南北、米朝が騒がしい今こそ中朝が気になる

習近平はトランプから金正恩へ軌道修正中

カテゴリ:ワールド

  • 朝6時半に中国大使館弔問の理由
  • 金正恩の習近平へのアピールが半端ない
  • トランプとの取引に一点張りは愚策

金正恩委員長が早朝、中国大使館を弔問した狙いは

金正恩委員長が23日早朝、平壌の中国大使館を弔問した。
前夜のバス事故で中国人観光客多数が死傷したことについて「不慮の事故が起きたことに非常に胸が痛い」と李進軍大使に述べ、習近平国家主席と党、政府、遺族に深い哀悼の意を表したと朝鮮中央通信が伝えた。

24日付の労働新聞 一面に掲載された写真の1枚

同じ日の夕方には病院で負傷者を見舞い、翌24日付の「労働新聞」は1面トップで写真付きで報道した。
金委員長による大使館弔問も負傷者の見舞いも異例だというが、それ以上に注目したいのは、朝6時半という中国大使館訪問時刻だ。

新華社の報道によれば、事故が起きたのは22日午後6時頃。
中国人旅行者34人を乗せたバスが橋から転落した。

その報に、習近平総書記は「外務省および駐北朝鮮大使館で全ての必要な措置を取り、北朝鮮側と協力して事故の処理に全力で取り組むよう」指示したという。

それから半日足らず、朝一番に金委員長が中国大使館に出向いたのだ。
平壌と北京の間には30分の時差がある。
平壌の朝6時半に弔問すれば、大至急電で北京に報告が上がり、習総書記が朝一の報告を受ける際には「金委員長が先ほど弔問」と知ることになる。

それを計算しての早朝の大使館訪問とみていいだろう。
実に心憎い配慮だ。

習総書記への並々ならぬアピールはもう1つ


もう一つ、金委員長の習総書記への並々ならぬアピールが感じられたのは、13日から平壌を訪れた中国芸術団とその団長の宋濤・中国共産党中央委員会対外連絡部長(中連部長)の接遇だ。

芸術団は4月15日の故金日成主席の生誕記念日にあわせて開かれた「第31回4月の春親善芸術祭典」に参加する国立バレエ団などの芸能人ら200人余り。
宋濤氏など党と政府の幹部が同行したのだが、北朝鮮側の対応がすごい。(引用は朝鮮中央通信による)

13日、平壌空港で金委員長の妹の与正氏、党副委員長、文化相らが出迎え。
与正氏はその後、芸術団の宿舎で宋濤中連部長と懇談、「滞在中にささいな不便もないよう最大の誠意を尽くす」と述べる。

14日、金正恩委員長が芸術団と会見。
別に宋濤中連部長と会見し、「朝鮮労働党と中国共産党の共同の関心事となる重大な問題と、国際情勢について深い意見交換が真摯に行われた」。

さらに金委員長は芸術団を歓迎する宴会を催し、李雪主夫人、与正氏、3人の党副委員長らも参加。
また、李雪主夫人は、万寿台芸術劇場で中国芸術団のバレエ公演を観覧。
劇場で出迎えた宋濤氏らと「和気藹々とした友好的な雰囲気の中で懇談」した。
与正氏や3人の党副委員長らが同席。

16日、金委員長が李雪主夫人とともに東平壌大劇場で中国芸術団のバレエ「赤い女性中隊」を鑑賞。
講演後、夫人とともに舞台に上がり、一人一人と握手し、芸術団のメンバーと記念写真に納まる。
ここでも与正氏、3人の党副委員長らが同席。

4月17日付の労働新聞より

17日、金委員長は宋濤中連部長と再び会見し、「新時代の要求に即して朝中関係を新たな高い段階へと昇華、発展させるため引き続き努力する」と発言。
朝中両党の戦略・戦術的協同もより強化するための問題について踏み込んだ意見を交わした。
さらに金委員長は宋濤中連部長に「帰国後、最も立派な友であり、最も親しい同志である習近平総書記と中国人民に送るあいさつを伝えるよう願う」と頼んだ。
金委員長は芸術団を招き夕食会を催し、李夫人、与正氏、2人の党副委員長らが参加。

18日、空路帰国の途に就く中国芸術団を、与正氏、党副委員長、文化相らが見送る。

ということで、芸術団の平壌滞在中、金与正氏と少なくとも1人の党副委員長がベタ付きだ。
金委員長も歓迎宴と夕食会を主催し、和気藹々と友好ムードを盛り上げた。

一方で、金委員長は宋濤中連部長と2度会談し、「両党関係と国際情勢について深い意見交換を真摯に行い」「両党の協同強化のため踏み込んだ意見交換」を行っている。
2回目の会談が3日後に行われたのは、双方が1回目の会談の内容を吟味し、中国側は北京の反応・指示を受けて再会談に臨んだからだろう。
突っ込んだ意見交換をうかがわせる表現、そして、何かにつけて金委員長が「習総書記によろしく伝えてくれ」と頼んでいる様子が伝わってきて興味深い。

宋濤氏は中国共産党のトップ25人には入っていないが、習近平総書記の側近の一人とされ党内で対北朝鮮政策を総括する役職にある。
去年11月にはトランプ訪中を受けて習総書記の特使として訪朝したにもかかわらず、金委員長に会えずに終わった時とは様変わりだ。

生き残り戦略に米朝会談一点張りは愚策か


金正恩委員長の生き残り戦略が変わったと同時に、習近平総書記もそれに呼応しているからだろう。
金委員長にとってみれば、トランプ大統領との首脳会談はチャンスであると同時にリスクでもある。
会談がどういうディールに逢着するか予測不能であるなら、自身の生き残りを米朝会談に一点張りするのは愚策だ。
保険をかける先は、中国・習近平をおいて他にない。
トランプと対抗できる力がなければ保険に足りえないからだ。

習氏にとっても金総書記の戦略的決断は渡りに船だったと思われる。
中国は去年、不愉快なタイミングで続く北朝鮮の核実験やミサイル発射に怒りを重ねた。
そして、中国を脅したりすかしたりして北朝鮮への影響力を行使させようとするトランプ流を受け入れる形で、北朝鮮危機対応について踏み込んだ協議を進め、国連安保理での制裁決議にも協力してきた。

それが去年12月以降、トランプ政権は「中国はアメリカの国益に反する世界をつくろうとする『修正主義勢力』だ」とする報告書を次々に公表し、経済でも軍事でもアメリカの優位を力ずくで守る方針を打ち出した。
ざっくりと言ってしまえば、アメリカを食い物にする中国の台頭はもう許さない!という宣言だ。
これは中国の対米認識を根本から揺るがすもので、対北朝鮮での米中の協力のあり方ももはや2017年と同じではありえない。


金委員長がこれまでの中国との『不通』を改め、首脳以下さまざまなレベルでの交流と意思疎通を深めるのであれば、金正恩の北朝鮮は中国にとってコントロール可能な相手となる。
金委員長の電撃訪中から1ヶ月足らずだが、2人の首脳の意志をもって中朝関係を急速に進めようとしているのは明らかだ。

4月20日に朝鮮労働党中央委員会総会が採択した『決定書』にある「核実験とICBMの発射実験の中止」は、中国が求めてきたことでもあり、「核実験場の廃棄」も隣国としては安心材料だ。
なによりも同じ一党独裁の国である中国は、党の中央委員会総会による『機関決定』の意義・重要性を他のどの国よりも良く分かっているはずだ。
口約束とは重みが違うし、政策の予見可能性と安定性が格段に高まる。

習近平は2035年を意識して長期政権を目指す。
金正恩はまだ30代半ばだ。
この2人がポスト・トランプも意識しつつ、安定した中朝関係へと向かっていく姿は想像に難くない。

南北首脳会談や米朝首脳会談を仕掛けたのが誰であれ、そしてその狙いが何であれ、金委員長と習総書記は『中朝関係の劇的転換』という産物を先取りしたと言える。

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