【働き方改革】診察をしない「産業医」は従業員の敵か?味方か?

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  • 「産業医」とは”診察・治療をしない医師”
  • 一般の医師とは大きく異なる「産業医」のミッションと権限
  • 「働き方改革」推進には、産業医の育成が課題

「産業医」とは”診察・治療をしない医師“

国を挙げて進められる「働き方改革」。
「働き方改革実行計画」では、「産業医」は権限を強化され、改革の後押しを求められています。

そして、長時間労働への対策、メンタルヘルス対策、治療と仕事の両立支援などが重点項目とされています。
つまり、企業が産業医を選任し、活用することが強く求められている訳です。

とは言え、「産業医」と言う職業は一般的にはよく知られていないかもしれません。

産業医の仕事には、大きな特徴があります。
それは、病気の診断をしたり、治療をしないこと。
そもそも産業医は、「診察」という行為を行いません。
そこが、一般のクリニックや病院の医師との大きな違いです。

ミッションと権限

では、産業医は何を行うのかと言うと、「診察」ではなく、従業員の健康状態や業務への適性を評価する「面談」です。

その上で、「◯◯病の疑いで治療が必要か否か」「就労が可能か否か」「労働時間の制限や配慮の必要性」などを、産業医の立場から評価します。

医学的見地から、従業員の健康状態を判断し、中立な立場で、企業と従業員、双方にとって最善の策を出すのが、産業医のミッションなのです。

正しい判断・評価をするため、産業医には情報収集の権限が与えられました。

企業には、残業が月100時間超の従業員の氏名などの産業医への報告や、健康診断やストレスチェックで異常が見つかった従業員に関する情報提供が義務付けられています。

従業員を追い込む『ブラック産業医』の存在

しかし昨年来、「メンタルの不調等で休職した従業員が回復してきたにもかかわらず、産業医がさまざまな理由を付けて復職させないために退職に追い込まれた。これでは企業と結託した『ブラック産業医』ではないか」等と、トラブルになるケースがありました。

昨年、弁護士らが厚生労働省に申し入れを行った事例では、本人と面談を1回しただけの産業医が、「統合失調症」「混合性人格障害」など、本人が一度も受けたことのない病名の診断をし、復職不可との判断をしたとしています。

しかもこの産業医は精神科の医師ではなかったとのこと。

これが事実なら極端な逸脱行為と言わざるを得ません。
先述したように、そもそも産業医は病名の診断はしないからです。

本来の産業医としての役割を果たしたとも言えないでしょう。

良好な「働き方」を左右する産業医の判断

多くの産業医は、従業員の今後や生活のことを考慮し、「復職」するにはどうすればいいかを、まずは念頭に置いています。

しかし、先ほどのような悪質な事例は論外としても、誠実に仕事をしている産業医が「ブラック産業医」では?と誤解される場合もあるかもしれません。

と言うのも、産業医には「復職したい」と言う従業員の意に反する判定を下さざるを得ない場合もあるからです。

産業医は、会社組織の中での本人の役割や仕事内容から、復職の可否を判断します。

場合によっては、従業員がかかっている主治医は復職可能としていても、産業医は復職できないと評価することもあり得ます。

と言うのも、復職判断が早すぎたために、復帰後 間もなく欠勤が相次ぎ、結果的に休職・復職を繰り返すケースがあるからです。
早すぎる復職が本人の負担となり、回復しつつあった疾患が悪化したりしたら取り返しがつきません。

そのため、復職判定には慎重さが必要なのです。

もちろん、産業医が復職不可とする場合は判断根拠を従業員に示し、それを基に復職に向けてどうしたらいいのかについて、面談を行っていく必要があります。

「働き方改革」推進には、産業医の育成が課題

「働き方改革」の中で産業医の役割は増していますが、現状では産業医を選任している事業所は全体で87%。
事業所の大部分を占める50人から100人未満の中小企業では、80.9%に留まっています。

その要因の1つは、産業医の圧倒的な不足です。

厚生労働省によると、現在産業医の養成研修・講習を修了した医師は約9万人いますが、そのうち実働しているのは3万人程度。

一方、産業医を必要としている事業所は、全国に16万カ所以上とされています。

「働き方改革」を進める中で、今後 産業医をどう育成していくかも重要なポイントかもしれません。

(医師 小林 晶子)

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