われたよ」
「リアルな南部だね。州の旗を見ればわかると思う」

ダイナーでくつろぐ老人たち

米中貿易戦争の影響を取材するため私が訪れたのは、アメリカ南部ミシシッピ州。
南部の気質は“サウザン・ホスピタリティ”(南部のおもてなし精神)と呼ばれ、一般的に「人が優しく、食べ物が美味しい」と有名だ。
実際、道行く人々には笑顔で声をかけられ、名物ポークリブは絶品だった。

友人の否定的なニュアンスが解らぬまま、州旗を調べると、そこには南北戦争時代に「奴隷制存続」を主張した南軍の旗が描かれていた。
州旗をめぐっては、「人種差別の象徴」との批判が根強く、変更するか否かの論争が続いているという。
そこで初めて、友人が「差別的な言動で嫌な思いをしなかったか?」と言いたかったのだと気づいた。

狙い撃ちにされた農家 揺れる“保守の牙城”

種植え作業中の大豆畑

ちなみに、嫌な思いは全くしていない。
しかし、そんなアメリカの歴史が色濃く残る地域に、トランプ大統領の強固な支持基盤の農村部が広がる。
「アメリカ最貧の州」と言われ、州都の空港から車で30分も走れば、見渡す限り一面の畑。
経済は農業に依存しており、「大豆」は主要な農産品の一つだ。

その大豆に対し、中国政府は25%の関税をかけると発表。
中国がトランプ氏に揺さぶりをかけるため、支持基盤を狙い撃ちにしたのだ。

「このままでは大豆は利益を生まない作物になり、事業を続けることが難しくなる。もしビジネスがなくなるのなら、誰であっても支持できない」

人口2000人の町ベルゾーニで大豆農家を営むウィラード・ジャック氏も伝統的な共和党支持者だ。
しかし、作付シーズンを前に起きた貿易戦争の結果次第では、トランプ氏支持を変える可能性が高いと話す。

ミシシッピ名物「ナマズのフライ」

また、地域経済への影響にも懸念が広がる。
街のビジネスは、ミシシッピ名物「ナマズのフライ」を提供するレストランのほか、農機具修理工場や農薬・肥料を扱う店などで、大半が農業と関連している。

「農家の経営が悪化すれば街の経営は成り立たない」

レストラン経営のアンソニー・ウェイド氏

「農業がなくなればここにいる理由がなくなってしまう。自分の店がなくなるかもしれない。皆が動揺している」
 
レストランを経営するアンソニー・ウェイド氏は農家の経営が悪化すれば、街の経済は成り立たないと心配する。

「選挙のための演出が心配」日本に影響も

ミシシッピ川

農村部は伝統的に共和党支持者が多い。
環境保護に重点を置く民主党政権は排水、農薬使用などを厳しく規制するため、農業経営が圧迫されるからだ。
おととしの大統領選では農家が熱烈にトランプ大統領を支持し、大豆生産上位10州のうち8州で勝利を収めた。
しかし、11月の中間選挙ではそのうち3州の上院選で接戦が予想されている。

農村部の支持離れは、トランプ氏にとって大きな痛手だ。
このことは、北朝鮮問題やTPPなど外交上の課題を抱える日本も無関係ではいられない。

ある米政府関係者は現状をこのように懸念する。

「北朝鮮や中東情勢などの重要な外交問題を、トランプ氏が選挙対策のために演出し、妥協に走らないかが心配だ」

ワシントンでは「共和党政権では選挙前に戦争が起きる」との揶揄がにわかに飛び交う。

ディールを好むトランプ大統領。
“トランプ・ゲーム”の中で、日本の重要課題が切り捨てられないか注視しなければならない。

(執筆:ワシントン支局 瀬島隆太郎)

取材部の他の記事