いつまでも効くと思うな、安倍総理の日米FTA回避策

茂木・ライトハイザー新枠組みはFTA一歩手前

カテゴリ:ワールド

  • FTA交渉を突きつけられず一安心だが‥
  • 二番煎じの新枠組みに米側の布石あり
  • 日米FTAを巡る山場は中間選挙の直後にやって来る

FTA交渉をつきつけられず一安心だが・・・

フロリダで行われたシンゾー・ドナルド会談で両首脳は、自由で公正かつ互恵的な貿易取引のための『新たな協議枠組み』を作ることで合意した。
心配されていた日米FTA交渉の開始を、トランプ大統領が直接、安倍総理に突きつけることはなかったようだ。

日米FTA交渉は、とりわけ日本の農業と自動車産業に対し、TPP合意で日本が受け入れた以上の譲歩をアメリカが押し付けてくるに決まっているので、日本政府としてはどうしても御免こうむりたい代物だ。

安倍総理としてはFTA交渉を回避できて一安心に違いない。
しかも、回避策が1年前に使ったのと同じ『協議枠組み』を作るというものだったので、2度目も効くのかどうか心配がなかったわけではないと思う。

去年2月、日米首脳として初めてのシンゾー・ドナルド会談の際も、日米FTAを要求されるのではないかと大いに懸念されていた。そこでシンゾーがドナルドに提案し首尾よく受け入れてもらったのが、麻生副総理とペンス副大統領による日米経済対話という協議枠組みだった。

何を要求してくるか予測不能のトランプに比べ、ペンスは日本企業も多数進出しているインディアナ州知事の経験者で無茶はしない‥との読みがあり、実際に大当たりだった。
それから1年、日米経済協議は何も動かず概ね平穏に過ぎたのだから。

そこに鉄鋼・アルミの輸入制限発動、そして米中貿易戦争だ。

今度こそ日米FTAか? 
もしかしたら対北朝鮮で拉致問題や中距離ミサイルの交換条件に持ち出されるかも‥と身構える向きもあった。

結局、茂木敏充経済再生相とライトハイザー米通商代表による『新たな協議枠組み』で話し合っていくことになった。麻生とペンスでは埒が明かないという判断でもある(麻生・ペンスに報告するという形をとり、2人の顔は立てた)。
FTA交渉でなく別の形で二国間の協議をする手法自体は去年2月のと何ら変わらない。

茂木・ライトハイザー新枠組みはFTA一歩手前

何故、アメリカはそうと知って受け入れたのだろうか。

対北朝鮮、対中国など、当面は日本としっかり連携する必要性があるのはもちろんだが、二国間経済協議の「顔」を茂木経済再生相とUSTRのライトハイザー氏に替えたことが大きい。

対日強硬派のライトハイザー氏を据えたことは分かりやすいが、この2人が日米FTA交渉をやる場合の実務責任者となることに留意すべきだ。
アメリカ側は、その時になったら『茂木・ライトハイザー枠組み』をFTA交渉に切り替えることを想定していると思う。
それを日本側に意識させればそれだけ、経済協議で譲歩も期待できるというものだ。

狙いはアメリカの対日貿易赤字の早期大幅削減だ。

首脳共同会見での安倍総理の発言から、日本側は『新たな協議枠組み』をTPPへのアメリカの復帰を促す場に、そして『自由で開かれたインド太平洋戦略』に貿易・経済のうまみが増すようアメリカを誘導したい思惑が感じられる。
官僚の作文としては良く分かるが、トランプが果たしてそれに乗って来るだろうか?

日米FTAを巡る山場は中間選挙の直後にやって来る

フロリダで改めて確認できたのは、トランプのマルチ嫌いバイ志向は全くぶれていないこと。

TPPを対中国のコンテクストでなんて全く考えていないこと(それはクドロー国家経済会議議長が、首脳会議の直前ブリーフでしつこく繰り返し明言していた)。
そして、鉄鋼・アルミ制限はあくまで対日交渉の梃子として使うということだ。

貿易交渉と言っても、実は全く違う2つの柱がある。
まず、貿易赤字や不公正を既存の国際約束、国内法をも使いつつ、交渉によって是正すること。

通商法301条を使った米中貿易戦争や、アメリカの対日貿易赤字を短期間で減らすために日本がアメリカ製軍用機や旅客機を多数緊急購入するなどは、この範疇に入る。
契約額がまとまっただけで、トランプは赤字減らしの成果が出ているとアピールできるし、中国と戦っている姿を見せることが、11月の中間選挙対策になる。

もう一つは、貿易のルールを作る交渉だ。
FTA交渉やTPPなどマルチの交渉がこれで、通常は交渉開始から合意まで何年もの歳月がかかる。
交渉のために必要不可欠な「大統領貿易促進権限」には様々な国内手続きが規定されており、例えばトランプ政権が日本とのFTA交渉を開始する際には、少なくともその90日前に議会に通知しなければならない。

といった事情を考えると、トランプにとって11月の中間選挙のためになるのは、貿易赤字減らしであってFTA交渉ではない。

従って、日米の『新たな協議枠組み』は当面、対日貿易赤字減らしに集中的に取り組む。
その後、選挙の結果次第という面もあるが、2020年のトランプ再選戦略の一環として、日米FTA交渉がクローズアップされてくるに違いない。

2020年11月3日の投票までに「アメリカのビジネスと労働者に有利な」合意を目指すなら、1年半程度の短期決戦になる。

日本の貿易政策としてはアメリカの対日貿易赤字削減に協力することが第一。
同時に、いつまでもFTA交渉入りを引き延ばせるわけではないと冷徹に情勢判断し、トランプのTPPに復帰するかも発言などに振り回されることなく、TPP11をできるだけ早く発効させ、日本にとって好ましい交渉環境を作っておくことが上策と思われる。

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