タニタの戦略は女子高生の“恋愛マンガ”から 【秘書がこっそり教える社長の愛読書】

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  • 社長の愛読書から経営戦略が見えてくる!?
  • 17歳女子高生がバイト先の中年“おっさん”に恋をするマンガ
  • 社長がマンガから学ぶ“ヒットの本質”と“人づくり” 

社長は「粘り強いタイプ」

社長の愛読書を秘書に“こっそり”教えてもらって、有名企業の経営戦略を読み解いてみようという企画。

第一回目は株式会社タニタ。

今年3月、食堂事業から派生したカフェ事業への展開について発表したタニタだが、谷田千里社長はどのような本を愛読書とし、経営戦略を描いているのか。

社長秘書を務める広報課の名倉麻衣さんに話を聞いた。

株式会社タニタ 広報課 名倉麻衣さん

ーー谷田千里社長ってどんな方なんでしょうか?

粘り強くチャレンジするタイプです。
例えばこちらのちょっと変わった社員証。
弊社では、この活動量計が社員証になっています。

健康を可視化できたら…という先代の思いで健康計測機器と健康データのサービスを始めたのですが、当時は通信技術が今ほど発達しておらず、正直なところ使い勝手がよいものではありませんでした。

谷田の代になって、法人向けのサービスとして提供しようということになり、まずタニタグループの社内で実証実験を行い地道に改良を重ねました。
結果、活動量計を社員証と一体化させ、歩いた歩数など距離に応じてポイントがもらえるようにしました
社員は貯めたポイントで商品券や有機野菜などと交換することができます。

当初は活動量計のみでは携帯し忘れる社員が多くいましたが、社員証と一体化することで装着率もかなり向上しました。

結果として、この「タニタ健康経営プログラム」はサービスとして現在150以上の企業や自治体などに利用いただけるようになっています。
社長の“粘り”がビジネスにつながった良い例だと思います。

株式会社タニタ 谷田千里社長

3代目は健康を“はかる”から“つくる”企業へ

そんな“粘り強い”社長の愛読書に迫る前に、まずはタニタの意外な変遷について振り返る。
タニタと聞くと、今では健康に関わる物を作っている会社をイメージする人も多いのではないだろうか。

株式会社タニタの前身は、祖父の谷田五八士(たにだ いわじ)氏が昭和19年に設立した株式会社谷田無線電機製作所。当時は通信機器部品の製造などを行っていて、戦後はOEMで大手電機メーカーのトースターの製造などを行っていた。

タニタがOEM生産していたトースター

ある時、五八士社長がアメリカに視察に行き、家庭で体重をはかっているのを見て、日本も豊かになれば同じような時代が来ると考えて体重計を発売。

体重をはかることを「健康をはかる」と考え、ヘルスメーターと名付けたという。

そして、医師から「肥満とは体重が重いことではなく、体脂肪が多いこと」と聞き、乗るだけで体脂肪率を簡単に計測できる「体脂肪計」を開発し発売した。

2008年に千里氏が社長に就任。

その後「タニタ食堂」を大ヒットさせ、現在は全国31か所でタニタ食堂のメニューを提供している。

先達の「健康をはかる」という企業コンセプトを、「健康をつくる」という概念に進化させ、健康総合企業として食堂やカフェのほか、企業の健康経営をサポートする法人向けプログラムへと、その事業領域を広げた千里社長。

その背景には、どのような「読書術」があったのだろうか?

愛読書は女子高生の恋愛マンガ!?

ーー社長は普段どのような本を読んでいるんですか?

月に最低でも10冊は、読んでいるようです。

献本でいただく本も多いのですが、そこには世の中の最新のエッセンスが詰まっているとよく申しています。仕事柄、地方出張が多いのですが、時間があれば必ず地方の個人経営の書店に立ち寄るようにしているとのことです。

都心の大型書店にはない、個人書店の経営者の“こだわり”の本に刺激を受け、新たな発見をしているようです。


ーー最近、読んだ本の中で、印象強いのは?

それが意外にも「恋は雨上がりのように」というマンガなんです。

(c)眉月じゅん/小学館

「恋は雨上がりのように」(眉月じゅん/小学館)
今年1月からテレビアニメとして放送され、5月には映画化もされる人気コミック。
不器用な17歳の女子高生が、バイト先のファミレス店長に恋い焦がれる物語。

この店長は45歳のバツイチで子持ち。ダサい上に不潔、しかも10円ハゲ…と、お世辞にもかっこいいとは言えない存在。いつも客のクレームにペコペコ謝ってばかりの“うだつの上がらない”中年男性なのだ。

(c)眉月じゅん/小学館
(c)眉月じゅん/小学館
(c)眉月じゅん/小学館

ーーなぜタニタの社長が女子高生と中年の恋愛マンガに着目したんでしょうか?

まず、谷田は、多種多様なお客様が集い、多様なニーズに応えなければならないファミレスが舞台になっていることに注目したそうです。

元々タニタ食堂は、社員食堂のレシピ本が発売された後、メニューを実際に食べてみたいというお客様のご要望に応える形で始めた事業です。
つまり、最初から「健康」に興味のある人を主なターゲットにした飲食店でした。(多種多様なお客様や多様なニーズに応えるという業態ではなかったのです。)

通常の飲食業であれば、食堂からカフェへの展開は「ありがち」に見えるかもしれません。
しかし、タニタ食堂がカフェを始めることは、今までとは違う顧客層へのアプローチをしなければならないという点で、かなり大きな挑戦だったわけです。

ーー具体的にどんな部分が参考になったんですか?

谷田がマンガを読む理由に、もちろん「マンガ自体が面白い」ということがありますが、作品の背景にあるヒットの“本質”に関して、様々な仮説を立てながら読むことが、ビジネス上良いトレーニングになるからとも聞いています。

この「恋は雨上がりのように」という作品は女子高生と中年オヤジの恋物語…と一見、定石なテーマ設定に見えますが実は、それだけではないのです。

店長には、ファミレス店長という顔とは違う別の側面があります。
小説家になる夢を諦め切れない元文学青年という設定で、時に知的な側面が文学的に描かれています。

ビジネスにおいて、ヒットを打つには「定石+α」の組み合わせがとても重要と、谷田は考えているようで、この作品の「女子高生+中年おやじの恋愛」という定石に純文学という「+α」の部分からインスピレーションをもらったと話していました。

(c)眉月じゅん/小学館
(c)眉月じゅん/小学館
(c)眉月じゅん/小学館

若い社員へのアドバイスの参考に

ーー社長が一番お気に入りの部分は?

9巻にある、ツバメの巣と巣立ちに関するやり取りが、一番心に響いたそうです。
主人公の女子高生は、元エリートの陸上選手でした。
ところがアキレス腱を痛め部活をやめ、ファミレスでバイトを始め店長と恋に落ちる設定。

主人公の心の中には、ケガを克服して陸上に復帰したい思いと、復帰への恐怖心とのはざまで揺れ動いている。
店長も女子高生のアルバイトから好意を持たれ、戸惑いつつも次第に彼女に惹かれていく。そして店長自身も、小説家になる夢を諦め切れないでいる。
陸上に復帰したい彼女の思いも理解しつつ、店長は葛藤の末、彼女に背中を押すアドバイスをする。そのアドバイスの仕方が参考になったそうです。

今、どこの企業にとっても最大の課題は“人づくり”だと思います。
谷田は社長として若い社員などにアドバイスする機会が多くあります。経験豊富な年長者から見ると、若い人にアドバイスをどのように伝えるべきか悩むことが多いそうです。

若い人から助言を求められアドバイスする段階で「おそらく失敗するだろうなぁ」とか「多分うまくいかないだろう」と、結果が読めてしまうことも多々あるそうです。
それでも、人を育てていくためには、敢えてやらせてみないと人は成長しない…。

そういう意味で、共感した部分だそうです。

(c)眉月じゅん/小学館
(c)眉月じゅん/小学館
(c)眉月じゅん/小学館

タニタの企業コンセプトを「健康をつくる」という概念に進化させた社長の愛読書は、意外にもマンガだったが、女子高生の恋愛マンガから“ヒットの本質”や、“人づくり”などのインスピレーションをもらい、ビジネスに役立てていた。

最後に秘書の名倉さんに、タニタのカフェ事業についての展望を語ってもらった。

タニタがカフェで目指すものは?

カフェは食事をする以外に、会話や空間を楽しむ目的で訪れる方も多いので、おいしく、楽しい時間を過ごせるメニューと空間を提供する、 “こころの健康”を意識した店舗にしていく予定です。

健康づくりというと何かを「がまん」しなければならないと思われがちですが、カフェでは食堂よりもカロリーや塩分の制限を緩めて、おいしさと楽しさを実感していただくことを目指しています。
メニューの一つの「カムージー」は、食感にこだわった「噛む」スムージーで、野菜の彩りも鮮やかですので、見て、食べて楽しんでいただけることと思います。

タニタカフェで楽しく過ごしている内に、自然と“こころの健康”づくりにつながるような場所にしていきたいと考えています。


コミック「恋は雨上がりのように」全10巻 (c)眉月じゅん/小学館https://bigcomicbros.net/comic/koiame/
アニメ「恋は雨上がりのように」BDDVD BOX 上巻:好評発売中 下巻:627日発売
http://www.koiame-anime.com/
映画「恋は雨上がりのように」525日(金)~東宝系にて公開予定
http://koiame-movie.com/