安全運転か横転か “働き方改革”号 4つのタイヤのバランスは?

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  • 働き方改革法案は車の4輪に例えられる
  • 「高プロ」死守の政府に対し、野党側の対案は様々
  • 働き方改革の方向性で日本の将来像が見える

後半国会の最重要法案「働き方改革関連法案」が4月6日に閣議決定された。
今後、提出前から繰り広げられていた国会での論戦が本格化することになる。

では、いったいどこに注目すべきか。
そして、今回の議論が日本の将来にとってどのような位置づけになるのか解説する。

法案のポイントを車に例えると対立点が見える

法案の主な内容としては、3点が挙げられる。

まず、時間外労働の上限規制罰則付きで設けられた。
具体的には、休日労働を含む時間外労働について、臨時的な特別な事情がある場合でも、月100時間未満とし、2~6カ月平均で月80時間以内にすると定めている。
また、雇用形態による不合理な待遇の差をなくすため、正規社員と非正規社員の格差を解消する「同一労働同一賃金」を導入する。

そして、様々な働き方の選択を可能にする目的で、「高度プロフェッショナル制度」(高プロ)を創設するとしている。
これは、一定の基準を超えた収入を得ていて、高度な専門知識を必要とする業務の労働者を、労働時間の規制から外すものだ。

一方で、当初、盛り込まれるはずだった「裁量労働制」の適用業務の拡大は、国会での説明で根拠としていたデータに不備や異常な値が発覚したため、法案から削除された。

政府は法案の提出理由を「労働者がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現する」と説明している。

これに対し、野党側は「働く人のための改革ではなく、『働かせる人』のための”改悪“だ」などと反発しており、法案の廃案を目指す一方で、複数の対案が国会に提出される見通しだ。

 国会での与野党の対立はよくみられる光景だが、「働き方」という多くの人にとって身近なテーマで、なぜここまで溝が深まっているのか。

今回の政府案を「車」に例えると、対立点がはっきりするように思える。

「バランスの良い運転」を目指す与党案

自動車には左右前後4つのタイヤがついている。
この4つのタイヤのバランスがとれていなければ、迂回や横転をしてしまう。

当初、安倍内閣が描いていた法案の柱について、仮に左の前輪に「時間外労働の上限規制」、後輪に「同一労働同一賃金」を置いてみる。
右の前輪には「高度プロフェッショナル制度」、後輪には「裁量労働制の拡大」を置いてみる。

やや単純化して論を進めると、左側は労働者=働く人にとって労働時間や賃金の面でプラスになる要素が多い政策である一方、右側は経営者=働かせる人にとっても、残業代の抑制というプラスの要素がある政策だ。

安倍内閣、そして与党としては、経営者側・労働者側の双方にメリットを示しつつ、負担の可能性についても双方に理解してもらうという、いわば「バランスの良い運転」を目指した形となっていた。

「右側のタイヤ」への批判を続ける野党

法案提出に至る経緯や、「働き方改革」をめぐる各党の主張、今後の国会論戦の軸について、引き続き「車」に例えて考える。

野党各党は、主に車の「右側のタイヤ」に対する批判を続けている。
先ほど述べた通り、車の右側のタイヤは経営者にプラスの要素が考えらえる政策だ。
裏を返すと労働者側に負担を強いる可能性もある政策だ。

野党の間で、「右側のタイヤ」への批判が強い理由は、野党の多くが労働組合の支持を得ていたり、市民団体の協力を得ていたりすることと切り離せないと考えられる。

すでに、「タイヤ」の1つ「裁量労働制の拡大」は、野党の追及により、政府が国会での説明の根拠としていたデータに不備や異常な値が発覚したため、今回の法案に盛り込むことが見送られている。

野党は、もう1つの「右側のタイヤ」である「高度プロフェッショナル制度」についても、「裁量労働制と根っこの部分が同じだ。働かせ放題になる」などと削除を求めている。

運転のバランスを欠けば「横転」も

一方の政府・与党としては、「高度プロフェッショナル制度」は守らなければならない「タイヤ」といえる。
「右側のタイヤ」は自民党を支援する経営者団体から導入の要望が強かった政策でもあり、「裁量労働制の拡大」に続き、「高度プロフェッショナル制度」まで断念するようなことがあれば、「運転」のバランスを完全に欠き、それこそ「横転」してしまいかねない。

国会審議で政府は、「高度プロフェッショナル制度」について、「年収1075万円以上に対象者を限り、本人の同意などを要件としている」「年間104日の休日を確実に取得させるなどの健康確保措置を講じることとしている」ことなどを示し、野党からの批判をかわす方針だ。

ただ、野党側も、年収の規定について「将来的に引き下げられるのではないか」との危険性を指摘し、本人の同意についても「企業に雇われている立場の人間は、上司に求められれば断れないものだ」などと食い下がるものとみられる。

一枚岩ではない野党 「左側のタイヤ」をどう守る

「働き方改革」をめぐっては、野党側も対案を提出するが、一本化することはできなかった。
その理由は、労働者にとってプラスになる「左側のタイヤ」の1つ、「時間外労働の上限規制」をめぐる方針の違いだ。

希望の党と民進党の案は、この点について政府案と同じものを提出するが、立憲民主党の案は政府案よりも厳しい規定を設けている。

「月100時間未満、2~6カ月平均で月80時間以内」とした政府案に対し、立憲民主党案では「月80時間未満、2~6カ月平均で月60時間未満」としている。「月100時間」が過労死認定の1つの目安にされているなどから、このような案となった。

このほかにも、立憲民主党が、「終業から翌日の始業までの間隔」を一定時間以上あける「インターバル規制」について「11時間」と明記する一方、希望・民進案では、「パワーハラスメント」から従業員を保護する使用者責任が盛り込まれるなど、対案も党によって個性的だ。

昨年の総選挙以降、バラバラになったままの野党だが「どういった層から支持を受けたいのか」という路線の違いが、このような対案の中身に現れているともいえる。

 与野党を問わず「どの党がどういう主張をしているかわからない」という方は、この法案をめぐる国会での各党の質問や主張を、自分の経験や考え方と重ね合わせて聞いてみると、1つの指標になるかもしれない。

「働き方改革」の議論が日本社会の将来像を決める

ここからは、国会での論戦にとどまらず、より大きな視野で、「働き方改革」を捉えてみる。

そもそも、なぜ今、「働き方改革」の議論が浮上してきたのだろうか。
このことを考えるうえで重要なのは、「働き方改革」の議論が私たちの日々の生活に深く影響するだけなく、日本社会の将来像をめぐる議論という要素もあるということだ。

「なぜ今か」の答えの1つは「少子高齢化」の進行だ。

労働力の中心を担う「生産年齢人口」は2029年に7000万人を割り、2065年には、4529万人になると推計されている。(内閣府「平成29年高齢社会白書」)。
労働力が大きく変わる中、これまでと同じような「働き方」をそのまま続けることは困難な状況だ。

 一方で、「働く人のニーズ」が多様化している。
必ず一定時間の勤務を行わなければならず、その労働時間に対して対価が支払われる、という仕組みは、例えば「仕事より個人の時間を充実させることを優先させたい」と考える若者、「子供と過ごす時間と仕事を両立させたい」と考える子育て世代、あるいは「現役世代ほどは無理だが、自分の健康に影響がない範囲で仕事をしたい」という高齢者にとっては、働きにくい仕組みだ。

また、急速に発達を続けるAI=人工知能などの技術が、将来の労働環境になんらかの影響を与えることは疑う余地がない。

こうした状況を背景に、「働き方改革」の議論が始まっている。

基本的な考え方は、問題が表面化している長時間労働を是正しつつ、これまでより生産性=労働効率を高めることや、これまで働くことが難しかった高齢者や女性に雇用を拡大することで、新たな労働社会についての制度設計を図ろうというものだ。

 一方、この考え方の裏返しとして、「建前」の労働時間の短縮のみが図られて、人員の補充がなされないまま同じ成果を要求されれば、生産性=労働効率の向上だけでは解決するのが困難なため、「実態」は長時間労働なのに、そのことが闇に紛れしまうのではないか、との懸念も当然だ。

この2つの見方が、「働き方改革」をめぐる意見の対立や溝の要因の根本にあるといえる。

 国民自身も考えよう!未来の日本の「働き方」は

少子高齢化やAIを例に挙げた通り、「働き方改革」の議論は、現在の労働に関する状況だけでなく、将来の労働環境の変化を見据えたものになっている。
問題の本質を突き詰めると、日本が目指すべき社会はどういったものか、ということに至る。

実際に現在、議論の俎上に上がっている改革案をめぐっては、日本のこれまでの社会の「仕組み」に及ぼす影響について、様々な視点から指摘や懸念があがっている。

 1つは、長時間労働の是正を重視するあまり、日本型の終身雇用制度の下で機能してきた若手の育成システムが壊れてしまうのではないか、というもの。

これは、職歴をもたないような新人に対し、日々の業務そのものを教育の材料として、一定の水準に達するまで何度もやり直させることなどを通じて、自覚や技能を習得させるような「新人教育法」をめぐる議論だ。

近い将来、長時間労働を危惧して職場の管理責任者がこのようなやり方を避けると、日本型の職業訓練システムが失われる一方、それに代わる育成システムが不明確だとの指摘があがっている。

2つ目は、日本に数多く存在する中小企業・小規模事業者の経営が立ち行かなくなるのではないか、との懸念だ。

たとえば、限られた人数を雇い、かつ専門的な技能を必要とするような仕事を請け負う「町工場」では、納期を目前にした大きな仕事があった際に、労働時間の上限を絶対的に守ることが、現実には困難だとの見方だ。
こうした立場からは、他の先進国にならった「働き方改革」により、「中小企業は日本の活力」という土台が崩れる危険性が懸念されている。

 これまでの「働き方」を見直す以上、日本社会そのものになんらかの変化をもたらすことは間違いない。

今回の法案に限らず、「働き方改革」の内容、そしてどのように組み合わせるか次第で、変化の仕方も違ってくるだろう。
裏を返せば、どのような将来像を描くかによって、「働き方改革」の中身が定まるともいえる。

国会審議では大きなビジョンを示せ

これから本格化する国会審議では、この問題を「政争の具」とすることなく、与野党ともに充実した論戦が望まれる。
とりわけ、具体的なデータや証言に基づく議論がなされるべきだ。

一方、これまでの国会の論戦では、改革を通じてどのような社会を目指すのか、という将来像について、国民に明確に示されているとは言い難い状況だ。
この点については、今後、政府はもとより野党側も、細部の議論に終始するだけでなく、大きなビジョンを掲げて対峙する姿勢が望まれる。

最後に、日々の生活に密接に関係し、将来の日本社会のあり方に影響する課題だからこそ、国民の側も審議の行方に注目する必要があるといえる。

【フジテレビ 政治部・野党担当キャップ 古屋宗弥】

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