「それもセクハラかよ!」はなぜ起こる? 男女の意識差が埋まらない理由

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  • 働き盛りの男性に特有の“自信”に気をつけるべき
  • 女性側にも注意すべきポイントがある
  • 下手な言い訳は泥沼化の元

その定義を確認したり、被害を受けたという女性たちの声を聞いたりしても、正直なところいまだに「セクハラのボーダーライン」が理解できていない、と感じる男性は多いはず。
一方、そんな男性たちに対し「なぜわからないの?」と苛立ちを隠せない女性も多いだろう。

「セクハラ」に対する男女の認識にある溝はなぜ埋まらないのか? 『部長!その恋愛はセクハラです!』(集英社)の著者としても知られる社会学者で大阪大学大学院人間科学研究科・牟田和恵教授に聞いた。

女性からの指摘で、初めてセクハラに気づく

多くの男性にとってセクハラとは、相手が嫌がっているにも関わらず性的なことを言う・ボディータッチをする、というイメージの範囲にとどまっている場合が多いはず。
しかし社会学者の牟田和恵教授によれば、不快感を露にしている女性に、無理やり性的言動をする極端な事例は少ないという。

「現実に起きているセクハラは、相手の女性が戸惑っていたり不快な感情を持っていたりしたとしても、男性側が気づいていないケースがほとんど。相手が上司や同僚、取引先だったりするために配慮して女性が不快感を表に出さずにやり過ごしているので、男性のほうもセクハラ行為に気づけないまま、継続してしまうのです」

双方の認識の違いに気づけないまま、セクハラ行為が重ねられていく。
ゆえに女性の我慢が限界に達し「セクハラです!」と訴えた時点で、「ニコニコしていたのになんで!?」と男性側が驚愕するケースが多いのだという。

このような男女の意識差は、どこから生まれてしまうのだろう?

「女性扱い」はトラブルの元
働く男性にありがちな「自信」にも注意すべき

「例えば男性側が今日も綺麗だね、と褒めているつもりでも、働く女性からすれば、職場で性的なまなざしをうけること、女性扱いされることはしばしば侮辱的なんです。
プライベートな場と違って、仕事の文脈では女扱いされることが仕事をする人間として認められていないのでは、と女性は考えてしまう傾向があります」

女性が男性と対等に働くようになっても、本当に男女平等が実現している会社はまだまだ。
そのなかで「女扱い」されることは、「女だから」と軽く見られている、と捉えられるようになったのかもしれない。
職場でのセクハラ行為が問題になりやすいのは、働く女性のプライドが関係していたのだ。


一方で、男性がセクハラに気づけない理由には、男性特有の心理が隠されているという。

「セクハラが問題になったとき、大抵の男性は『向こうが誘った、合意のうえだった!』などと言いますが、そのすべてが嘘というわけではない、と私は思っています。本当に自分が女性からアプローチされたと信じ込んでいるんです。
そうした勘違いが起こる原因のひとつとして考えられるのが、働き盛りの男性に特有の“自信”です。働き盛りの男性は金銭的にある程度余裕があり、地位も持ち始め、成功している。
周囲から敬意を持たれて自分に自信がありますし、実際若い頃よりモテるようになっている人も多いと思います。そういうパワーのある自分に、女性がなびいて当然という気持ちが潜んでいるのでしょう」

忘れてはいけない社会における男性の優位性
女性側にも注意すべきポイントがある

たとえば、セクハラのボーダーラインとして挙がることが多い「飲み会の際、お酌や隣の席に座ることを要求されて不快」という事例についても、男性側は女性が進んで隣に座っている、と思い込んでいるケースが多いと牟田教授は指摘する。

「中には、自分はとくに出世もしていないし、権力者でもないから、勘違いはしていないと思っている男性もいるでしょう。
しかし日本の職場環境における男女のパワーバランスをみれば、まだまだ女性は男性に気を使わざるを得ない状況にあることは否定できません。
そのため、女性は相手の感情やメンツを配慮して表面的には愛想良く振る舞うことが多く、その態度がより一層男性にセクハラを分かりにくくさせてしまっているのです」


また、こうしたケースでは女性側にも注意できるポイントがあるとも。

「女性側も感じのいい態度や愛想笑いが、好意を持っている、楽しんでいると相手に誤解される可能性があることを知っておかなければいけません。
角を立てずに意志表示できるよう伝え方を工夫するなど、自己防衛策が必要です」

下手な言い訳は泥沼化の元!
相手の気持ちに寄り添い謝罪することが大切

実際にセクハラとして裁判になったりマスコミに扱われたりする事件の大半は、被害者に謝罪をせずに開き直りや恫喝で状況を悪化させたケースがほとんどだ。

事態を悪化させないため、男性が気を付けるべきポイントを聞いた。

「男性側の初期対応の失敗が、余計に事を大きくしてしまう、というのはありがちなパターン。セクハラだと言われても、過剰に反応しないことが重要です。
防衛的になる気持ちはわかるのですが、相手女性のことを攻撃したり、周囲に相手女性が悪いんだと触れ回ったりすると、余計に泥沼化してしまいます。最初に双方でしっかり話し合えていれば行き違いにもならなかったのに、というケースが実に多いのです」


では、相手女性の言うことをすべて鵜呑みにして、ひたすら頭を下げればいいのだろうか?

「大切なのは、相手の事情や気持ちをよく理解することです。
もしも自分の気づかない部分で相手を傷つけていたのでは、という可能性を考えて、頭ごなしに否定するのではなく、相手の話に耳を傾けましょう。自分の言動の何が問題と受け取られたのかを理解して、反省すべき部分は真剣に謝罪する。
その気持ちが伝われば、多くの場合、大事には至らないのです」

無自覚なセクハラ加害者にならないために!
おぼえておきたい日頃の防御策7カ条

セクハラ防止の基本は「君子危うきに近寄らず」の発想。

最後に、セクハラ加害者となることを未然に防ぐために覚えておきたい7つのポイントを牟田教授に教えてもらった。

・上司は部下に性的誘いかけはしない。力の差があると誘いかけただけでも強要につながります
・性的話題、性的ジョークはメンバーと状況を的確に熟慮した上で行うこと
・スキンシップはNG、飲みニケーションの発想も注意すること
・食事やデートの誘いは、断られたら潔く引き下がること
・社内でのお酒のからむイベントは、たとえ私的な色合いがあっても業務に関連した公の行事と考え、行動に注意する
・自分の行動に不安があったら、その行為の写真が社内報に載っても説明がつくか、身内が同じ行為をされているのを見て不快を感じるか等の尺度で考える。それでもその行為を望むなら相手の明確な同意を求めること
・(法的判断でセクハラか否かは別として)不幸にして相手がセクハラと感じたときは「迅速」かつ「誠実」に対応すること


男女の性に対する意識差を自覚し、常に相手の明確な同意を確認することがセクハラ行為を防ぐ事につながる。
そして万が一、女性に無自覚のセクハラを行ってしまったら、誠意を持って、真剣に誠実に対応しよう。

男女間の相互理解は、双方の歩み寄りによって深まっていくのだ。



■牟田和恵(むたかずえ)氏
現在、大阪大学大学院人間科学研究科教授、専門は社会学・ジェンダー論。日本社会学会理事、日本学術会議連携会員。京都大学大学院修了後、佐賀大学助教授・甲南女子大学教授等を経て、現職。ハーバード大学客員研究員を1995年に、コロンビア大学・ミシガン大学の客員教授を1998年・2004年に勤める。佐賀大学勤務時の1989年、福岡で提訴された日本で初めてのセクハラ裁判の支援代表をつとめて以来、研究・実践の両面からセクハラ問題に関わり、その経験から、セクハラ事案当事者である男女の意識や認識のギャップを痛感し『部長、その恋愛はセクハラです!』(集英社新書)を2013年に刊行。セクハラ問題専門家としてTVや新聞等での登場多数。その他、主な編著書として、『家族を超える社会学』、『ジェンダー家族を超えて』、『知っていますか?セクシュアル・ハラスメント一問一答』、など。『部長、その恋愛はセクハラです!』(集英社新書)の電子書籍版も好評販売中。
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文=片岡暁乃(清談社)
イラスト=マツモトカズトク

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